「国会質問が低レベル」の指摘があっても、フェミニストの私がなぜ参政党を肯定するのか…リベラルが無視した「取り残された層の不安」

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 2025年の参院選で、参政党は14議席を獲得した。反ワクチンや日本人ファーストを口にしてきた党の支持率にSNSでは「どうかしてる」「陰謀論にハマった人の集まりだ」といった声もあふれた。臨時国会の最終日となった8月5日、参政党の神谷宗幣代表が予算委員会で初めて質問を行ったが、その質を疑問視する声もネットではあがった。シンガーソングライターの柴田淳氏が「こうやって低レベルな質問時間を浪費していくのですね…。相手にしなきゃいけない石破っちに同情します。そして、この時間に付き合わなきゃいけない議員の方々も同様です」などとコメントした。

 だが参政党に投票した人々の多くは、自分たちの不安や孤立感を“わかってくれる”という感覚に反応していたとライターでフェミニストのトイアンナ氏は分析する。「正しさ」では届かない感情を、政治はどう扱えばいいのか。既存政党やリベラル層が見落としてきた「取り残された声」とは何か。参政党躍進の背景を読み解いていく――。

目次

「陰謀論なんて信じない」50代が、参政党へ投票したわけ

「参政党に投票するなんて、どうかしてる」——そんな声をSNSで見かけることがある。確かに、反ワクチン論や陰謀論を掲げる政党への投票を理解できない人も多いだろう。だが、この現象を単純に「バカ」と切り捨てるなら、分断が深まり、ますます参政党へ投票する人が増えるだけだ。

 今回は2025年の参院選における参政党の躍進という現実に、正面から向き合いたい。

 田中さん(50代・製造業)は、これまで自民党に投票してきた典型的な中間層だった。しかし2022年の参院選では、初めて参政党に票を投じた。

「昔、反ワクチンの話を参政党がしていたときは、バカげてると思っていました。あれだけ世界中の科学者が全力を尽くして研究し、生まれた技術に疑問を持つだけでなく、チップで思考を盗聴されるなんて言い出す人もいますからね。でも、今回の選挙で『日本人ファースト』という言葉には……心、動きましたよね。最近、なんだか自分たちの居場所が狭くなっているような気がして……」

 田中さんの証言は、参政党躍進の背景を端的に物語っている。多くの識者が「まさか」と驚いたこの結果だが、予兆はあちこちにあったのだ。

 参政党の主張には確かに問題がある。反ワクチン論、5G陰謀論、そして一部の排外主義的な発言。これらは科学的根拠に乏しく、社会の分断を深める危険性を持つ。だが、こうした表面的な主張に注目するあまり、なぜ人々がこの政党に引かれるのかという根本的な疑問を無視してしまっては、問題は解決しない。

日本人ファーストを「排外主義」と切り捨てたリベラル

 なぜなら、参政党の真の武器は陰謀論ではなく、「日本人ファースト」というスローガンだった。このシンプルなメッセージが、ある特定の層に強烈に刺さったのである。外国の方に出て行ってほしいわけではない。でも、迷惑はかけないでほしい。特に、犯罪につながることはやらないでくれ。そういう、消極的な「NO」を端的に表したのが「日本人ファースト」というスローガンであった。

 しかし、これをリベラルは「排外主義」「差別」と一蹴した。迷惑をかけないでくれ、と願うことは差別ではないだろう。しかし、リベラルが参政党をそう切り捨てたことで、日本国内にも分断が広まった。「リベラルは、外国人を全員いいやつだと思っている」「参政党の支持者は、外国人を敵だと思っている」と、お互いに誤解したのだ。

 そのうえで、データを見てみよう。2024年末の在留外国人数は376万8,977人(前年末比35万7,985人、10.5%増)に達している。この10年間で約2倍に増加した計算だ。

不安が必ずしも事実に基づいているわけではない

「ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン」「多様性の推進」——こうした美しいお題目の下で進められた政策変更に、すべての国民がついていけているわけではない。製造業で働く中高年男性や、地方の小売業従事者、そして非正規雇用の単身者にとって、移民の増加は抽象的な「多様性」の話ではなく、自分の仕事が奪われるかもしれないという切実な不安として映る。治安悪化への懸念、文化的摩擦への戸惑い。これらの感情を「差別的だ」と一蹴することは簡単だが、果たしてそれで問題は解決するだろうか。

