「今必要なのは質素に備えること」国際的投資家が日本に警鐘…超長期利回り上昇にザワつくウォール街「米側が明確にNOを示した」

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 高市早苗総理による解散で、日経平均が高騰した。一方で、日本の超長期利回りも上昇している。これは一体どういうことなのだろうか。市場は高市政権を求めているのか。嫌っているのか。この解散は撃つべきだったのか、待つべきだったのか。国際的に活躍する名物投資家の木戸次郎氏は暴落を予言する。なぜなのか。「いま必要なのは、円安の宴に酔うことではない。質素に備えることだ」。木戸氏が詳しく解説していく――。

目次

日銀総裁の保守的なメッセージに対し米国側が明確なNO

 怒りという感情は、本来、相場の材料ではない。しかし政治が、国民生活の痛みを「選挙の看板」に転用し、因果関係の説明を放棄した瞬間、その怒りは金利と為替の形で市場に翻訳される。今回の解散総選挙は、その典型である。物価高対策が急務だと言いながら、最優先課題の順番をひっくり返し、国会での議論を飛ばして「審判」だけを先に持ってくる。要するに、国民の財布の悲鳴を、政権側の都合に合わせて利用したにすぎない。私はそこに、どうしても苛立ちを抑えられない。

 市場はすでに反応している。1月下旬、日銀植田総裁の会見を受け、為替市場では円売りが加速し、一時は1ドル159円台まで円安が進んだ。市場は、利上げに慎重で、円安是正に明確な意思を示さない日銀の姿勢を、そのまま円売り材料として解釈したのである。ところがその直後、ニューヨーク連銀によるレートチェック観測が流れると、相場は一転し、わずか数時間で5円近い円高となった。この急反転は、単なる協調介入期待ではない。日銀総裁の保守的なメッセージに対し、市場、そして米国側が「それでは足りない」と明確なNOを突きつけた瞬間だったと見るべきだ。

円高対策なくして物価高対策はありえない

 ここに、今回の円高劇の本質がある。円が買われたのではない。日銀のメッセージが否定されたのである。日本の金融政策は、もはや国内問題ではなく、国際金融システムのリスク要因として扱われている。その現実が、5円の値動きという形で露わになった。

 私の結論は以前から変わらない。円高対策なくして物価高対策はありえない。日本で起きている物価高の正体は、需要の過熱でも賃金の暴走でもない。円安の放置である。2017年から18年ごろ、ドル円相場は110円前後だった。それが現在は160円近辺である。単純計算で、円の価値は約45%下落した。

国民生活だけを楽にしようというのは、都合のよい話

 輸入物価が4割以上押し上げられて当然だ。この構造を放置したまま、食料品の消費税ゼロ、ガソリン税の廃止、給付金の上積みを叫んでも、税が下がった分は数か月で円安に呑み込まれる。税は下がったはずなのに生活は楽にならないという逆回転が起きる。世論調査で「消費税ゼロは物価高対策として効果がない」が多数派になったのは、国民が直感的にこの構造を理解しているからだ。

 それでも各党が減税カードに執着する理由は明白である。円安を正面から是正すれば、税収の上振れも、輸出企業の円安差益も、株価の見かけの好調さも削られる。日銀は国債問題を抱え、利上げには牛歩戦術を続けている。経済界ですら「行き過ぎた円安」と言い始めたが、具体策は出ない。正月と盆は同時には来ない。円安の宴を続けながら、国民生活だけを楽にしようというのは、都合のよい話にすぎない。

 今回の選挙構図は、その象徴である。与野党がそろって消費税減税を掲げ、耳障りの良い言葉ばかりが並ぶ。財源はどれも曖昧だ。まるで「我が党に投票してくれれば、あなたの支出を一円でも減らします」というディスカウントショップの安売り競争である。

選挙向けの減税だけを叫ぶのは、政策ではなく演出

 しかしその一方で、防衛関連支出や国際的な拠出金など、歳出は増える方向に動いている。議員数を一割減らしても捻出できるのは数十億円程度だ。本当に少子化対策をするなら、無駄を削り、出産祝い金として一律200~300万円、さらに養育費を継続支給する方が、よほど将来につながる。それをせず、選挙向けの減税だけを叫ぶのは、政策ではなく演出である。

