「プーチンですら原発を破壊していない」…電力会社にテロ対策を求める非現実な規制委(長島昭久「魂のインタビュー」第1回)

 安全保障の専門家として、自民党の保守系中堅議員のなかでもひときわ存在感を放っているのが、長島昭久衆議院議員だ。民主党政権時代には防衛大臣政務官および防衛副大臣として国防の実務を担った実績もある。

 ウクライナのロシア侵攻を受けてエネルギー危機が深刻化しているなか、エネルギー安全保障の観点からも、原発再稼働を支持する国民の意見は高まってきている。

 読売新聞社と早稲田大学先端社会科学研究所が実施した最新の世論調査では、規制基準を満たした原子力発電所の運転再開については「賛成」58%が「反対」39%を上回り、同じ質問を始めた2017年以降、計5回の調査で初めて賛否が逆転した。

 岸田総理も8月24日、「特に、原子力発電所については、再稼働済みの10基の稼働確保に加え、設置許可済みの原発再稼働に向け、国が前面に立ってあらゆる対応を採ってまいります」と発言するなど、積極姿勢を見せている。

 原発再稼働の是非について、安全保障の観点から語れる希有な現職政治家である長島氏に、みんかぶ編集部が聞いた――。(全3回の1回目)

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「脱原発」のドイツですら、原発再稼働に世論は傾いている

――連日、猛暑となった真夏を何とかやり過ごし、電力需給逼迫(ひっぱく)の危機は去ったかに思えます。

長島 実際は、深刻な状況が続いています。現在進行形で、より深刻化しつつあると言った方が正しいかもしれません。猛暑でエアコンをつけるご家庭が多くなることによる電力逼迫、その一方で節電だと言ってエアコンを消すことで熱中症患者が増える、という意味での〝危機〟は確かに去りましたが、ひと安心というわけにはいきません。

 猛暑日というのは当然、晴れているので、太陽光発電の発電量が多くなります。しかし、9月に入ると秋雨前線による長雨や台風の影響によって日照時間が短くなるため、太陽光発電の発電量は減ってしまいます。再生可能エネルギーの最大の問題は、太陽光発電や風力発電などで気候が発電に適している間に発電した電気を貯めておけないことで、天気によって発電量が上下してしまう以上、再エネをベース電源とするわけにはいかず、必ず火力発電のバックアップを必要とします。

 しかし、その火力発電も世界的な危機にさらされています。2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナへの侵攻と、それに対して行われている対ロ経済制裁で、ロシアからの天然ガスなどの購入を止めたために、それ以外の産地の燃料が取り合いとなり、エネルギー価格が高騰。天然ガスや原油をロシアからの輸入に頼ってきた欧州各国はエネルギー政策の転換を迫られています。

 特にドイツは、これまで「脱原発」を掲げてきた「緑の党」を含む連立与党が政権を担っているにもかかわらず、原発政策の見直しを国民から突き付けられています。2022年末に運転停止する見込みの原発の稼働を延長しろという声が日に日に高まっているのです。

 日本も他人ごとではありません。日本では原発の稼働が全国で5基程度にとどまるなか、本来であれば脱炭素の流れに反する「エコではない」火力発電に頼らざるを得ず、しかも老朽化した火力発電所を無理やり動かして、電力需給を何とかまかなっている状態です。

 しかも日本は火力発電の燃料になる天然ガスのほぼすべてを輸入に頼っていますが、そのうちオーストラリアからの輸入は約4割。しかしオーストラリアもロシア発のエネルギー危機で国内の天然ガス・石炭需要を満たせなくなる見通しから、輸出制限を検討し始めています。そうなれば、火力のバックアップ力も低下する中で、いよいよ日本の電力逼迫は抜き差しならない状態に陥ることになります。この危機を回避できるのは、原発の再稼働だけです。

日本国民も原発再稼働を求め始めた

――岸田総理は今年7月14日に「原発9基を再稼働させる」と発表しました。実際は「現在運転中の5基を含め、今後2022年中に既に再稼働が決まっている4基が予定通り稼働される」ことを指しているのであって、さらに追加で再稼働させるわけではないとわかりましたが、これをどう受け止めていらっしゃいますか。

長島 確かに7月の発表については「再稼働、と言っても元々の予定を改めて述べただけじゃないか」という批判もありましたが、私は総理が「原発を再稼働する」という明確なメッセージを改めて発信したことに、大きな意味があると思っています。

 総理の発表直後に行われた世論調査でも、原発再稼働に関するかなりポジティブな結果が出ました。時事通信が7月15日から18日に実施した世論調査によれば、「電力不足を解消するため、安全性が確認された原発の再稼働」について尋ねたところ、「賛成」が48.4%、「反対」は27.9%、「どちらとも言えない・分からない」は23.8%だったと発表されています。こうした国民世論の変化を受けてのことか、岸田総理は8月24日には、新規7基の追加の再稼働だけでなく原子力発電所の「新増設」についても検討するよう指示したと報じられています。国民にとって本当に重要な政策は臆さず進めていくという総理の姿勢の表れでしょう。

