国際的投資家「高市政権で円の『無価値化』が進む」…海外市場が日本の政情に不安視「円安を容認し、外為特会の黒字に安心する深刻さ」世界の重心から外れていく

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 高市自民が圧勝した。日経平均株価は上がる一方で、国際的に活躍する投資家の木戸次郎氏は「世界の市場は高市政権を疑問視している」と述べる。なぜなのか。木戸氏が解説する――。

目次

公務員会食は「原則ノンアル」な中国

 先日、私の友人である政治ジャーナリストが、中国大使館大使公邸で開かれた食事会に招かれた。そこで彼が目にし、耳にした中国の姿は、日本で流通している中国像とは、はっきりと異なるものだったという。その話を聞いたとき、私は「日本が知らない中国」というより、「日本が見ようとしてこなかった中国」という表現の方が正確ではないかと感じた。

 中国の宴席といえば、白酒を小さな杯で一気に飲み干し、カンペー、カンペーと叫びながら酔いつぶれる光景が有名である。日本のテレビが描く中国像も、多くはこの延長線上にある。豪快で、無秩序で、感情的な国。しかし、現在の中国では、公務員が関与する会食や宴席は原則としてノンアルコールだという。理由は単純である。酒は関係を曖昧にし、曖昧さは癒着を生み、癒着は汚職になる。だから最初から酒を排除する。中国は道徳で役人を縛るのではなく、制度で縛る方向に大きく舵を切っている。

 さらに驚かされるのは人事制度だ。中国では、上司が部下を評価するだけでなく、書記官や事務員同士、さらには部下が上司をも査定する相互評価が定着しつつあるという。大使館でいえば、大使が書記官を評価するのは当然だが、その書記官や事務員が、大使の行動を評価対象に含める。評価されるのは業務能力だけではない。誰と会ったのか、どんな態度だったのか、国家方針とずれた言動をしていないか、特定の相手と不自然に親しくなっていないか。つまり中国の公務員は、仕事ぶりと同時に、公人としての理性や姿勢そのものを互いに監視されている。

 日本の公務員制度は性善説に近い。問題が起きてから処分する。中国は逆に、問題が起きにくいように制度で囲い込む。この違いは決定的だ。日本では大学教授、警察官、教職員といった立場の人間による不祥事が周期的に繰り返されるが、中国は少なくとも制度として腐敗を防ごうとしている。その姿は、日本人が思い描く中国像とは大きく異なる。

外交でも、両国の見ている景色はずれている。とりわけ高市早苗総理の台湾有事発言について、中国は本気で反発しているという。

中国と距離は取るが、切らない欧州

 日本政府はこれまで、台湾問題は中国の国内問題だという立場を取ってきた。それにもかかわらず、有事を想定した発言を繰り返せば、中国から見れば立場の変更に等しい。撤回も謝罪もないまま選挙を迎えれば、日本は国際会議の場で孤立する可能性が高い。

 一方、欧州諸国はまったく違う動きを見せている。イギリスは約8年ぶりに中国を訪問し、関係の再構築を模索した。カナダや欧州各国も、次々と会談を重ねている。中国と距離は取るが、切らない。政治と経済を分けて考える。中国依存が高いからこそ、感情ではなく現実で動いている。

 そして、欧州以上に重要なのがインドである。インドは名目GDPで、今年にも日本を抜き、世界第3位の経済大国になる可能性が高い。人口はすでに中国を上回り、若年層も厚い。かつて途上国と呼ばれた国が、いまや世界経済の中枢に食い込もうとしている。

 そのインドは、中国と安全保障では距離を取りつつも、経済では関係を切らない。貿易協定を結び、市場としての関係を拡大している。欧州も、インドも、中国を警戒しながら、中国を切らない。理念よりも市場、感情よりも成長を優先する。世界はすでにその段階に入っている。

世界の成長エンジンが、日本の外に完全に移った

 この現実の中で、日本だけが価値観と感情で前に出てしまっている。中国を刺激し、インドの台頭を正面から捉えず、結果として2つの巨大市場を同時に遠ざける構図になりつつある。インドが日本をGDPで抜くという事実は、単なる順位の話ではない。世界の成長エンジンが、日本の外に完全に移ったという意味である。

 通貨の世界でも、同じ構図が見える。金価格は1グラム30000円に達し、ニュースでは金のバブルが語られている。しかし、はるかに深刻なのは金が上がったことではない。円の価値が下がったことである。日本円は、この8年余りで先進国の中で唯一、4割以上も価値を失った。8年前に100万円で買えた輸入品は、いま同じ量を買うのに140万円近く必要になる。

