高市政権が注力する17の戦略分野からわかる今後の投資注目セクターを経済アナリストが解説…高市首相の狙いは「脱中国」

不安定な中東情勢の先行きが見えぬ中、日本のマーケットは力強い。日経平均株価は史上最高値となる6万円を突破し、なおも勢いは衰えないままだ。
この先の国内市場を見る上で重要な要素となるのは、高市早苗内閣の「成長戦略」だろう。霞が関官僚から政策メニューを集めた単なる「短冊」で終わるのか、それとも官邸主導、政治主導で日本の未来像を描くことができるのか。次なる一手に国内外の市場関係者も熱視線を送る。
「高市政権の経済政策『サナエノミクス』が単なる財政拡張・金融緩和路線であるのか否か。この夏に打ち出されることになる内閣の『日本成長戦略』を見れば、方向性がはっきりする」
このように語るのは、経済アナリストの山田隆氏だ。政権が重視する官民投資の促進、重点施策への予算配分が中でも重要な要素になるという。はたして、高市首相は「ジャパン・イズ・バック」をもたらせることができるのか。今後、注目すべき点を山田氏が解説する。
目次
高市政権が指定した17項目の戦略分野
高市政権は昨年11月、政府の「日本成長戦略会議」で17項目にわたる戦略分野を指定した。官民投資の促進に向け、今夏に具体的な成長戦略を策定する予定だ。まずは、その17分野のテーマを並べてみたい。
【戦略分野】
① AI・半導体
② デジタル・サイバーセキュリティ
③ 情報通信
④ 量子
⑤ 防衛産業
⑥ 航空・宇宙
⑦ 海洋
⑧ 造船
⑨ マテリアル(重要鉱物・部素材)
⑩ 合成生物学・バイオ
⑪ 創薬・先端医療
⑫ 資源・エネルギー安全保障・GX
⑬ フュージョンエネルギー
⑭ 防災・国土強靱化
⑮ 港湾ロジスティクス
⑯ フードテック
⑰ コンテンツ
この17分野のテーマをご覧になって、「何かすごそうだ」と感じる人もいるだろう。だが、実際には既存予算の枠組みに上乗せされているようなものが多いと言える。GXにしても、AIや半導体、バイオ(医療)にしても同様だろう。このテーマをあまりに重視してしまうと、「乗り遅れ感」を抱いてしまうかもしれない。
高市政権は「脱中国」を狙っている
では、何が「17の戦略分野」における注目点なのかを解説していきたい。新しいものとしては、フュージョンエネルギー(核融合発電)と港湾ロジスティクスである。特に核融合の方は高市首相がスタートアップをお気入りというから心強いテーマとなりそうだ。
なぜ、この2つの分野が重要になるかと言えば、これは高市内閣の性格とも関係している。それは端的に言えば、「脱中国」である。
まずは、フュージョンエネルギーについて見ていこう。フュージョンエネルギーは、ITER(核融合実験炉)計画での研究開発で培った世界トップレベルの技術力を活かし、競争力のあるフュージョン発電システムを世界に先駆けて確立することを目標とする。新たなエネルギー源として環境問題の解決、エネルギー安全保障の強化を実現するとともに、システム輸出・主要コンポーネント輸出を通じて海外市場の獲得も狙う。
ポイントと言えるのは、当面は国主導で技術開発を進めるものの、その先はスタートアップなどによる発電システムの実現に向け集中的な支援を図り、「2030年代の発電実証」を実現すると掲げる点だ。
2030年代に向けて複数年度の取り組みとし、関係企業・大学などにおける人材の結集や政府投資を軸にした資金供給・確保、スタートアップによる研究開発支援など企業経営力の向上、ITERへの戦略的参画など国際連携(アライアンス)を原則とする。この分野におけるスタートアップの登場は、市場において注目されるのは間違いないだろう。
経済安全保障リスクを低減する
次に、「港湾ロジスティクス」を見ていきたい。これまで港湾荷役機械には制約要因や不確実性が指摘されてきた。主なものとしては、生産能力の不足や自動化・遠隔操作化の遅れ、自動化コンテナターミナルの国際標準化の動きなどがあり、さらに他国との競争環境の激化と相まって思い切った投資に二の足を踏んできた感は否めない。
