日本は度重なる増税で低成長国家になってしまった…「政府は国民からカツアゲする金を減らせ」

 「政府に財政の制約はない。大胆な財政出動が必要」と話すのは、株式会社マネネCEOで経済アナリストの森永康平さんだ。「国はどれだけ借金をしても問題はない」との立場に立ち、短期的および中長期的な目線から、今この国に本当に必要な施策について、学生との対談形式でわかりやすく解説する。全3回中の3回目。 

※本稿は森永康平著『「国の借金は問題ない」って本当ですか?〜森永先生!経済ど素人の私に、MMTの基本を教えてください。』(技術評論社)を抜粋、編集したものです。 

第1回:岸田総理「令和の大増税」の悲劇…森永康平「国の借金がいくら増えようが、財政破綻はしません」
第2回:瀕死の日本に増税は本当に必要なのか? 森永康平が経済ど素人にモノ申す「国の借金は円の発行履歴でしかない」

▽登場人物 

森永先生:大学で経済学を教える先生 
中村くん:日本経済と自身の将来に不安が絶えない大学4年生 

国は大赤字でも問題ナシ 

森永:現在の日本は、度重なる消費増税、誤った貨幣観から行われた緊縮財政、そこに襲ってきたコロナ禍により、先進国では考えられないほどの低成長国家になっています。給料は上がらず、非正規雇用は労働者の約4割に達し、「老後には2000万円の資産が必要」と言われてしまう。 

 一方で、年金の支給額は減らされ、税金は上がっていく。これでは、一般家計は節約が正しい行動になるわけです。しかし、その結果として経済は縮小均衡していく。これを「合成の誤謬」と言います。 

 そうなると、企業はモノやサービスの値段を下げて販売数を稼ぎ、売り上げを維持しようと考えます。しかし、2022年のコストプッシュインフレでもわかる通り、仕入れとなる原材料の価格はそう簡単に下げられるものではありません。 

 そこで企業は、人件費を下げます。給料を上げない、ボーナスを出さない、正規雇用を非正規雇用に切り替える、安い値段で外部発注するなど、とにかくコストを下げる方策に走ります。しかし給料を減らされた従業員は消費者でもありますから、よりお金を使わなくなる。 

中村:実家に住んでいる僕ですら「節約しよう」と考えているくらいですから、ほとんどの国民がそう考えていますよね。 

森永:いま日本では、企業や家計といった「民間」という経済主体がお金を使わない状態です。いきなり輸出が爆発的に伸びることも考えにくいため、「海外」にも期待はできないでしょう。 

 となると、残る経済主体は政府しかありません。政府には財政的な制約はないのですから、まずは政府が大胆な財政出動をして、積極的に赤字を負う必要があります。 

まずは「減税」と「現金給付」 

中村:具体的にはどんな政策をとればいいのでしょうか? 

森永:政策は短期、中期、長期で考えるといいでしょう。短期的には、減税と現金給付です。コストプッシュインフレは国内だけでは止められませんし、かといってコストが上がった分を企業がすべて価格に転嫁できている状況でもありません。 

 続々と値上げが続いていますが、それでも企業が価格転嫁せずに他のコストを削って吸収している部分は多いんですよ。もちろん人件費もその1つです。

中村:2022年の値上げだけでも相当キツかったのに、まだ価格上昇の余地があるんですね。 

森永:この状況で企業に「給料を上げろ」と迫っても無理な話です。となれば、まずは政府が減税をして国民から取り上げるお金の量を減らし、現金給付で国民の可処分所得を直接増やす以外に、国民生活を助ける方法はないでしょう。減税する税金は、多くの国民に関わるものがいいでしょうね。 

 消費税は逆進性が強い税金ですから、廃止すれば反対に低所得者の方が恩恵が大きくなります。高所得者もほぼすべての買い物が10%OFFになるので、国民ほぼ全員に恩恵があると言えるでしょう。そのほかにも、ガソリン税、住民税、社会保険料など、減税できる項目はいくらでもあります。地方自治体の税収が足りなくなるなら、政府からの地方交付税交付金を増額すればすむ話です。 

中村:なるほど。現金給付の方はどうでしょうか? 高所得者に現金を渡す必要はないと思いますが……。 

森永:それでも全国民に一律給付がいいでしょう。なぜなら、「高所得者」「中間層」「低所得者」という線引きは、ほとんど不可能だからです。これはコロナ禍で現金給付が検討された際に、「本当に困っている人」の区別を行ってしまったことと同じですね。 

中村:なぜでしょうか? 例えば「年収2000万円未満の人」とラインを区切って、国民の合意を得れば、一律でなくてもいいと思いますが……。 

森永:その場合、年収2000万500円の人は給付の対象外になりますが、1999万円の人は給付されます。両者の違いはなんでしょうか? 

