第八話「消えた仲間」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第八話「消えた仲間」
ある日、いつもと同じように山田浩一は研究室の地下にある一室でデータ解析に勤しんでいた。隣のブースにいた日本人研究員、村上江奈は近寄ってくると、ふと咳払いをした。東大でも知られた存在である30代後半のAI研究者だ。「山田さん、ちょっと気になることがあるんです」。周りのスタッフを気にしているのか、声がいつもよりも小さい。「シミュレーションの上では爆発リスクが出ているのに、誰も直そうとしないんです」。浩一は顔を上げた。村上の目には不安が溢れている。「それは報告すべきだ」と浩一が告げる。「いや、もうしたんです。でも、修正しても修正しても、また元にいつの間にか戻っているんです」。
「えっ? そんなことがあり得るのかな?」。浩一が不思議そうに向き合うと、離れたところにいたスタッフの1人が近寄ってくるのが見えた。「とにかく、これは事実です。もし何かあれば、『6997ng72k1』と覚えておいてください!」。村上が研究所から姿を消したのは翌日だった。キムは「彼女は退職願を出してきた。それだけだ」。浩一は、初めて背筋が凍る思い、というものを実感した。
その夜、浩一は自宅マンションの狭いキッチンで夜ご飯を作りながら娘・明里の帰宅を待っていた。ふと窓の外から物音がした。カーテンを開けて下を見ると、街灯の陰に見知らぬ男が立っている。暗闇の中でもわかる鋭い視線がこちらを射貫いていた。男は軽く片手を上げると、少し微笑んでいる感じがした。「なんだ、あいつは? 俺のことを監視しているのか・・・」。浩一は震える手で窓を閉め、GTL社への転職を早くも後悔し始めていた。
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