習近平の台湾統一「具体的手段」…蔡英文の日本に対する大きな期待と大きな不安(長島昭久「魂のインタビュー」第2回)

8月2日夜、米国政治ナンバー3の地位にあるペロシ米下院議員が台湾を訪問し、中国を大いに刺激した。すかさず中国は同月4日、日本のEEZ(排他的経済水域)に弾道ミサイル5発を打ち込み牽制。東アジアの緊張は、かつてないほど高まっている。
自民党の麻生太郎副総裁も31日、「沖縄、与那国島にしても与論島にしても台湾でドンパチが始まることになれば戦闘区域外とは言い切れないほどの状況になり、戦争が起きる可能性は十分に考えられる」と発言し、日本にとっても台湾有事は他人事ではない可能性を指摘した。
果たして、安全保障の専門家である長島昭久議員はペロシ訪台をどう捉えているのか。そして台湾有事は本当に起こるのか――。全3回の2回目
ペロシ訪台情報をリークしたホワイトハウス
――長島議員は7月27日から台湾を訪問されました。訪問団の一人として、蔡英文総統とも会談されています。
長島 台湾の危機感は非常に高まっています。蔡英文総統は、安倍元総理が生前、「台湾有事は日本有事」と述べていたことに触れ、「日本など民主主義国家と協力して、地域の安定に取り組んでいきたい」と述べています。
私も全く同感で、武力による現状変更はもってのほかですが、中国が台湾に圧力をかけることによって東アジアが不安定化したり、自由な行き来や貿易、交流などが阻害されるような事態は、なんとしても防がなければならないと考えています。
――日米の議員団が台湾を訪問することに「中国を刺激するな」と批判する声もあります。
長島 当たり前ですが日台間には国交がありません。しかし、国会議員同士が行き来して交流を深めることは、本来、誰に咎められることでもありません。
一方で、中国は「力と数の信奉者」ですから、日本や台湾はアメリカや韓国、欧州などを巻き込んで味方につけ、「力も数も中国よりこちらが上だ」と示し続ける必要があります。
我々が訪台した直後に、アメリカのペロシ下院議長が訪台したことに対し、中国はかなり過剰な反応を見せました。大規模な軍事演習を展開し、日本のEEZ内にミサイルを発射するなどしましたが、現在のところ、米中間の状況はコントロールされています。
人権や民主主義を重んじることを政治信条としてきたペロシ氏は、自身の下院議長の任期が近いことを理由に台湾を訪問したいと希望していました。下院議長は大統領、副大統領に次ぐ米政治のナンバー3の立場ですから、訪台によって発せられるメッセージの重さを意識していたのでしょう。
ただ、ホワイトハウスは今訪問することには難色を示しており、「ペロシ訪台」という情報をフィナンシャル・タイムズ紙にリーク。これによって訪台を阻止しようとしたのですが、むしろペロシ氏の態度は「絶対に行く」と硬化してしまいました。当然、中国は反発します。しかしそれはアメリカも織り込み済みで、訪台直前に行われた米中首脳電話会談で、お互いに「行動は示すが戦争したいわけではない」ことを確認し合っていました。つまり、お互いの出方は分かっており、状況はコントロールされていたのです。
――日本では「中国が大規模演習開始、ついに台湾侵攻間近か」というトーンの解説もありました。
長島 両国が互いにシグナルを送り合い、話し合うラインが残っているうちは、そう簡単には戦争にはなりません。今回も中国は、ペロシ氏が台湾を発ってから演習を始めました。ペロシ氏も南シナ海の上空を通らず、迂回して台湾へ降りています。お互いにある意味では〝歌舞伎〟を演じながら、互いの立場を示しているという状況です。