第二十一話「離れぬ葛藤」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第二十一話「離れぬ葛藤」
「お父様は、どうして謙太郎にあんなものを見せたのかしら?」。李麗穎は父親の李天佑が中国の機密情報を今泉謙太郎に教えたことが不思議でならなかった。天佑は「娘の婚約者が本当に信用できるかどうか、私は確かめなければならなかったのだ」と語っていたが、どうにも解せない。天佑はテーブルに地図を広げ、「これから私が話すことは絶対に口外しないでほしい。特に中国政府に対して」とも言っていた。「なぜ中国に?」。麗穎には不安が充満する。
翌朝、謙太郎はホテルのカフェで1人コーヒーを飲んでいた。昨日見せられた秘密施設の状況が脳裏に焼きついている。そして天佑の「もし日本と中国の間で何か起これば、君はどちらを選ぶ?」という言葉が重く響いていた。
「いたいた、今泉謙太郎さん!」。聞き覚えのある声が店の入り口から聞こえてきた。顔を上げると、そこには日本人男性が立っていた。「茂田さん、なぜここに?」。謙太郎は就職先の内定後、座学のチューター役を務めていた茂田伸夫が中国にいることに驚いた。それも自分を探していたような口ぶりだ。自分が渡航していることは誰にも話していなかったはず。それなのに、一体なぜ?