消費減税は無意味だ!竹中平蔵「これでは『失われた30年』が再び日本を襲う」…外国人を受け入れ、無駄な年金を減らしなさい

先の参院選では全国民に対する2万円給付を掲げた自公政権が大敗し、減税を掲げた野党勢力が議席数を伸ばした。減税か給付か。国民は減税を選んだ。しかし経済学者の竹中平蔵氏は今回の選挙で大きなテーマとなった減税の議論について首を傾げる。竹中氏は「消費減税には意味がない」と話す。また、「このままでは日本はさらに『失われた30年』を経験することになる」と警鐘を鳴らすーー。
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物価上昇でみんなを助けるべきかといえば私はそう思いません
参院選で大きなテーマとなった減税について改めて申し上げます。
政策というのは何のためにやるのか、その目的は何かを前提につくるものです。今の状況でいえば、日本の経済が低迷していて、みんなが物価上昇で生活に困っているから、みんなを助けましょうということかもしれません。
でも、みんなを助ける必要があるのかというと、私はそう思いません。例えば私は明日食べる物がないという状況でもないですし、私を助けるために経済政策をつくる必要はありません。
しかし、物価上昇で困っている人がいるというのは事実ですから、その困っている人を助ける政策があってもいいでしょう。ではその人はなぜ困っているかというと、最大の要因は社会保険料負担です。だとすれば、それを下げるというのは理解できます。ないしは、それをカバーするような給付金を出すというのも理解はできます。
一方でそういった生活に困っている層は税金をあまり払っていません。つまり、その層を助けたいのに減税してどうするんだ、という疑問が生まれます。消費税というのは逆進性(低所得者ほど負担が大きくなる性質)があり、消費税を下げたら、高い消費をしている高所得者に有利になります。たしかに、富裕層か中間層も減税してもらえれば嬉しいに決まってますが、生活が苦しい人がいる中で優先してするべきことなのでしょうか。
そもそも円が安くなっているということは、交易条件(ある国が輸出入を行う際の、輸出と輸入の交換比率)が悪化している状況です。今まで100円で買っていたものが150円払わなきゃいけなくなっているのですが、その時点では生活水準が下がります。だから、ある程度、国民の生活水準が下がるということは仕方ないのです。それを防ぐためには、日本が経済力をつけるなど、別の成長戦略を国として打ち立てないといけないわけです。
また「失われた30年」が生まれることに
成長戦略の中で減税が必要なのも事実です。しかし今の経済政策の議論の中で問題になっているのは供給サイドの話と需要サイドの話がごちゃ混ぜになってしまっていることです。
日本の経済政策は基本的に需要サイドのみに手厚く、供給サイドに弱いのです。なので潜在的成長率が低いのです。需要を刺激しても、供給を上回る成長は起きないのです。
今注目されている給付や消費減税、所得減税といった需要サイドの政策を実施しても、これ実は90年代に日本が犯した過ちを繰り返すだけなのです。90年代は、本来だったら不良債権の処理、つまりバランスシートの調整という供給サイドを強くしなきゃいけなかったのに、それを全く無視して当面の需要をつけるために、その時は減税じゃなくて公共事業をやったのです。
そうすると、また失われた30年が生まれることになります。その需要を刺激した瞬間は、一瞬だけ経済は良くなります。公共事業をやった瞬間、一瞬良くなったし、減税した瞬間、一瞬良くなります。けれども、これで終わりです。財政赤字だけが膨らみます。
減税したら経済も回るはず…。これは根本的に間違っています
供給サイドを強くするための減税もあり得ると思います。だから、私は減税を議論するんだったら、法人減税だと言っているのです。少なくとも所得税減税や消費税減税ではない。需要を拡大して成長につなげるなんて言ってますけど、そんなことは経済学的にあり得ないのです。
社員の給料を上げれば、その分経済が回るから会社の業績もいずれ良くなるということを仰る人もいますが、減税も同じ議論なんです。減税して、手取りが増えれば経済も回るはずだ、と。しかしこれは根本的に間違っています。