 2011年の東日本大震災で原発事故を経験してから11年。原発政策は一部から猛烈な批判を受けやすいイシューですが、ようやく当初の「原発事故の衝撃」を国民が乗り越えて、現実的な選択ができるようになってきたのではないでしょうか。

 もちろん再稼働は安全基準をクリアしていることが大前提です。しかし日本の電力会社は世界一厳しい安全基準をクリアし、地元の承認も得られている。にもかかわらず、本来電力会社が対処すべきとも思えないテロ対策項目など、非現実的な難題をつきつけられ、再稼働できていないのが現状です。もし安全審査を通過した原発を何基かでも追加で再稼働できれば、冬の電力消費のピークも、不安なく乗り切ることができるでしょう。

「電力爆消費時代」を迎える日本で、原発再稼働は不可避

――「電力をどの手段によって生み出すか」という政策は科学の話であり、本来は政治色の薄いもののはずです。しかし実際には、イデオロギー的な色もついてしまっています。「自民党が原発賛成なら、こちらは反対だ」といったような、電力逼迫という目前の危機を度外視した政争の具になっている面もありますか。

長島 おっしゃる通り、政局の面は否定できません。もちろん、2011年の福島原発事故の衝撃や、「原子力村」に対する怨念のようなものもあります。確かに事故前までは、原発は日本の国策として海外に売り出そうという、ある種のピークを迎えていました。悪い言い方をすれば原発業界が「幅を利かせていた」ために、それを面白く思わなかった人たちもいます。

 しかし原発事故から11年。もうそんなことを言っている時期ではありません。何より直視すべきは、日本がこれからさらなる「電力爆消費時代」を迎えるという現実でしょう。脱炭素社会を目指すのであれば火力発電は縮小しなければなりませんし、電気自動車を走らせるにも大量の電力が必要です。民間だけでなく公的機関もDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めようとしているなかで、やはり電力は絶対的に必要です。

 電力逼迫は論外ですが、火力発電燃料費や、再エネのFIT(固定価格買い取り制度)による電気料金の高騰も無視できません。FITは再エネ普及のために定められた制度ですが、この買い取り費用は私たちが支払う電気料金に上乗せされており、今では実に約2兆7千億円、つまり国民一人当たり年間2万円を負担していることになります。

 電気料金の高騰は産業抑制、産業競争力の低下につながるだけでなく、工場やデータサーバの海外移転を促進します。一昨年、LINEのデータ流出問題が起きましたが、これも日本の電力料金が高いからこそ起きている問題ともいえます。日本にサーバを置くと電気代がかさむので、海外に置いたところ流出問題が起きた。

 常時接続、常に電源が供給されていることが前提となっている社会では、電力政策の失敗は産業政策、経済安全保障上の大問題でもあるのです。

悪魔のようなあのプーチンでさえ、原発を「破壊」していない

――政争で反対している人は別としても、やはり原発は「怖い」という人たちもいます。そういう声にどうこたえていけばいいのでしょうか。

長島 反対の声にはしっかり向き合うとともに、やはり原発を抱える地元の理解を得ることが何よりも重要だと思います。多少、手前みそになりますが、民主党政権末期の野田佳彦総理、そして原発担当の細野豪志担当大臣が自ら、原発立地の首長さんたちに頭を下げて、「どうか再稼働にご理解いただきたい」と合意を求めたのは、素晴らしいリーダーシップの発揮の仕方だったと思っています。もちろん、地元だけでなく電力逼迫の危機的状況、そのしわ寄せを受けかねない産業や経済への影響、安全基準をクリアしていることなどを、意を尽くして国民の皆さんに説明していくことが重要なのは大前提です。

――反対派の声の中には「原発があると北朝鮮や中国にミサイルで狙われる」というものもあります。

長島 確かにロシアもウクライナ侵攻中にウクライナ国内の原発を占拠し、攻撃を加えるそぶりを見せています。しかしむしろ実態を見れば分かるように、原発を相手に押さえられるような状況になるのは、敵国からの全面侵攻を受けたときであるというのが一つ。

 そしてもう一つは、核の使用までちらつかせるロシアでさえ、決定的な破滅を招くような原発への攻撃をしてはいないということです。挑発はしても、決定的な攻撃は加えていない。原発を攻撃すれば、国際社会からの非難はこれまで以上に高まり、国際政治の舞台から去らざるを得ない状況を招くことは、さすがのロシアも理解している。

 もちろん、原発を狙われるリスクがゼロとは言いませんが、原発を持っていることだけが安全保障上の決定的なリスクであるかのように指摘する一方で、それ以外の日本の安全保障上の備えは批判する、というのはどうなのか。まさに「為にする議論」であり、フェアではありません。

 原発事故や攻撃を受けるリスクだけでなく、電力逼迫のリスクや燃料高騰などの経済的影響も含め、どのリスクをどの程度に見積もるのか、バランスよく総合的に判断したうえで、再稼働に踏み切るべき状況に来ているのではないでしょうか。

この記事の著者
長島昭久

自由民主党衆議院議員(7期、東京18区: 府中、小金井、武蔵野市)。衆院拉致問題特別委員長。防衛副大臣、総理補佐官、衆院安全保障委員長など歴任。慶應義塾大学大学院および米国ジョンズ・ホプキンス大学SAISで修士号取得。

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