タワマン文学作家・窓際三等兵「資本主義はもう限界」…早稲田卒・年収1000万円トップエリート「家も子供も持てない」誰がこの国の若者を殺したのか

タワマン文学のパイオニア・窓際三等兵氏は、作品を書く中で「経済的に裕福そうなトップエリートでも厳しい」都心暮らしの現実が見えてきたという。資本主義はやはり限界を迎えているのか。同氏が綴るーー。みんかぶプレミアム特集「資本主義の終わり」第三回。
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24年の日本の出生数は前年比5%減の72万998人で過去最少…10年前からは3割減
「子どもですか?多分、無理っすね。家が高すぎますよ」
目の前の若い男は、苦い表情でビールグラスを傾けた。早稲田大学を卒業し、30歳で年収1000万円を軽く超えるという超人気企業に就職。数年間の子会社への出向で経験を積んで本社へ復帰し、学生時代から付き合っていた彼女と結婚したという順風満帆の人生を歩んでいるように見える。しかし、その表情には諦観の色がにじんでいた。
家が買えないーー。近年、こうしたニュースを耳にするようになって久しいが、住宅価格の高騰が若年層に与えるダメージは深刻だ。東京23区の新築マンションの平均価格は1億円を超え、年収1000万円ではとても手が出ない水準となって久しい。会社の先輩たちが住んでいるような、湾岸エリアのタワマンなんて夢のまた夢だという。今後も妻と共働きで働き続けることも考えると、郊外に住むことは耐えられない。結果的に、子どもを持たないという選択肢を選んだという。
厚労省が2月下旬に発表した人口動態統計によると、24年の日本の出生数は前年比5%減の72万998人だった。統計開始以来最も低い数字で、10年前からは3割減となっている。価値観の多様化や晩婚化など理由を探せばキリがないが、膨大な人口を抱える都市部の住宅事情が子どもを産む上で大きな障壁となっていることは間違いないだろう。行政の手厚い補助にもかかわらず、東京都の合計特殊出生率は23年に0.99と、遂に1を割り込んだ。これらの数字が下げ止まる気配はない。
「地方の温泉旅館はインバウンドで儲かってウハウハ」は勘違いな理由
一方、東京に人を送り込み続ける地方はどうだろうか。先日、北関東で温泉旅館を経営する知人と話をする機会があった。インバウンドで儲かっているのではと下世話な想像をしていたが、実態は真逆で、「とにかく人が採用できないので営業を維持するだけで精一杯だ」という。
昔は旅館といえば地元の高校を卒業した子の雇用の受け皿として機能していたが、少子化でそもそも子供の数が減っている上、残った若者たちもかなりの数が東京へと吸い寄せられてしまう。穴埋めとして外国人社員を受け入れるのは一定規模の旅館でないと難しく、結局、パートのおばちゃんたちをフル回転させた上で、受け入れる客を絞ってなんとか経営を継続しているという。
資本主義システムが自ら死んでいく…物価の高すぎる東京に若い人が吸い寄せられてさらに少子化は進む
東京のマンションが高くなるのも、若い人が地方から東京に吸い寄せられるのも、すべては資本主義という仕組みに則ったものだ。東京のマンションはグローバルな投資商品として世界中からマネーを集める一方、地方には二束三文でも買い手がつかない空き家が増え、野ざらしの中で朽ちていく。地方で育った若者たちはキラキラと光る東京という街に吸い寄せられるが、同世代トップクラスのエリートでも手が出ないような法外な住居費に苦しめられ、再生産もできないまま静かに生殖適齢期を逃していく。
タコが自らの足を食べるかのようなグロテスクな社会のあり方だが、誰かが絵図を描いたわけでもなく、政府が命令したわけでもない。市場経済のゆりかごの中、個々人がそれぞれ自ら考え、判断して行動した結果だ。資本主義の発達によって生み出された最新のAIがホワイトカラーの職をいくらか奪うかもしれないが、エヌビディアの技術が過疎化した地方で布団の上げ下げや配膳をすることも、都会の人々の胃袋を満たすための食料を作ってくれることもない。当然、東京から人々が地方に戻ることもない。地方から徐々に社会の壊死(えし)は進んでいく。