竹中平蔵が安野貴博に注目する理由…消費減税否定の「チームみらいだけが、日本の未来をみている」自民議員との協力は停滞する政治に最も必要

先の衆院選で躍進したチームみらいについて経済学者の竹中平蔵氏は、同党が消費減税を否定したことに「チームみらいだけが日本の未来をみている」と高評価する。竹中氏が解説する――。
目次
絶望的なまでの「格差」が広がっている日本
日本で貧富の格差がますます広がっています。東京の不動産は高騰し、50平米程度が平気で1億円を超えるような事例をみます。これは資材価格の高騰や人手不足による建築費の上昇もありますが、それ以上にデベロッパーが「富裕層向け」にしか物件を作れなくなっているという供給側の事情もあります。
普通のサラリーマンが、普通の給料で、普通の家を買う。かつて当たり前だった「中流の夢」が、今の東京では完全に崩壊しています。郊外に目を向けても、安くて良質なマンションの供給は細る一方です。
不動産価格の高騰に対し、日本人の賃金上昇はあまりに緩やかです。結果として何が起きているか。資産を持つ高齢者や一部の富裕層と、資産を持てず、家賃やローンの支払いに追われる若年層・現役世代との間で、絶望的なまでの「格差」が広がっているのです。
スタグフレーションの足音が、ひたひたと近づいてきている
私が若い頃は、無理をしてでもローンを組めば、やがて給料が上がり、インフレが借金を実質的に目減りさせてくれました。しかし今の若者は、将来の賃金上昇が見通せない中で、高騰しきった物件価格という壁の前に立ち尽くしています。
そんな中でイラン攻撃が始まり、いま日本のマーケットは事実上の「戦時体制」を前提に動いていると言っても過言ではありません。中東情勢の緊迫化、ホルムズ海峡の封鎖リスク、そして原油価格の高騰。これらはすべて、私たちの生活に直結する「コストプッシュ・インフレ」として跳ね返ってきています。
ガソリン価格が上がり、石油関連製品が上がり、それが物流コストに転嫁され、最終的にはスーパーに並ぶ食品の値段が上がる。そして景気はよくならない。経済学で言うところの「スタグフレーション(不況下の物価高)」の足音が、ひたひたと近づいてきているのが現状です。
生活が苦しい。給料が上がらないのに物価だけが上がる。そうした国民の悲鳴が聞こえてくる中で、多くの政党がこぞって掲げたのが「消費税減税」や「給付金」といった、いわゆる「バラマキ政策」でした。
この安易な流れに「待った」をかけた政党、それがチームみらい
「生活が苦しいのだから、税金を下げてくれ」
これは有権者の素朴な感情として理解できます。そして、政治家にとっても「減税」は票に直結する最も手っ取り早い手段です。右を見ても左を見ても「消費税廃止」や「一時的な減税」を叫ぶ。まさにポピュリズム(大衆迎合)の極みと言っていいでしょう。
しかし、そんな中で唯一、この安易な流れに「待った」をかけた政党がありました。それが、安野貴博氏率いる「チームみらい」です。
イラン攻撃の前の話ではありますが、国民生活が苦しなっているなか、チームみらいは2月の衆議院選挙戦を通じて、消費減税を明確に否定しました。彼らだけは今ではなく「みらい」をみていました。つまりそれは、未来の世代にツケを回すような政策は採らないと、不人気な正論を堂々と主張したのです。私はこの一点において、彼らの存在には極めて大きな価値があったと考えています。
冷徹な経済現実を前にしたとき、多くの野党は「耳障りの良い言葉」に逃げました。しかし、「チームみらい」だけは違いました。
安野貴博という人物は、AIエンジニアであり、SF作家でもあります。彼は政治家としては「アマチュア」かもしれません。しかし、だからこそ既存の政治家が陥りがちな「票のための嘘」をつく必要がなかった。
なぜ、私はチームみらいに注目するのか
私が注目したのは、彼が「私たちは未来を見る」と宣言し、現役世代への迎合ではなく、将来世代への責任を口にしたことです。これは政治の世界では非常に勇気のいることです。
減税になれば、誰だって嬉しい。私だって嬉しいですよ。しかし、それで日本経済の構造が良くなるわけではない。むしろ、国の信用を毀損するリスクがある。そのことを、彼はエンジニアらしい合理性で判断し、正直に有権者に伝えた。
この「知的誠実さ」こそが、多くの無党派層、特に既存の政党に愛想を尽かしていた現役世代の心に刺さったのではないでしょうか。彼らが獲得した議席数は決して多くはありません。しかし、その「1議席」の意味は、ポピュリズムに流れる日本政治に対する強烈なアンチテーゼとして、数字以上の重みを持っています。
もう一つ、私が「チームみらい」に可能性を感じたのは、彼らのテクノロジーに対する姿勢です。
選挙を「有権者の声を聞くためのデータ収集の場」と定義
これまでの政治家にとって、選挙とは「自分の主張を一方的に叫ぶ場」でした。街宣車に乗り、大音量で名前を連呼し、「私に任せてください」と絶叫する。これは昭和の時代から変わらない、極めて非効率で一方通行なコミュニケーションです。
しかし安野さんは違いました。彼は選挙を「有権者の声を聞くためのデータ収集の場」と定義し直したのです。
彼が導入したAIシステムは画期的でした。有権者からのあらゆる質問や意見に対し、AIが即座に政策データベースを参照して回答を生成する。それだけでなく、集まった膨大な意見をAIで分析し、リアルタイムで政策に反映させていく。
