第二十二話「子供の憧れ」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第二十二話「子供の憧れ」
京都大学法学部4年の今泉謙太郎は、国家公務員試験を無事パスし、まもなく研修を受けることになっていた。警察官僚を志望したのは、父・誠一郎の影響が大きい。小学校に入ったばかりの謙太郎が玄関先で手を振ると、制服姿の父は必ず振り返り、帽子を持ち上げて笑顔を見せた。「行ってくるぞ、謙太郎!」。その言葉と誇らしい後ろ姿に謙太郎は喜び、いつしか憧れを抱くようになった。
誠一郎は大阪府警地域課で長年勤め、退職まで一貫して市民の安全を守った。まさに「おまわりさん」の鑑だった。街中の喧嘩を仲裁し、迷子になった子供を見つけ出し、年末には酔っ払いのトラブルにも対応する。ドラマのような派手な逮捕劇はないかもしれないが、父の仕事は誰かの日常を支え、小さな笑顔をつくり出す尊いものだと謙太郎は思っていた。父の背中を幼い頃からずっと追い続けてきた。
中学生になると、謙太郎の志望は自然と固まった。「俺も親父みたいな警察官になる」。それが口癖となった。父親が退職を迎え、長年の功績が称えられて感謝状を受け取る凛々しい姿。涙ながらに「長い間、本当にありがとうございました!」と敬礼する父の部下たち。そして「皆さんの協力あってこそです」と深々と頭を下げる父。あの光景を見て、謙太郎は「俺も人を守る仕事がしたい」と決意を固めた。