一部で浮上した消費税12%説…大手メディアがスルーする「食料品減税2年間の後どうするか問題」特例公債に依存しないと主張、どうやって?

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 与野党ともに衆院選公約で消費税減税を掲げる中、食料品にかかる消費税を2年間廃止した後、全体の消費税率を10%から2%引き上げ、合計12%とする案が政府内で浮上していることがわかった。小説『奪われる~スパイ天国・日本の敗戦~』(みんかぶマガジンノベルス)を著した作家の伊藤慶氏の取材で明らかになった。財政悪化懸念から長期金利の指標となる新発10年国債利回りが約27年ぶりの高水準をつけるなど「消費税減税ショック」が現実味を帯び、市場には財政の持続可能性も考慮する必要があるとの声は根強い。伊藤氏は「有権者の歓心を得るような減税を公約する以上、『最低でも何年間は消費税率を10%超へ増税しない』と明示しなければフェアではない。メディアも各政党も認識を質すべきだ」と指摘する。はたして、生活に直結する消費税の税率は将来どうなっていくのか。伊藤氏が解説する――。

目次

どこもかしこも「消費税減税」。だが財源はどうする

 1月27日の公示日、主要政党の代表らが力強く訴えたのは消費税減税や物価高対策などだった。連立与党の自民党と日本維新の会は、食料品を2年間に限り消費税の対象外とすることについて検討を加速すると公約。中道改革連合は今秋から恒久的に食料品消費税ゼロ。国民民主党は賃金上昇率が物価プラス2%に安定するまで消費税を一律5%に減税。参政党は消費税を段階的に廃止。共産党は消費税の廃止 を目指し、緊急に5%に減税。れいわ新選組はただちに廃止、最低でも5%。減税日本・ゆうこく連合は廃止。日本保守党は食料品の消費税率を恒久的にゼロ%にする。社民党は消費税ゼロを即時実現。チームみらいは社会を支えるための土台として、今のままの税率を守る—とそれぞれ掲げている。

 だが、飲食料品の消費税率をゼロにすれば、国の減収額は年間5兆円近くになると試算されている。国債発行の増加を伴わないとすれば、代替財源を見つけなければならない。経済成長による税収増やムダな歳出削減はもちろんのことだが、それとて財源確保は容易ではないだろう。放漫財政と映れば、財政の持続可能性に黄信号が灯る。

 新発10年国債利回りは1月20日に一時2.380%へ上昇(債券価格は下落)し、1999年2月以来約27年ぶりの高水準となった。主要政党が減税策を並べていることを考えれば、議席獲得数に関わらず総選挙後に消費税減税が実現する可能性は高い。

「特例公債に依存しない」と強調するが

 だが、それは「消費税減税ショック」が現実味を帯びることも意味する。

 高市首相が率いる自民党と、連立政権を組む日本維新の会は昨年10月の連立政権合意文書で「食料品については2年間に限り消費税の対象としないことも視野に、法制化を検討する」とした。同11月の参院本会議での代表質問で高市首相は「事業者のレジシステムの改修などに一定の期間がかかるとの課題にも留意が必要だ」としていたが、今年1月には「(食品の消費税ゼロは)私の悲願」とも口にした。

 連立与党としては、選挙後に設ける「国民会議」において財源やスケジュールなどの詳細は詰めるとしているが、高市氏は現在の「内閣総理大臣」として消費税減税を既定路線とすることに躍起となっている。首相は1月26日、日本記者クラブでの党首討論で消費税減税の実施時期は2026年度内を目指す考えを示した。秋の臨時国会に税制改正案を提出し、「特例公債に依存しない」とも強調した。

なぜか政治部記者たちがスルーした高市発言

 首相の「特例公債に依存しない」との発言は、財政の持続可能性に配慮している点を強調したかったのだろう。ただ、ほとんどのマスメディアは取り上げていないものの、筆者が気になったのは次の首相発言の方だ。高市氏は党首討論で「内閣総理大臣として問われると、財務省、財務大臣にも頑張っていただいて、実際に消費税率を2年間に限定して食料品をゼロにするということになると、ちゃんとそれに見合う財源が確保できるのか内々にしっかりと調べました。そして、その場合のスケジュール感。最速はどうなのか。そういったことも様々、自分の中でシミュレーションをいたしております」と明言した。

 なぜ日頃から永田町、霞が関で取材活動に勤しむ記者たちがスルーしたのか不明だが、この首相発言には極めて重たい意味が込められているように映る。それは「見合う財源が確保できるのか内々にしっかり調べた」「自分の中でシミュレーションしている」という点だ。

