第5回【固定金利 vs 変動金利】住宅ローンの金利タイプに関するEさんの悩み
本連載では、老後資金の計算をする上で気になるポイントを取り上げ、どのような差が出るのか検証しています。
第5回のテーマは【固定金利 vs 変動金利】。
ローンを組んでマイホームを購入する際に、この2択が迫られます。住宅ローンの組み方は、生活資金にどのような影響を与えるのでしょうか。
目次
住宅ローンにおける金利タイプの一般論
住宅ローンを組む際に変動金利を選択する人が増えています。
住宅金融支援機構の『住宅ローン利用者の実態調査』によると、2020年10月から2021年3月の間に変動金利タイプを選択した人の割合は68.1%と、3年前の56.5%に比べて2割増加していましたが、一方、固定金利タイプを選んだ人は11.2%しかいませんでした。
変動金利タイプの住宅ローンは空前の低金利を背景に、利用者を増やしてきました。実質金利が1%を切る金融機関も珍しくありません。
一方で固定金利タイプの住宅ローンのメリットは「完済するまで金利が変わらない安心感」であると、フラット35のホームページを始め、多くの記事で金融関係者が言及しています。
一般論として、変動金利タイプ(全期間変動型、固定金利期間選択型)は次のような場合に向いているとされています。
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一方、固定金利タイプ(全期間固定型)が向いているのは次のような場合とされています。
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え? 「資金の問題や心理的な好みなど、いろいろな基準がごちゃ混ぜになっていて分かりにくい」ですって?
そういう場合は「金利の違いもお金の話だから、どっちがおトクか計算してみれば分かる」と考えたEさんのケースを見てみるといいでしょう。
30歳・地方公務員Eさんのライフプラン
Eさんは専業主婦の妻と幼い2人の子どもと共に賃貸住宅で暮らす30歳の男性。地方都市の市役所に勤務する公務員です。
マイホームの購入に向けて内覧や物件検索に励む中、Eさんは理想の住宅を見つけました。
中古ですが築年数の浅い3LDKの一戸建て。物件価格は3500万円。自己資金を800万円ほど用意し、3000万円の住宅ローンを組む予定です。
まだ給与がそれほど高くないEさんは「毎月の返済負担をなるべく減らしたい」と思って、返済期間35年・元利均等返済方式でローンを組むことにしましたが、悩んでいるのは金利タイプです。
金利が低く返済額も少ない変動金利タイプは魅力的ですが、返済計画を立てやすい固定金利タイプにもひかれています。
「(変動金利を選んで)もし金利が上がったら、どれくらい損をするのだろう?」「もし金利が上がったら、家計のやりくりはできるだろうか?」
これらの不安や疑問を解消するため、生涯の資金計画に沿っていろいろなパターンを計算してみることにしました。
条件は次の通りです。
給与収入 |
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現在の額面年収460万円、昇給額は51歳まで毎年20万円、55歳までは10万円、60歳で定年退職するまでは5万円(年収のピークは定年退職前の950万円)。60歳から65歳になるまでは再雇用されて働き、年収400万円。手取りは額面に対して年収460万〜700万円のときは77%、700万円以上のときは75%、400万円のときは80%とする。 |
住居費(住宅ローン返済を除く) |
固定資産税や修繕費などで年間30万円。 |
生活費(住居費を除く) |
現役時代、年収600万円までは年間309万円、年収750万円までは362万円、それ以降は407万円。60歳台は260万円、70歳以降は250万円(総務省による家計調査を参考にした)。 |
退職金 |
60歳の定年退職時に手取り2200万円と予想。 |
年金収入 |
23歳から厚生年金に加入、それ以前の国民年金も納付済。将来受け取る年金は夫婦で年額303万円と予想。 |
貯蓄 |
妻と自分の貯蓄700万円。住宅購入に際して親族からの援助が300万円。 |
住宅購入にかかる費用 |
仲介手数料や火災保険料、登録免許税などの合計で204万円を現金で支払う。 |
その他収入 |
住宅を購入した翌年の31歳から住宅ローン控除を適用し、10年間で合計256万円の収入とする(全プラン共通)。 |
以上の条件の下、夫婦共に95歳まで生きると仮定して資金計画を立てました。
全期間固定ローンの場合
まず試算したのはフラット35(全期間固定金利型)を利用するプランです。
Eさんがローンを組むことを考えている銀行では
事務手数料 | 借入額の1.65% |
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保証料 | 無料 |
適合証明書の発行手数料※1 | おおむね7万円前後 |
ローン諸費用※2 | 69万円 |
仲介手数料などの物件購入費用 | 273万円(一括で支払う) |
金利※3 | 1.33% |
毎月の返済額※4/総返済額 | 8万9377円/約3754万円 |
ローンを完済するまでの年間の住居費 | 137万円 |
将来の黒字額 | 3262万円 |
95歳時点における貯蓄額 | 3957万円 |
※1 フラット35に特有の初期費用。購入する予定の住宅がフラット35の対象となる要件を満たしていることを確認するためのもの。 ※2 印紙税、登録免許税、司法書士報酬など。 ※3 2021年12月現在の一般的な水準。団体信用生命保険(新機構団信)の保険料含む。 ※4 35年、元利均等返済方法で計算。
という結果になりました。
ローンを組んでから数年間は1年間の家計が赤字になる年もありますが、その後は定年後の再雇用による年収減とローンの返済が重なる60代を除いて黒字となっています。
現役時代の恵まれた収入とそれに伴う年金収入の高さが功を奏したといえます。