4人家族は2年で23万円増…消費税でも、所得税でもない!政府の責任放棄で日本人が払わされている「隠れた税金」社会的弱者ほど影響

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 消費税の税率は上がっていない。それなのに、なぜ生活はここまで苦しいのか。物価高によってお金の価値が削られ、国民が気づかぬうちに家計負担が増えている。消費税や所得税は、給与明細やレシートに明確に表れるため、国民の反発を招きやすい。一方で、より静かに、そして確実に家計を蝕んでいる“税”が存在する。それが、いわゆるインフレ税だ。減税インフルエンサーで『図解「減税のきほん」新しい日本のスタンダード』(ブックフォース)の共著者である、オオサワ・キヌヨ氏がこの不条理を問題視する――。

目次

4人家族ではわずか2年で約23万円超の負担増

 インフレ税とは、法律で定められた税金ではない。物価上昇によって貨幣の実質価値が下がり、国民の購買力が削られる一方で、政府が抱える公的債務の実質的な重みが軽くなるという経済現象を指す通称である。請求書もなく、国会で税率改正の議論も行われない。それでいて、実態は「見えない増税」に等しい。

 では、負担はどれほど増えたのか。

 第一生命経済研究所の試算によると、2023年から2024年にかけて一人あたり約2.9〜3.1万円、さらに2024年から2025年にかけても一人あたり約2.7万円の家計負担増が生じた可能性がある。これを合算すると、4人家族ではわずか2年で約23万円超の負担増となったことになる。

 しかも、この負担増の中心はぜいたく品ではない。食料品、光熱費、日用品といった生活必需品の値上がりである。賃金や年金の伸びが物価上昇に追いつかない中、同じ収入でも買えるものは確実に減っている。特に打撃を受けるのは、現金や預金に資産を依存している世帯だ。年金生活者、低所得世帯、価格転嫁が難しい中小企業で働く人ほど、インフレ税の影響は重い。一方で、借金を抱える政府や、株式・不動産などインフレに強い資産を保有できる層は、相対的に守られる構造になっている。

 増税には敏感な庶民が、「物価高による実質負担増」にはなぜこれほど鈍感なのか。税率は据え置かれたまま、生活水準だけが引き下げられる――あらゆることを分かりにくくする。それがインフレの最も恐ろしい点である。

 インフレが魅力的に見えてしまうのは、お金と富を取り違えているからだ。誰もが「もっとお金を持っていれば、もっとたくさん買えるのに」と考える。

世の中に出回るお金の量が増えるときには、必ず理由がある

 2倍のお金があれば2倍のものが、3倍なら3倍のものが買えるはずだ、と。

 だから多くの人はこう考える。「政府がもう少し紙幣を刷って、みんなに配ってくれたら、みんな豊かになれるのではないか」と。一部国民が信じるMMTも、この一種である。しかし、世の中に出回るお金の量が増えるときには、必ず理由がある。それは、税収でまかなえない以上の支出を政府が行おうとするときだ。

 防衛費をまかなうために紙幣を増刷したとする。まず軍需物資の需要が増え、価格が上がる。軍需産業とその労働者の所得が増える。彼らは増えた所得でモノやサービスを買い、需要増を見た売り手は値上げを行う。所得が増えた人々は、多少の値上げを気にしない。なぜなら、今後も所得が増えると期待できるからだ。

 ここから起きる現象を説明するために、社会を仮に4つのグループ(A・B・C・D)に分け、順番にインフレの恩恵を受けるとする。Aグループの所得が30%増えた時点では、物価はまだ上がっていない。Bグループの所得が20%増えた頃でも、物価上昇は平均10%程度だ。だがCグループになると、所得増は10%にとどまる一方で、物価はすでに15%上昇している。Dグループに至っては、所得がほとんど増えないうちに、平均物価だけが20%まで上がってしまう。

「値上がりだけ先に押し付けられた損失」は取り戻せない

 つまり、最初に利益を得たグループの得は、最後のグループが消費者として被った損失の上に成り立っている。数年後、インフレが収まったとき、名目所得も物価も25%上昇しているかもしれない。しかし、過渡期に被った損失が帳消しになるわけではない。Dグループが被った「値上がりだけ先に押し付けられた損失」は、未来永劫取り戻されない。インフレ支持者は、インフレのこの欠点を見ようとしない。