だから、需要サイドの議論しかしていないから、供給サイドが強くならない。本来、そういうのは責任政党である自民党が掲げるべきです。だから、今の日本経済の責任の多くは自民党にあると思います。今回の参議院選挙ほど政策議論のなかった選挙はないと思いますよ。
潜在的経済成長率を上げるためには、そもそも論として、例えば労働市場の流動性を高めるとか、雇用改革をやらなきゃいけません。それと規制改革をやる。例えば今日本ではタクシーが需要を満たせていないわけだからライドシェアを認めるといった当たり前の構造改革をやっぱりもっとやらなきゃいけない。
やっぱり外国人を移民としてきちんと受け入れることです
もう一つはやっぱり外国人を移民としてきちんと受け入れることです。選挙でも外国人が話題になりましたけど、理由は簡単で国は外国人問題をどうするのか、これまで何もしてこなかったからです。
「日本人ファースト」のスローガンで躍進した参政党の神谷宗幣さんも、別に外国人を拒絶しているわけではないと言っています。外国人の労働力は日本に必要なのです。
必要なのですが、今日本はそれをちゃんとした制度として受け入れてない。日本には移民法がなく、出入国管理法だけでやっています。「この分野の人材が足りないから、外国人を入れてくれ」といった場当たりの議論で出入国管理が変化しているだけで、それで入った人がどうなっているかというのは誰も面倒を見ません。結果、出稼ぎ的な人に対しても長期滞在を、この国は認めてしまっています。
だから、移民法を作って、短期の移民と長期の移民に分けて考えるべきです。短期の移民は出稼ぎだから、半年とか1年とかの移民でいい。長期の移民を認めるのは、ちゃんと日本語が話せる、日本の文化を理解している、日本の伝統を理解している、そういう厳しい基準を設けて、受け入れる。
改めて、今日本に必要な成長戦略は3つです。1つは供給サイドへの減税です。2つ目が規制緩和、3つ目が移民です。
将来的に消費増税は必要に
さて、私は消費税減税に意味がないことを言いましたが、それでは消費税を上げるべきでしょうか。少なくとも、今のような状況、つまりまだデフレが十分に解消しているかどうかが分からない状況で増税すべきではありません。どんな増税もすべきではないです。
もう一つは、やはり経済がきちんと成長するような状況にならなければするべきではありません。経済が成長していない状況で増税したら、余計経済が成長しなくなります。
ただ、将来的には、国として成長戦略を策定した上で、これからの財政負担を賄うために消費増税は必要になるでしょう。
今回の参議院選挙の政策論議というのは後から見たらものすごく批判される政策論議になると思います。90年代に『公共事業ばかりやっていた』と批判されたように。
その理由として、誰も歳出削減をやりたいと思っている人がいないということです。財務省も国会議員も、自分たちの影響力が下がるので歳出削減をやりたくないのです。
この国にはすごく分かりやすい無駄がある。それは年金
本来、減税をするなら歳出削減の話もセットでするべきです。でも、そこまで話が進んでいきません。なぜなら現在の議論において結果的にポピュリズム色が強くなっているからです。だからもっと金を出せ、もっと金を使え、という話しか出てこない。
でも、減税派の国会議員も指摘しませんが、この国にはすごく分かりやすい無駄があるのです。それは年金です。現状、家計的に年金が必要ない人にまで年金を出していますが、それを辞めればいいのです。これがなくなるだけで国の財政はものすごく変わります。
しかしそれをするためには、まずは歳入を一つにまとめないといけません。税制と社会保障の一体改革をして、さらにデジタル歳入庁を作るなど、そういう議論になるべきですよね。国民からしてみれば、社会保険料だろうが税金だろうが一緒の話です。でも、それができるほど今、ポリティカルパワーを持った政治家がいないのも悲しいことです。
現在の政策議論はポピュリズムに支配されています。国が政策をちゃんと考えなくなってしまい、国民の政策理解度が落ちた結果「自分に寄り添ってくれるか」ということだけで投票行動を決めるようになりました。
このままポピュリズムに流された政策を続けていれば、日本はさらに「失われた30年」を経験することになるでしょう。今こそ、勇気を持って正しい政策を実行する時です。政治の責任は重大であり、その責任を果たすことができるリーダーの出現が待たれます。