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人生100年時代の生活資金シミュレーション

第3回【キャリア vs 介護】要介護状態の父親を持つCさんの悩み

人生100年時代の生活資金シミュレーション

「老後資金は2000万円」という言葉がひとり歩きしているので「定年までに2000万円貯めなきゃ!」と思い込んでいる人もいるかもしれません。

しかし老後資金の必要額は一律に考えるのではなく、人それぞれ異なっている収入や資産状況を踏まえて計画すべきです。

本連載では老後資金の計算をする上で気になるポイントを取り上げ、どのような差が出るのか検証していきます。

第3回は【キャリア vs 介護】。少子高齢化が進む中、介護による現役世代への負担は重くなりつつあります。家族のためにキャリアを断念する人もいるかもしれません。近年、脚光を浴びている「ジョブ型雇用」は介護問題の解決策になるのでしょうか。

目次

「介護問題」はある日突然やってくる

必要な老後資金の金額が簡単に分かる計算式があります。

  • 【老後の年金収入】-【老後の生活費】×【亡くなるまでの期間】=【老後資金】

この式を使って計算し「必要な老後資金の平均は約2000万円」と結論付けたのが「老後資金2000万円問題」で取り上げられた『金融審議会市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」』です。

ただし、この計算式には介護費用や介護リフォーム代など、突発的あるいは一時的にかかる費用は含まれていません

介護はいつ発生するかが予想しづらいライフイベントですが、親やパートナーなど、身近な人の誰にでも発生する可能性がある上、あなた自身も例外ではいられませんから、どれくらいの費用がかかるのか理解し、準備しておく必要があります。

そこで親の介護をきっかけに人生設計を考え直したCさんの例を見てみましょう。

働き盛りのサラリーマンCさんのライフプラン

Cさんは48歳のサラリーマン中堅規模のIT会社でシステムエンジニアの仕事をしています。

役職は課長級で年収は約500万円。仕事に忙しい毎日を送っており、貯蓄は700万円ほど。都内の賃貸マンションに一人で暮らしています。

そんなCさんに部長級への昇任の内示が出されます。

この昇進は仕事の内容もさることながら、収入面でもCさんにとって魅力的でした。

役職手当や期末賞与への加算などで年収は80万円ほど上がり、580万円になります。

先日受講した社内セミナー『定年後のライフプラン』では、課長級のままだと定年後の生活を切り詰める必要があるとの結果になりましたが、昇進すれば比較的余裕がある暮らしができそうです。

喜んだ矢先の休日、知らない電話番号から着信を受けます。折り返してみると、電話の主はCさんの顔見知りでもある、実家の父親のご近所さんで「父親が転倒し、病院に運ばれた」と言っています。Cさんはすぐに新幹線で1時間ほどかかる実家近くの病院へ駆けつけました。

父親は腰の骨を折る重傷です。2カ月後に退院したものの、要介護3と判定され、生活の多くの場面で介護が必要になってしまいました。

Cさんと父親はほかに身寄りがないため、父親の身の回りのことは今後Cさんが一手に担うことになります。

食事やトイレなどは基本的に単独では難しい状況です。今まで気付きませんでしたが、認知症の兆候も見られるようです。

男手一つで育ててくれた父親に少しでも恩を返したいCさん。仕事と介護を両立させる方法はあるのでしょうか

Cさんの老後資金が確保できるかどうかも気になります。

給与収入
現在の額面年収501万円、部長昇任後は580万円、昇給率は1.7%。60歳で定年退職。その後は再雇用され年収は半減、65歳まで年収350万円で働く。現役時代の手取りは額面の77%、再雇用時は82%とする。
生活費
会社の家賃補助を差し引いた家賃は月額約8万円。その他生活費が月額約18万円。年間にすると家賃約100万円、生活費約216万円の合計316万円。
父の年金収入
年金受給額は月額15万円。そのうち手取りは94%で、年間の収入は170万円。
貯蓄
貯蓄額はCさんが700万円、父が100万円。
スポット収入
60歳で定年退職した場合、Cさんの退職金は手取り2300万円。
介護の終了について
父が90歳(Cさん60歳)で亡くなるまで介護を続ける。葬儀費用は200万円とする。

父親の介護費用などの出費がなければ、Cさんは年金生活に入っても生活レベルを落とす必要がなく95歳時点で約700万円手元に残ります。自分の入院や介護が発生したとしても乗り切れる金額と考えられます。

Cさんは父親が90歳まで生きると想定していくつかの資金計画を立ててみました

「介護離職」は非現実的

介護と仕事の両立という状況がすぐには想像できないCさんは、介護のために退職し父親と同居するプランを立ててみました。

仕事のチャンスはふいにしたくありませんが、まずは極端なケースを想定してみることで選択肢が広がると考えたのです。

介護費用公益財団法人生命保険文化センターの『平成30年度生命保険に関する全国実態調査』より、在宅介護の平均値である月額4.6万円初期費用(ベッドの購入やリフォーム代)などは同じく要介護度3の平均値である93万円と見積もりました。父親の葬儀代は200万円の予定です。
生活費父親の食費やその他生活費は月額5万円、住居費は父親の持ち家であるため固定資産税や修繕費などで年間平均30万円、水道光熱費などを含むCさんの生活費はサラリーマン時代から少し抑えて月額約14万円・年間170万円とします。
介護期間の収入父親の年金収入である180万円・手取り169万円です。
退職金会社の規定を見てみたところ、48歳の今辞めると、退職金は1250万円でした。自己都合退職の場合は、定年退職に比べて支給率が下がるようです。
Cさんの老後資金Cさんが60歳のときに父親が亡くなった後、再就職して年間240万円稼ぎます。Cさんが65歳から受け取る年金は月額約12万円と試算しました。

以上を合計すると、60歳で再就職するかしないかのうちに貯金が底をついてしまいます95歳までの赤字を累積すると-2000万円となり、現実的ではありません

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この記事の著者
佐古野 道人

マネー専門ライター、ファイナンシャル・プランナー。一般企業で資産運用や税務を担当後、独立。WEB記事の執筆や校正校閲、書籍の企画・構成に携わる。日本FP協会資格認定会員(AFP)、日本証券業協会一種外務員。

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