 それにもかかわらず、高市総理は外為特会を念頭に、円安で政府はウハウハだという趣旨の発言をしてきた。外為特会とは、国が保有する外貨資産を管理する特別会計であり、円安になれば帳簿上の円換算額は膨らむ。だがそれは、国民の通貨価値が下がった結果にすぎない。

生活よりも株価、購買力よりも帳簿を優先する高市総理

 家計でいえば、預金残高の数字は変わらなくても、買えるものが減っている状態である。

 円安は輸出企業や株価には追い風になる。しかし同時に、食料、エネルギー、医薬品といった生活必需品の価格を押し上げる。物価高対策を掲げながら、円安を容認し、外為特会の黒字に安心する。この姿勢は政策の矛盾ではない。生活よりも株価、購買力よりも帳簿を優先するという、優先順位の問題である。近視眼的と言わざるを得ない。

 この問題は、抽象的な経済論では終わらない。私自身、7年前に腎臓移植を受け、現在も免疫抑制剤とともに抗生物質を日常的に服用している。その抗生物質の多くが、中国に依存しているのが現実である。もし外交関係の悪化や供給網の混乱で輸入が滞れば、治療そのものが制限される可能性がある。これは統計の話ではない。私自身の命の問題である。

 日本は医薬品やその原材料の多くを中国に頼っている。抗生物質だけでなく、解熱鎮痛剤や点滴用原料、注射器に使われる部材まで、中国製が占める割合は高い。中国との関係がこじれれば、「薬が高くなる」では済まない。「薬が手に入らない」現実が生じかねない。

外交の問題は医療の問題になり、最終的には個人の生存の問題に

 円安は、このリスクをさらに大きくする。通貨の価値が下がれば、輸入薬品の価格は上がる。保険制度で表面上は抑えられていても、医療財政の負担は確実に増える。外交の問題は、やがて医療の問題になり、最終的には個人の生存の問題になる。

 安全保障でも、日本の立ち位置は不安定だ。日米同盟があるとはいえ、米国はもはや同盟国を理念で守る国ではない。武器を売り、自国防衛を求める国になりつつある。もし私が米国大統領でも、理念よりも米中関係の安定を優先する。貿易も金融も資源も、米中関係の上に成り立っているからだ。

 日本はいま、中国を刺激しながら、米国から全面的な保証を得られない位置に立ちつつある。価値観で前に出て、現実主義で後ろを失う。その構図が、いまの日本である。

 世界ではすでに、ルールや理念が国家を守る時代は終わりつつある。エネルギー、食料、鉱物、金融、サプライチェーンを自前で確保できる国だけが、生き残る時代に入っている。中堅国であっても、結束し、自律しなければ、飲み込まれる。世界はその方向へ動いている。

金のバブルより深刻な、円が静かに安くなり続けているという事実

 ここで、選挙という装置が持つ意味を見誤ってはならない。選挙で自民党が過半数を制すれば、それは単なる議席数ではなく、政治の側にとっては「国民は了承した」という免罪符になる。異論は残っていても、数の力が総意を名乗り始める。その結果、防衛増税も円安容認も、「選ばれた政策」として押し出されていく。

 日本が知らない中国とは、声を荒げる中国ではない。制度で人を縛り、政治と経済を切り分け、通貨と資源の覇権を見据え、長い時間軸で国家を動かす中国である。その現実を見ず、インドの台頭を直視せず、円の価値低下を放置し、外為特会の数字に安心し、同盟に幻想を抱くなら、孤立するのは中国ではない。日本の側である。

 金のバブルより深刻なのは、円が静かに安くなり続けているという事実だ。その現実から目を背ける限り、日本は世界の重心から、確実に外れていく。

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この記事の著者
木戸次郎

1965年生まれ。明治大学政治経済学部卒。 地場証券会社を経て投資顧問会社の代表取締役。その後、ベトナム国営バオベト証券バオベトジャパン理事、ベトナム国防省タイソングループ顧問、外資系ファンドの戦略アドバイザーを経て現在はTMI総合法律事務所顧問。著書にベストセラーとなった『修羅場のマネー哲学』(幻冬舎)『修羅場の鉄則』(幻冬舎)、『木戸次郎の大化け株』(宝島社)、『株はあと2年でやめなさい』(第二海援隊)、『常勝の株』(講談社)ほか多数。

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