 こうして見れば、インフレは一部が得をし、必ず他が損をする仕組みであることが分かる。短期的には景気刺激に見えても、長期的には生産構造を歪め、社会全体に破壊的な影響をもたらす。それでもインフレが支持されるのは、「完全雇用を実現する」「景気を動かすきっかけになる」と信じられているからだ。だがそれは、お金と富を混同した幻想にすぎない。

インフレは質の悪い税金である

 インフレは一種の税金であり、しかも質の悪い税金だ。あらゆる支出、預金、保険に同率でかかり、逃げ道がない。そして最も重く負担するのは、最も支払能力の乏しい人々である。インフレ幻想は、必ず幻滅と破綻に終わる。その代償を払うのは、決して刷りまくった政治家ではない。何の防御手段も持たない、普通の国民なのである。

 ここまで読んで、「ではどうすればいいのか」と考えた読者も多いだろう。現実的な話をすれば、ある程度の余裕がある人は、自衛するしかない。インフレ局面では、現金や預金だけを持ち続けること自体がリスクになる。株式、不動産、インフレ耐性のある実物資産などに一部を振り向けることで、購買力の目減りを緩和することは可能だ。事実、近年のインフレ下でも、こうした資産を保有していた層は相対的にダメージを抑えてきた。

防衛策を取れるのは一部の人間だけ

 だが、ここに決定的な問題がある。その「防御策」を取れるのは、あくまで一部の人だけだ。生活費で精一杯の世帯、年金生活者、まだ手取りの低い若者には、投資に回す余裕などない。インフレを見越して資産を買い込むこともできない。つまりインフレ税とは、「逃げられる人」と「逃げられない人」をはっきりと分断する税なのである。これは自己責任の問題ではない。本来、国民がここまで必死に自衛策を考えなければならない状況そのものが、政治の失敗だからだ。

 インフレを「世界的な現象」「一時的なもの」と言い訳し、実質賃金の低下を放置する。その一方で、「投資で備えよ」「資産形成を」と国民に求める。だが、これはあまりにも無責任だ。インフレを招いたのも、放置しているのも政治である。そもそも、インフレが問題なのは「物価が上がること」ではない。政府支出の拡大によって通貨価値が毀損され、その負担が国民に転嫁されていることが問題なのだ。

 減税には「財源がない」と言いながら、歳出の膨張には歯止めをかけない。2026年度予算案も総額122兆3000億円程度で、2年連続の“過去最大”更新と言われている。国債発行額も29兆6000億円程度だという。

 これで分かるように、政府はインフレの源になっているバラマキをやめる気は一切ない。これでは、万博事業や補助金など、政府支出を最初に受け取るグループしか豊かにならない。霞が関から遠いグループに波及するころには、物価の方が先に上がっている。これがインフレ税である。

インフレを放置するな。歳出を削れ

 必要なのは、これ以上の財政出動でもなければ、「刷ればいい」という幻想でもない。歳出を見直し、削るべきところを削ることだ。インフレを放置する政治は、国民に「見えない増税」を押し付けているのと同じである。税率を上げる勇気もなく、支出を削る覚悟もない。そのツケを、物価高という形で国民に回しているにすぎない。

 インフレは自然災害ではない。政策の結果であり、政治の選択である。だからこそ、はっきり言わなければならない。インフレを放置するな国民に資産防衛を迫る前に、政府がまずやるべきことがある。それは、見えない税で生活を削ることではなく、無駄な支出にメスを入れることだ。今こそ、80年代に行った各省庁に一律で歳出削減を迫るマイナスシーリングを復活させる時である。インフレ幻想は、必ず破綻する。その前に政治が正気を取り戻せるかどうか。今、問われているのはそこなのである。

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この記事の著者
オオサワ・キヌヨ

減税インフルエンサー。共著に『図解「減税のきほん」新しい日本のスタンダード』(ブックフォース)。税や法を通じて他人を支配できる力に対し、減税というシンプルで力強い手段で個人の自由を取り戻す運動を展開中。今日も減税片手に増税政治家に単身切り込んでいく。「ナイス減税会」立ち上げメンバー。

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