松下幸之助が55年前に謳った「株式の大衆化」…先物取引で家を失う
“経営の神様”と謳われた松下幸之助氏は、「国民のすべてがどこかの会社の株主であるというところまで持っていければ、これに越したことはない」と述べ、積極的な株式投資を推奨した。経営コンサルタントの小宮一慶氏は、その背景に「日本の繁栄を願った松下さんの思想がある」と話す――。
60年代に株式の大衆化を提言した松下の先見性
松下幸之助さんはいまから半世紀以上前の1967年、自身がつくったPHP研究所が出版した雑誌の中で「株式の大衆化で新たな繁栄を」と題した提言を行いました。これは要するに、「みんなで株を買って、みんなで繁栄しましょう」という考え方です。
そもそも松下さんが提唱した「PHP」、これは“Peace and Happiness through Prosperity”の頭文字を取ったもので、「繁栄によって平和と幸福を」という意味を表します。松下さんの思想の根底に、国民一人ひとりが豊かになり、国が発展していくことへの願いがあるんですね。
それまでごく一部に偏在していた株を大衆が保有できるようになったことについて、松下さんは「資本主義の一歩進んだかたち」と高く評価しました。国民が豊かになるためには、株式投資をして、自分が投資した会社が成長することが重要だと考えていたんです。
ただ松下さんが推奨していたのは一つの会社の株を長く保有することで、短期の投資には否定的でした。これには松下さんの生い立ちが関係しています。
米相場に手を出して、家を失った
元々松下さんは和歌山の裕福な農家に生まれますが、お父さんが米相場(米の先物取引)に手を出して破産。家も全部取り上げられ、小学4年生のときに大阪に丁稚奉公に出たという経験があります。さらに経営者になってからも、物価の不安定さが人の心を混乱させる様子を見てこられました。
松下さんが豊かさを求めたのは、繁栄そのものも重要ですが、豊かであることで人の心が安定するからです。私の人生の師匠である禅寺のお坊さんもよく「貧困は悪だ」とおっしゃっていましたが、貧しさは人の心を荒ませるんです。
国民一人ひとりが株主となれば、投資した会社の成長により株主である国民が豊かになり、社会も安定し、発展する。そんな松下さんの考え方は、いまこそ見直されるべきじゃないかと思います。
自社株を買わせ、会社の成長を実感してもらう
松下さんは、自分が働いている会社の株を持つことを勧めていました。その理由は、自社の株を保有することで自社への参加意識が高まり、会社の繁栄の果実を享受できるという理由が大きいです。それに加え、松下さん自身が自社株ですごく儲けた事実も影響していると私は考えています。
松下さんは生前、高額納税者の長者番付で計10回も1位を記録しています。それは自社株の配当によるところが大きかったんです。お亡くなりになったときの個人資産は2450億円にも上りますが、その大部分が松下グループの株式でした。
私自身、いろいろな株を買ってきましたが、一番儲かったのは