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イラン戦争が市場に与える影響は?世界経済が迎える試練とは…鈴木一人氏「イランとしては、『負けなければ勝ち』」

 イラン戦争について、連日さまざまなニュースが流れている。一方でイラン戦争は現在のところ、地上部隊同士の大規模な直接交戦は行われていない。ホルムズ海峡封鎖に代表される、地経学的パワーが問われる現代の戦争の形とは。地経学の第一人者で、東京大学大学院教授/地経学研究所長の鈴木一人氏が解説する。

みんかぶプレミアム連載「鈴木一人 地政学×経済安全保障=地経学」

目次

トランプの本意を考えよう

 イラン戦争が市場に与える影響について考えてみましょう。2025年6月のイランへの攻撃や26年1月のベネズエラ攻撃はマーケットに影響が出る前に収束しましたが、今回は「ホルムズ海峡の封鎖」という、これまでにはなかったことが起こっています。この状態が長引けば、実体経済に大きな影響が出ます。そうなれば株式市場も大きな傷を負うでしょう。

 まだ戦争が続く可能性は高いので、楽観は危険です。いまはかなりボラティリティの高い相場となっていますが、そこには「トランプの一言一言にアルゴリズムが反応してしまう」という理由があります。

 AIはまだ、トランプの言っていることのうち、何が正しくて何がハッタリかを見抜くことはできません。だからトランプの発言を額面通りに受け取って、機械的にボラティリティの高い売買が行われてしまうのです。

 そんな中で私たちは何を見ればいいのか。まずは「トランプの言っていることを真に受けすぎない」ことが重要です。一方で、トランプの置かれた制約要因を考えながら、「トランプの本音はどこにあるのか」も考え続ける必要があるでしょう。

 トランプは、私たちの常識に当てはめようとしても、とても当てはまる人物ではありません。彼は法律や社会的規範といったものには縛られません。

 しかしそんなトランプにも、制約要因はあります。たとえばトランプは、中国との関係を安定化させようとしています。それはひとえに、中国からレアアースが入ってこなくなると困るからです。

 マーケットについても、株価の下落にはあまり反応しませんが、債券が下落すると反応します。それらはトランプの行動を分析するうえで、重要なファクターとなります。

イランの勝利とは「負けないこと」

 いまアメリカは、「戦争の落としどころ」を見失っている状況にあります。では、イラン側はどう考えているのでしょうか。

 イランとしても、圧倒的な兵力の差がありますから、「アメリカと真正面から戦って勝てる」とは思っていません。ただそもそも、勝ち負けの基準がアメリカとイランでは大きく違うことを認識しておく必要があります。

 イランとしては、「負けなければ勝ち」です。要するに、相手を叩きのめすことができなくても、自分が最後まで倒れなかったら勝ちなんです。

 いまの状況に当てはめると、トランプの求める全面降伏に応じることは「負け」です。ですからその要求は呑めない。一方で降伏せずに戦い続け、アメリカが疲れて撤退すれば「勝ち」です。ですから、アメリカが「もうやってられない」と考える状態を作るのがイランの目標です。

 ではどうすればアメリカが撤退するのか。前述の通り、武器と武器で戦っても勝ち目がありません。そこでこの状況下で取りうる最も強いカードが「ホルムズ海峡の封鎖」による原油輸送の停止と世界経済の混乱だったのです。

 その結果困った世界中の国々が、アメリカ側に対して「もう戦争をやめてくれ」と迫る状況を作り出すことが狙いだと考えられます。

イランは「中東の戦争作法」を破った

 湾岸諸国に対する報復攻撃も、同じ理屈で考えることができます。この攻撃は「 アメリカの基地を狙っている」との建前でしたが、実際には民間の施設を攻撃しています。とくに、イランの海水を真水にする淡水化施設への攻撃に対する報復は、湾岸諸国にとって大打撃でした。

 オマーンやアラブ首長国連邦(UAE)は、淡水化施設によって作られた水が飲用水・生活用水の8~9割を占めています。ですからこの施設がなくなると、本当に人が死ぬのです。

 もちろん、戦争は人の命を奪う行為ですが、中東には昔からある種の“戦争の作法”があり、「立ち直れないレベルまでの攻撃はしない」という不文律がありました。

 しかし今回、アメリカもイスラエルもイランはそのタブーを破って攻撃しました。アメリカという「作法を知らない国」が入ってきた結果と言えますが、攻撃した後のことを考えていたら、おそらくこのような行動は取れなかったでしょう。

 いまイランは「生きるか死ぬかの瀬戸際に立たされている」ところまで追い詰められていると見ることができます。だからこそ、捨て身の姿勢を取ってでも、とにかくアメリカ・イスラエル“以外”の国が困ることをやっているのです。

 ただし、このような戦い方をした代償は大きい。戦争が終わったとしても、今回の行動は中東諸国に大きな禍根を残すことでしょう。

 現代は、武器で武器と戦うのではなく、武器以外の手段を使って相手の脆弱性を突くような、地経学的な戦い方が常態化してきたと言えます。

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この記事の著者
鈴木一人

立命館大学大学院国際関係研究科修士課程修了、英国サセックス大学大学院ヨーロッパ研究所博士課程修了(現代ヨーロッパ研究)。筑波大学大学院人文社会科学研究科専任講師・准教授、北海道大学公共政策大学院准教授・教授などを経て2020年10月から東京大学公共政策大学院教授。国連安保理イラン制裁専門家パネル委員(2013-15年)。2022年7月、国際文化会館の地経学研究所(IOG)設立に伴い所長就任。

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