統一教会「韓国・財閥としての顔」日韓トンネル利権の仕組み…なぜ女性入信者は「統一原理」に惹かれるか
連日、テレビをにぎわしている統一教会。統一教会はキリスト教系の新宗教に分類されてはいるものの、その教えは一般のキリスト教のそれとはかなり異なっている。救い主を文鮮明夫妻と位置付ける異色の宗教はどのように大きくなり、金を集めてきたのか。また、政治とはどのようにかかわってきたのか。宗教学者の島田裕巳さんが詳しく解説する。全4回中の1回目。
※本稿は島田裕巳著『新宗教 驚異の集金力』(ビジネス社)を抜粋、編集したものです。
第2回:公称550万部!朝日新聞より売れる「聖教新聞」…創価学会の驚異的な商材ビジネスモデル
第3回:新宗教信者が「つい献金したくなる」キラーフレーズ…なぜ金を支払うことが快楽につながるのか
統一教会の資金源は日本
統一教会から派生した国際勝共連合(以下、勝共連合)にしても、世界平和教授アカデミーにしても、あるいは、1995年(編集部注:公式HPでは1991年)に創立された「世界平和連合」、2005年に創立され、安倍晋三元首相がビデオメッセージを送った「天宙平和連合」も、収益を上げる活動を行うものではなく、膨大な活動費を必要とする。
結局は、こうした運動体の資金源になったのが日本の統一教会だった。統一教会は、韓国で生まれ、その後日本やアメリカをはじめ世界に進出していくが、霊感商法や過剰な献金集めを行ったのは日本の統一教会に限られる。
勝共連合は、政治資金規正法による政治団体として、その収支を東京都に報告している。令和元年分の報告では、収入総額が前年度の繰越金を含め約5100万円で、支出は約4800万円である。主な収入は機関誌の発行によるもので、支出も機関誌関係が半分以上を占めている。勝共連合の各県本部も報告を行っているが、収入も支出も決して多くはない。京都府本部など10万円にも満たない。多いところでも100万円には達していない。
比較のために示せば、日本共産党中央委員会の同年度の収入は約203億円、支出は約199億円である。統一教会の他の関連団体となると、国連NGOであったりして、収支はまったく明らかになっていない。
勝共連合が結成された時、名誉会長となった笹川良一は、巣鴨プリズンを釈放された後、モーターボート競技(競艇)に関心を持ち、社団法人全国モーターボート競走会連合会の結成に尽力した。笹川は、その収入をもとに、日本船舶振興会(後の日本財団)を立ち上げ、社会的な影響力を持つに至る。勝共連合の初期の時代には、笹川が自ら所有する研修施設を原理研究会(以下、原理研)に貸していた。
しかし、笹川は、すぐに勝共連合の活動から手を引いてしまった。それは、勝共連合にしてみれば、かなり痛手だったのではないか。それでも1970年代、左翼の政治運動、学生運動が盛んだった時代には、それに対抗する勝共連合は、ある程度の資金源を確保できたものと思われる。
だが、時代は次第に反共運動を必要とはしなくなっていく。左翼の政治運動の停滞は大きかった。統一教会による霊感商法や、多額の献金集めが行われるようになるのは、左翼の政治運動が大衆性を失った1980年代に入ってからのことである。
「自らの罪深さ」が献金の源泉
統一教会の信者の場合、入信の動機には二つの傾向がある。一つは、1970年代を中心に、反共運動に共感し、統一教会に入信していった人間たちだ。彼らは、勝共連合や原理研の活動に関心を持って近づいたのである。
もう一つは、そうした政治的な側面に関心を持たない信者である。合同結婚式に参加する女性たちには、そうした信者が多い。彼女たちは、もっぱら統一原理という教えにひかれて統一教会に入信していったのである。
ではどこにひかれるのか。それは、『原理講論』で説かれる堕落論であり、それに伴う復帰の考え方だ。自分は罪深い、あるいは世の中は罪に満ちあふれていると感じることで、統一教会に接近し、入信していく。
特にバブルの時代には金余りの社会風潮のなかで、性(セックス)ということに強い関心がむけられた。過度なセクシーさ、あるいは性欲の強調は、そうした時代風潮についていくことができない人間たちを生んだ。
オウム真理教の最盛期もバブルの時代だが、ヨーガの修行によって性欲が昇華されることが説かれ、そのための方法が実践された。安倍元首相を狙撃した容疑者の母親は、1991年に統一教会に入信している。複雑な家庭背景があるようだが、まさにそれはバブルの時代だった。