解散の理由の1つに従来とは異なる政策に転換するという点

 高市氏は、そもそも今回の衆院解散の理由の1つに従来とは異なる政策に転換するという点をあげている。その根幹が「責任ある積極財政」だ。昨年10月、就任後初めての所信表明演説で「強い経済を構築するため、『責任ある積極財政』の考え方の下、戦略的に財政出動を行います。これにより、所得を増やし、消費マインドを改善し、事業収益が上がり、税率を上げずとも税収を増加させることを目指します。この好循環を実現することによって、国民の皆様に景気回復の果実を実感していただき、不安を希望に変えていきます」と宣言。その上で「こうした道筋を通じ、成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP(国内総生産)比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保していきます」と表明した。

 積極財政と言えば、放漫財政につながると懸念する向きもあるが、そこに「責任」がついている。それが意味するところは、経済成長に資する重点的投資と支出の質向上に加えて、財政規律の維持も組み合わせた国家財政への「責任」を目指すものなのである。高市首相は昨年11月11日の衆院予算委員会でも「責任ある積極財政の下では、強い経済を構築するのと同時に、財政の持続可能性、これを確保することへの責任があると考えています。戦略的に財政出動を行うことで、成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保してまいります」と説明している。

下げたあと消費税を12%とする案が一部で浮上

 これは安倍晋三政権時代の「アベノミクス」でも掲げられた機動的な財政政策をより強化する意味と受け止められる。

 気になるのは、7年8カ月に及んだ安倍政権は消費税率を5%から10%へ引き上げた歴史だ。アベノミクスが完遂しなかったのは消費税増税の影響があったためとの見方もある。減税は一度でもすると、再び引き上げる際に大きな政治的パワーを要する。このためか、木原稔官房長官は1月26日、仮に連立与党の公約や首相発言通りに食料品の消費税率を引き下げた後、2年後に元に戻すかについては「その時の景気状況や物価、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に応じ、その後の消費税のあり方は考えていく」と説明するにとどめた。

 ただ、筆者が取材を進めると政府内では「2年間限定」で食料品の消費税率ゼロ化をした場合、それを元に戻した後に全体の消費税率を現行の10%から2%引き上げ、合計12%とする案が一部で浮上していることがわかった。これが仮に実施されることになれば、減収額が5兆円近くに上る消費税減税は2年間容認するものの、その後の消費税率の再引き上げによって「回収」どころか、「増税・増収」できるということだ。もちろん、これでは「今」は良くても、「未来」が厳しくなることは言うまでもない。

国民は本当に心から消費減税を求めるのか

 日経新聞とテレビ東京が1月23~25日に実施した世論調査によれば、食料品の消費税率ゼロが物価高対策として「効果があるとは思わない」との回答が56%を占めた。また、消費税のあり方に関して「財源を確保するために税率を維持するべきだ」と「赤字国債を発行してでも税率を下げるべきだ」のどちらに考え方が近いか聞いたところ、「維持」が59%と多数で、減税は31%にとどまったという。この調査結果からは、国民も「未来へのツケ」に慎重なことがうかがえる。

 今回の総選挙で、与野党はともに消費税減税を掲げる。だが、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は1月19日公表のレポートで、「食料品の消費税率ゼロ化は、消費税の逆進性を緩和し、物価高から低所得者を守るという観点からは一定の妥性のある施策と言えるだろう。しかし、高額所得者が購入する食料品の消費税率もゼロになることから、低所得者向けの物価高対策としては、有効性は高くない。

実質GDPの押し上げ効果は1年間でプラス0.22%

 それならば、低所得者に絞った給付金支給の方が良いのではないか」と指摘している。

その上で「単純に減税を実施すれば、社会保障支出の基礎的財源が損なわれ、財政を悪化させるなど弊害が大きくなる。食料品の消費税率ゼロ化するのと同時に、消費税率全体を2%引き上げ、消費税収を維持するのであれば、それは検討に値する政策だろう。しかし、消費税率全体の引き上げが難しい情勢の下では、食料品の消費税率ゼロ化は実施すべきでない」と記している。

 食料品の消費税を2年間ゼロにする場合、実質GDPの押し上げ効果は1年間でプラス0.22%にとどまり、2年目以降は押し上げ効果がほぼ期待できないという。木内氏は「社会保障支出の基礎的財源が損なわれ、財政を一段と悪化させるなどといった大きな代償と比べれば経済効果の恩恵は小さい」とする。

 選挙時の公約は、政党や政治家にとって「命」だ。選挙後に実現しないことを訴えれば、政治不信は高まる。ただ、その公約が目の前の選挙で有権者の歓心を得るための戦略でしかなかったとしたら国民がツケを被る。どの政党、どの候補者が勝利するにしても、今後は国の成長と財政に対して「責任」をより求められることになりそうだ。

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この記事の著者
伊藤慶

作家・小説家。経済、政治に精通。小説家としての処女作『奪われる: スパイ天国・日本の敗戦 (みんかぶマガジンノベルス)』がみんかぶマガジンにて連載中。

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