 さらに深刻なのは、「政治とカネ」の問題が、支持率を盾に不問に付されつつあることだ。裏金議員、宗教団体との関係、選挙資金を巡る疑惑。かつては非公認や重複立候補禁止という形で「禊」が行われた。しかし今回は、そのペナルティが外れ、「みそぎは済んだ」という空気が漂う。もしこの選挙で与党が過半数を取れば、「国民の信任を得た」という物語が完成する。その瞬間から、政治は数を背景に、説明を省き、力で押し切る段階へ移行する。増税しても文句を言わせない環境が整う。これは経済の問題であると同時に、統治の問題でもある。

ウォール街が疑問視する日本の長期国債利回りリスク

 しかも現実の国際経済は、国内向けの強硬な言葉が拍手を集める方向とは別の場所で動いている。感情的な対立を煽る発言は短期的には支持を集めても、資本や企業はより安定した制度と予測可能性を求めて動く。説明を欠いたまま放たれる政治の言葉は、外交の問題である以前に、金融市場にとっての不確実性となる。

 ここでウォール街の話をしないわけにはいかない。最近、ウォール街の投資銀行やヘッジファンドに所属するアナリストの間で、日本の長期国債利回り上昇のリスクを、世界の資産価格を支えてきた土台そのものを揺るがす要因として、レポートで言及し始める動きが目立っている。

 なぜ彼らが、日本の金利に神経質になっているのか。それは、日本が長年、「円安かつ低金利」という特殊な組み合わせによって、世界の金融市場における資金供給源として機能してきたからだ。円で資金を調達し、高金利通貨や株、AI関連株、プライベートエクイティに投資する。この構造は、世界中のリスク資産の根っこに埋め込まれている。円安の宴に酔っていたのは、日本の政治だけではない。ヘッジファンドも同様だった。円安で、なおかつ低金利という環境は、彼らにとっても理想的な資金調達条件だったからだ。

思わぬ形から大激震、逆回転が起きる

 しかし、日本の長期金利が動き始めれば、この構造は揺れる。じわじわ上がれば不安で済む。急に上がれば、円キャリーの巻き戻し、レバレッジ解消、株・債券・不動産の同時下落が起きる。最も厄介なのは、その下落に分かりやすい理由がないことである。「日本の金利が動いたから」という説明は、あまりに地味で、あまりに構造的すぎる。だからこそ、ウォール街では現実味を帯びたリスクとして受け止められている。

 私が以前から言っている「思わぬ形から大激震、逆回転が起きる」というのは、まさにこの構造を指す。本当に買うのは、そのあとだ。政治が近視眼的になり、円安を放置し、減税という分かりやすい言葉で時間を稼ぐ局面では、相場は静かな顔をしながら、裏側で回収の準備を進める。リーマンも、コロナも、説明を省略した歪みが回収された事件だった。

 いま必要なのは、円安の宴に酔うことではない。質素に備えることだ。キャッシュを持つという意味だけではない。

最後に帳尻を合わせるのは市場

 過剰な期待を削り、説明のない熱狂から距離を取り、逆回転のあとに現実的な値札が付いた資産を拾う。その順番を守ることである。円高対策なくして物価高対策はない。この一点を避け続ける限り、どれほど派手な減税公約を並べても、それは国民生活の救済ではなく、政治の演出に堕していく。そして演出が過ぎれば、最後に帳尻を合わせるのは市場である。ウォール街は既に次のフェーズをみている。

 私は待つ。大激震のあとに買う。逆回転のあとに拾う。いまは宴の席を抜け、静かに備える側に回る。怒りを燃料にするのではない。怒りの理由を、相場の地図に翻訳する。その作業を、投資家は淡々と続けるしかない。

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この記事の著者
木戸次郎

1965年生まれ。明治大学政治経済学部卒。 地場証券会社を経て投資顧問会社の代表取締役。その後、ベトナム国営バオベト証券バオベトジャパン理事、ベトナム国防省タイソングループ顧問、外資系ファンドの戦略アドバイザーを経て現在はTMI総合法律事務所顧問。著書にベストセラーとなった『修羅場のマネー哲学』(幻冬舎)『修羅場の鉄則』(幻冬舎)、『木戸次郎の大化け株』(宝島社)、『株はあと2年でやめなさい』(第二海援隊)、『常勝の株』(講談社)ほか多数。

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