献金も、自らの罪深さの自覚と結びついている。特に統一教会では、日本が戦前に朝鮮を併合していたことが罪深い行為であり、朝鮮を支配した償いとして日本人は多額の献金をし、それを韓国の統一教会に送る必要があると説かれた。献金は、さまざまな点で贖罪(しょくざい)と結びついたのである。
霊感商法と信者からの高額献金が、統一教会の関連団体の活動を支えた。そうした団体が開くイベントには、自由民主党を中心に政治家が招待された。あるいは、統一教会の信者は、選挙活動を手伝い、ときには秘書を送り込むこともあった。
しかし霊感商法で持ち出されるのは、先祖の因縁や祟りである。血統といった統一教会の教義も一部活用されたが、基本は必ずしも教義に結びつかないものである。しかも、マニュアルが用意され、高額な壺(つぼ)や印鑑を購入させるための手口が確立されていた。そのため、1993年の福岡地裁を皮切りに、統一教会の教団としての使用者責任を認める判決が次々と出されることになった。
これは、統一教会を追い詰めることになり、教団はコンプライアンスの徹底を求められることとなった。それでも、霊感商法の被害は続いているとされる。教団の不法行為が裁判所で認められた以上、統一教会に対して宗教法人の解散が命じられても不思議ではなかった。実際、1995年に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教は、解散命令を受けている。
この事件をきっかけに宗教法人法の改正が議論になり、実際に法改正が行われ、役員名簿や財産目録の保管に加えて、それらの写しの提出が義務づけられるようになった。逆に言えば、それ以前には、そうした書類の提出はいっさい求められていなかったことになる。
それでは、献金の実態はまったく把握できない。霊感商法における統一教会の責任が明確にされたのは、こうした宗教法人法の改正以前のことだった。判決の時期がもっと遅ければ、事態は変わっていたかもしれない。宗教法人を解散しろという声が、もっと高まっていたかもしれない。
あるいは今回は自民党との関係がさまざまに取り上げられ批判されているが、1990年代前半にはその点は問題視されなかった。今から考えれば不思議だが、当時の自民党は下野し、政権の座にはいなかった。だから統一教会との関係が騒がれなかったのだ。
利権とつながる統一教会
統一教会と金と言ったとき、もう一つ忘れてはならない事柄がある。それは、韓国における統一教会が財閥としての性格を持っている点である。日本では、戦後に財閥は解体されたが、韓国では各種の財閥が依然として活動している。とくにサムスンやロッテなどの10大財閥が有名である。
規模の小さな財閥や企業のなかには、宗教と結びついたところがある。300人以上の犠牲者を出した大型旅客船、セウォル号を運行していた清海鎮海運のオーナーは、終末論を説く新宗教の教祖だったことがあり、信者の集団自殺事件も起こしていた。
統一教会が手がけた大規模な事業としては、「日韓トンネル」がある。これは、1981年に文鮮明が提唱したもので、2008年には、九州に地盤をおく自民党議員などによる「日韓海底トンネル推進議連」も誕生している。統一教会側では、これに関連して「国際ハイウェイ財団」を設立しているが、その会長は勝共連合の会長が兼ねている。
日韓トンネルは途方もない事業で、その実現性については疑問の声が寄せられている。しかし、こうした事業が動き出せば、そこでは莫大な金が動くことになる。議員が群がってくるのも、利権に与(あずか)ろうとするからである。
東西の冷戦構造が崩れていけば、反共運動の存在意義は失われる。それを事前に意識してのことであろう。統一教会は1980年代からロシアで活動しており、90年4月には文鮮明が当時のゴルバチョフ大統領と会談を行っている。
さらに文鮮明は、翌1991年には北朝鮮に入国を果たし、金日成主席とも会談し、世界を驚かせた。北朝鮮としては、統一教会の提供する資金によって自動車工場などが建設されている。反共という理念よりも、ビジネスが優先されたのだ。
このように見ていくと、統一教会と金の問題が極めて複雑であることがわかる。政治家がかかわるのも、そこに利権の存在を感じとるからである。その分、根が深い。
世界基督教統一神霊協会にしても、世界平和統一家庭連合にしても、その名称のなかに、「統一」という文字が含まれている。朝鮮半島の統一は、韓国でも北朝鮮でも悲願であり、統一教会がそれを意識していることは間違いない。朝鮮半島におけるさまざまな利権、利害ということがあるからこそ、この教団は、一定の存在意義を有してきたのである。