中村:そ、それは……わからないです。 

森永:わからないですよね。私もわかりませんし、中村くんが提案した「年収2000万円」に明確な根拠を説明できる人はいないでしょう。またコロナ禍の被害で言えば、年収2000万円の人が1500万円に減ってしまった、ということもあり得るわけです。 

 「年収1500万円」だけ見れば、まだまだ裕福に見えるかもしれませんが、「500万円の減収」と考えるととんでもない額ですよね。そういう人たちは困っていないのでしょうか? このように考え出すとキリがないんですよ。僕は全国民一律の現金給付が最善だと思いますね。 

中村:なるほど……どんな区切りをつけるかという議論にも時間がかかりそうですもんね。 

森永:おっしゃる通り。今の日本経済は早急な対策が必要ですから、すぐに減税と現金給付が必要です。「どのラインが高所得者か、誰が困っているか」なんて議論をしている間に、困窮した国民は自死や無差別犯罪を決断してしまうかもしれない。それくらい事態は切迫しています。 

 もちろん国民の中には、コロナ禍でもまったく困っていない人、むしろ収入が増えた人もいます。そういった方や富裕層は、すでに十分なお金を持っているわけですから、現金給付をしても意味がないように見えるかもしれません。しかし、臨時収入が入ったから外食に行く、ブランド品を買うなど、何かしらの消費行動を喚起する可能性は高いです。 

 それはほかの誰かの所得になるわけですから、回りまわって生活困窮者にもお金が届くことになります。もし配った現金を使わなかったのであれば、後々税金として徴収してしまえばいいだけなのです。 

数十年規模の公共事業を展開せよ 

森永:次に必要なのは、中長期的な政策です。「この事業を何十年かけて行います」というコミットメントをする必要があります。「コミットメント」とは、「公約、約束」といった意味です。例えば「この先30年かけて100兆円を支出し、全国の高速道路を整備します」と宣言することですね。 

中村:それを行うと、どんな効果があるんでしょうか? 

森永:政府が「今後30年かけて事業を行います」と宣言すれば、その事業を受注する企業は30年先まで売り上げの見通しが立ちますよね。これが重要なんです。 

 先の見通しが立てば、政府からの事業を受注する企業は、事業の大きさを計算して人員を補充することもできますし、機械を購入するなどの設備投資もできます。いま手元に資金がなくても、「政府から今後30年の売り上げが見込める」となれば、銀行から融資を受けることもできるでしょう。長期的な事業があることは、民間企業にとってとても重要なことなのです。 

中村:なるほど、たしかにずっと先まで仕事が決まっていれば、計画性を持って企業経営ができますよね。 

森永:その通りです。安定した雇用は、安定した経済を生み出します。もちろん市場の競争が新たな商品を生み出す場合も多いのですが、少なくともデフレスパイラルに陥っている現在の日本では「安定」の方がはるかに大事なのです。 

 また30年かけて行う事業となると、事業開始時点で40代後半の従業員などは最後まで携わるのが難しいので、若い世代に技術を継承することが必要になります。こうした継承はどんな事業でもとても大事で、長い時間をかけて蓄積されたノウハウを継承し、さらに科学技術の発展によって効率化させることで、生産性を上げていくのです。 

中村:ふむふむ……。 

森永:それから、現状の日本では、短期で数十兆円のような予算を消化できるような生産能力がないことも、長期コミットメントが必要な理由の1つです。全国の道路網を整備するのに30兆円が必要でも、1年ですべて整備しきるのは不可能ですよね。 

 また、少子高齢化のために介護職員が今後大量に必要になりますが、介護には特定の技術が必要ですし、どんな介護を行うかによって必要な資格もバラバラ。大量の人材を育成するには、時間もお金もかかります。 

 さらに近年は、毎年夏になると記録的な豪雨に見舞われ、全国のどこかで深刻な水害が発生しています。川の氾濫を防ぐような堤防の整備が不可欠ですが、どれもこれも1、2年で解決するのは不可能な課題ばかり。だからこそ、長期のコミットメントが必要なのです。 

中村:そして、変動相場制を採用する自国通貨を持つ政府、つまり日本政府には財政的な制約がないのだから、長期の支出をすることになんの問題もない、というわけですね。 

森永:その通りです。

森永康平著『「国の借金は問題ない」って本当ですか?〜森永先生!経済ど素人の私に、MMTの基本を教えてください。』(技術評論社)
この記事の著者
森永康平

証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。業務範囲は海外に広がり、インドネシア、台湾などアジア各国にて新規事業の立ち上げや法人設立を経験し、事業責任者やCEOを歴任。その後2018年6月に金融教育ベンチャーの株式会社マネネを設立。現在は経済アナリストとして執筆や講演をしながら、AIベンチャーのCFOも兼任するなど、国内外複数のベンチャー企業の経営にも参画。著書は『スタグフレーションの時代』(宝島社新書)や父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)など多数。

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