ただ、日本製の信頼性や耐震性はたしかなのも事実だ。生産に必要な設備投資などへの支援や国際コンテナ戦略港湾の機能強化、海外展開支援を行うことで生産機能を強化し、技術開発の促進や市場競争力の強化を狙う。国内外の港湾への実装を通じて国内港湾の高度化を図り、需要増に伴う投資促進につなげる好循環を描くものだ。
高市内閣は「目標」として国内市場を維持しつつ、米国やアジア太平洋地域を視野に国外市場の拡大を目指す。具体的には、年間約200億~300億円に拡大していく方針だ。これによって2040年頃をメドに「米国市場の3割程度」のシェア獲得を狙う。同盟国・同志国における経済安全保障リスクの低減をも包含するものと言えるだろう。
港湾ロジスティクスの重要観点「サイバーポート」とは何か
港湾ロジスティクスには、あと2つの重要な点がある。1つ目は、「サイバーポート」(港湾物流DX)だ。港湾手続き、港湾調査・統計、港湾インフラのあらゆる港湾関係情報をデジタル化するプラットフォームである。
これまでは港湾を利用する際に必要となる手続きや情報が必ずしも全てサイバーポート内に含まれておらず、貿易プラットフォームの仕様・項目が統一されていなかったり、デジタル化に必要な人材が不足していたりした。政府は、デジタル標準化にかかるルールづくりを進め、サイバーポートとのシステム連携に必要な投資支援を実施する。また、サイバーセキュリティ対策を推進し、事業者の不安を払拭しつつ、デジタル人材の育成や業務のシステム化・効率化を進めていく考えだ。港湾手続きの電子化や利用者数の増加、連携システムの拡大を通じてデータ利活用による業務へのフィードバックも図っていく。
高市内閣は「目標」として、2026年3月1日時点で約1100社のサイバーポート利用登録状況を「2035年度末に約11000社」と連携することを目指す。港湾関係者、物流事業者、船社などの手続きをサイバーポート経由で完結できるようにし、デジタル標準化を実現する。
サイバーポートが港湾利用者の共通インフラとなることにより、コンテナ半有事のゲート前待ち時間が現状の10~30分から「0分」になるよう目指すという。また、24時間・365日、サイバーポートが安定稼働できるようサイバーセキュリティを確保する方針だ。
2つ目の重要観点「次世代型倉庫」とは何か
2つ目は、「次世代型倉庫」である。用地や人材が不足する中、AIやIoTを活用し、庫内作業の自動化・機械化、自動運転車両の乗り入れへの対応などを通じ、保管機能を高度化させる。
これまでは倉庫の老朽化や陳腐化を解消するため、その集約・再編に必要な港湾周辺の土地が不足していることが課題だった。建設費の高騰や日本の国際コールドチェーン物流サービス規格の浸透不足なども背景にある。政府は立地自治体との連携による次世代型倉庫を支えるインフラを整備し、低利融資や税制特例による倉庫の集約・再編を支援する。
さらに食品加工・流通、創薬などに資する倉庫を含む高品質なコールドチェーン物流サービス規格の海外展開を促進していく考えだ。倉庫機能の自動化・機械化、倉庫の容量確保、レジリエンス強化により、保管効率・能力を増強し、輸出入貨物の取扱量を増加させていく。
港湾ロジスティクス分野も複数年度の取り組みとし、港湾荷役機械の自動化・遠隔操作化などのさらなる推進による労働環境の改善を図りつつ担い手を確保。デジタル化推進のために必要な人材の育成にも取り組む。スタートアップ企業を含む民間独自のシステムとサイバーポートのさらなる連携を推進し、日本企業の強みを活かした自動化コンテナターミナルなどの国際標準化に関する取り組みなども進める。
今回は2つの分野を取り上げたが、他の15分野においても「脱中国」といった高市内閣の性格から見ればわかりやすいものがある。今年夏にまとまる成長戦略の具体的な中身を見れば、この先の市場がどのようになるのか予想が可能になるはずだ。はたして、高市首相は「ジャパン・イズ・バック」をもたらせることができるのか。その力量が問われることになる。