 実は、この現象は何も日本に限った話ではない。イギリスのEU離脱(ブレグジット)、アメリカでのトランプ現象、ヨーロッパ各国での右派政党の台頭。これらはすべて、グローバル化の恩恵を受けられない層の反発という共通の構造を持っている。

「自分たちの仕事が移民に奪われる」

「移民が自国のルールを無視して好き勝手やっている」

「治安が悪化している(ように感じられる)」

 こうした不安は、移民を受け入れたどの先進国でも観察される現象だ。重要なのは、この不安が必ずしも事実に基づいているわけではないということである。

インテリ層の“説得”が生んだ疎外感。参政党はその隙を突いた

「犯罪統計を見れば、外国人による犯罪は減少している」

「経済データを見れば、移民は労働力不足を補っている」

「少し調べればわかることじゃないか」

 インテリ層からはこんな声が聞こえてくる。確かに、客観的なデータを見れば、移民増加による治安悪化は統計的には確認できない。むしろ、全体的な犯罪件数は減少傾向にある。

 だが、ここに大きな落とし穴がある。人々の不安は、必ずしも統計データに基づいているわけではない。日々の生活の中で感じる「肌感覚」や「イメージとしての不安」こそが、投票行動を左右するのだ。

「データを見ろ」「調べればわかる」こうした正論で相手を論破したつもりになっても、不安を抱える人々の心には何も響かない。それどころか、「自分たちの気持ちを理解してくれない」という疎外感を深めるだけだ。そもそも「きちんと調べないとわからない」ようなデータの見せ方しかしてこなかった、リベラル層、インテリ層にこそ参政党躍進の責任の一端があるのではないだろうか。

「俺たちの話を聞いてくれる」正しさよりも、“近さ”の時代へ

 香川さん(仮名・40代・建設業)は「参政党の人たちは、少なくとも俺たちの話を聞いてくれる」と語った。参政党の成功は、必ずしも政策の正しさにあるのではなく、有権者の感情に寄り添う姿勢にあったということだ。

 一方で、既存政党や知識層は、正論を振りかざすことで相手を黙らせようとした。結果として、不安を抱える層はますます孤立感を深め、彼らの声に耳を傾けてくれる政党——それが参政党だった——に流れていったのである。

 では、どうすればよいのか。答えはシンプルだ。まず、相手の不安に共感することである。

「確かに、急激な変化で不安になる気持ちはわかる」

「私も最初は戸惑った」

「でも、調べてみたらこんなことがわかったんだよね」

 このように、相手の感情を一度受け止めてから対話を始めることが重要だ。人間は感情の生き物である以上、論理だけでは心は動かないのだから。

 そして14議席を参政党が獲得したからこそ、既存政党もこの流れを無視できなくなっている。自民党は水面下で国民民主党や参政党との連携を模索しているという観測もあるからだ。

リベラルは今こそ、不安に耳を傾ける時だ

 これは単なる議席確保の計算ではない。参政党が代弁する「取り残された層の不安」が、もはや無視できない政治的力を持ち始めていることの証拠だろう。もし既存政党がこの層の不安に応えられなければ、参政党のような政党がさらに勢力を拡大する可能性は高い。そして、その時に「また愚かな選択をした」と嘆いても、時すでに遅しである。

 相手を「愚か」と切り捨てることは簡単だが、それでは問題は解決しない。むしろ、分断は深まるばかりだ。参政党への投票を単純に「間違った選択」と決めつけることは、問題の本質を見誤ることになる。目を向けるべきは、目まぐるしく変わる世界のなかで、参政党へ投票した人が感じていた「不安」と「疎外感」だろう。

 それを「調べない方が悪い」と切り捨てる人と「そうですよね、不安ですよね」と聞いてくれる人がいたとしたら、私だとしても、後者の話を聞きたくなる。参政党のさらなる躍進におびえるくらいなら、今すぐ投票した人が抱えている不安に、「リベラル」を名乗る人間こそ、真摯に寄り添うべきなのである。

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この記事の著者
トイアンナ

PAX株式会社代表/ライター。外資系企業のマーケティング職として約6年間勤務し、フリーライターとして独立。恋愛とキャリアを中心に執筆しており、書籍に『モテたいわけではないのだが(イースト・プレス)』『確実内定(‎KADOKAWA)』『やっぱり結婚しなきゃ!と思ったら読む本(河出書房新社)』など。

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