私が安野さんと話して面白いと思ったのは、彼が「4人の人間の秘書を雇うより、4つの異なるAIエージェントを使え」という発想を持っていることです。
人間には感情があります。意見が対立すればむくれるし、夜になれば帰ってしまう。しかしAIは24時間働き続けます。そして、「保守的なAI」「リベラルなAI」「財政規律重視のAI」「積極財政のAI」といったように、異なるパラメーターを与えれば、一つの事象に対して多角的な視点からの意見を瞬時に提示してくれます。
「イデオロギーの対立」から「リアリズムの追求」
政治家という仕事は、本来「決断」が仕事です。しかし、その決断に至るまでの情報収集や分析に膨大な時間を取られ、あるいは偏った取り巻きの意見に左右されてしまうのが常でした。安野さんのアプローチは、AIを「思考のパートナー」として活用することで、政治家の意思決定プロセスそのものをアップデートしようとしています。
これは単なるツール導入の話ではありません。民主主義の「OS(基本ソフト)」を書き換えようという試みなのです。
今、世界の政治は「イデオロギーの対立」から「リアリズムの追求」へとシフトしています。
かつてのような「右か左か」「保守か革新か」という対立軸は、今の複雑な社会課題を解決する上ではほとんど意味をなさなくなっています。安全保障環境が悪化すれば防衛費を増やすのは当たり前ですし、格差が広がれば再分配を考えるのも当たり前です。そこに右も左もありません。
重要なのは「事実(ファクト)」に基づき、「合理的」な解決策を実行できるかどうか。つまり「リアリズム」です。
彼らにも課題はあります。それは圧倒的な…
既存の野党の多くは、未だに「反自民」や「護憲」といった古いイデオロギーの呪縛から逃れられていません。一方で自民党も、岩盤のような利権構造としがらみの中で、ドラスティックな改革に踏み込めずにいます。
そんな中で登場した「チームみらい」は、イデオロギー色のない、純粋な「ソリューション(解決策)志向」の集団として映りました。彼らにとってAIはイデオロギーを超越したツールであり、消費税の議論も「好き嫌い」ではなく「持続可能か否か」という計算の結果に過ぎないのです。
もちろん、彼らにも課題はあります。それは圧倒的な「組織力不足」です。
参政党が躍進した時、彼らは地方議会に根を張り、強固な組織を作り上げました。政治は数であり、足を使ったドブ板活動もまた真実です。ネットとAIだけで国が動くわけではありません。安野さんたちが今後、どのようにして「リアルな組織」を構築していくのか、あるいは既存の組織と連携していくのかは未知数です。
しかし、私は彼らが必ずしも巨大政党を目指す必要はないと思っています。
化学反応における「触媒(カタリスト)」をご存知でしょうか。それ自体の量は少なくても、存在することで化学反応のスピードを劇的に早めたり、全く新しい物質を生み出したりする物質のことです。
自民党議員との化学反応こそ、今の停滞した日本政治に最も必要
「チームみらい」の役割は、まさにこの「政界の触媒」になることではないでしょうか。
自民党の中にも、平将明さんのようにテクノロジーやWeb3、AIへの理解が深い議員がいます。彼らのような「話のわかる」自民党議員と、「チームみらい」のような外部の革新的な勢力が、是々非々で連携する。あるいは、彼らの政策提言が刺激となって、硬直化した官僚機構や既存政党が動き出す。
そうした「化学反応」こそが、今の停滞した日本政治に最も必要なものなのです。
生活が苦しい今だからこそ、私たちは「目先の痛み止め」ではなく「病気を治す手術」を選ばなければなりません。
消費税を下げれば、一瞬だけ楽になるかもしれません。しかし消費税というのは逆進性(低所得者ほど負担が大きくなる性質)があり、消費税を下げたら、高い消費をしている高所得者に有利になります。たしかに、富裕層か中間層も減税してもらえれば嬉しいに決まっていますが、生活が苦しい人がいる中で優先してするべきことなのでしょうか。
「政治屋は次の選挙を考え、政治家は次の時代を考える」
その代償として社会保障が崩壊したり、円の信用が失われてさらに物価が上がったりしては元も子もありません。
成長戦略の中である種の減税が必要なのも事実です。しかし今の経済政策の議論の中で問題になっているのは供給サイドの話と需要サイドの話がごちゃ混ぜになってしまっていることです。本当に必要なのは、供給力を強化することです。規制を緩和し、新しいテクノロジーを実装し、労働市場を流動化させ、日本経済全体のパイを大きくすることです。その意味では消費税ではなく、法人税の減税や投資減税の方が有効とも言えます。それによって賃金を上げ、中間層を復活させる。それこそが、遠回りに見えて唯一の「正解」なのです。
「チームみらい」は、その正解への道筋を、AIという新しい光で照らそうとしています。彼らはまだ政治のアマチュアかもしれません。しかし、プロの政治家たちが「選挙に勝つこと」ばかりを考えて「国の未来」をおろそかにしている今、アマチュアであるがゆえの「正直さ」と「未来志向」は、何よりの希望に見えます。
最後に、J・クラークの名言をご紹介しておきます。「政治屋は次の選挙を考え、政治家は次の時代を考える」。