第二十四話「突然の喪失」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第二十四話「突然の喪失」
翌日の夕方、李麗穎の豪華な邸宅で小さな祝宴が催された。今泉謙太郎と麗穎が正式に婚約することを祝う会だった。華やかな雰囲気の中、謙太郎は李天佑に近づいた。
「お父様、少しお話があります」
2人は庭の隅にある東屋へ移動した。夕陽が湖面に反射して黄金色に輝いている。「今日の麗穎はいつにも増して美しいだろう?」。天佑が言った。「私は君と娘の未来にこの風景を残したいと思っているんだ」。謙太郎は深呼吸をした。「単刀直入に申し上げます。私は明日、日本に戻ります」。天佑の表情が凍りついた。「何だと?」。「麗穎との結婚の前に、家族と相談したいことがあります」。
「それは困る」
天佑の声が急に低くなった。「我々はすでに大きな投資をしている。娘との結婚を進める前提で政治的な調整も済ませてきた」。「ですが・・・」。謙太郎がそう言いかけた瞬間、背後から女性の悲鳴が聞こえた。振り返ると、麗穎が床に倒れている。側には空になったグラスが転がっていた。
「毒か!」
天佑がそう叫び、すぐにボディガードたちが動き出した。室内が混乱する中、謙太郎は李家の執事が自分のポケットに何かを入れるのを目撃した。麗穎は激しく咳を始め、彼女の顔から血の気が引いていく。腕には急に紫斑が広がり、まるで皮膚の下で何かが爆発しているかのようだった。額から汗が噴き出し、熱があるのか唇が異様に赤くなっている。