職人の一言が魂に火をつけた。女性起業家・勝友美が28歳であえて「衰退市場」を選んだ覚悟と、足がすくまないための行動ルール
「業界が衰退しているから、もう先がない」――。そう判断して撤退を決めるのは簡単だが、その決断が大きな利益を取りこぼすことにつながる場合がある。安売り競争に走る市場の波に飲まれ、本来の価値を見失ったとき、人は最も損な選択をしてしまうものだ。
かつてアパレル業界の変質を目の当たりにした勝友美氏は、周囲が効率を求める中で逆の道を選んだ。大手が捨てたものの中にこそ、唯一無二の勝機がある。本稿では彼女が「女性向けオーダースーツ」という未開の地に賭けた理由と、厳しいビジネスの世界で結果を出し続けるための、利益至上主義とは異なる「意外な決断基準」を深掘りする。
みんかぶマガジン連載「バリキャリ女性社長のワークライフ・ルール」第1回
目次
割引競争が業界を壊す。25歳が見た、市場縮小の構造
アパレル業界でキャリアを積んでいた25歳のころ、勝社長はオーダースーツ業界が変質していく現場を目の当たりにしていた。ファストファッションの波が押し寄せ、オーダースーツの世界でも「2着で20%オフ」といった割引競争が始まる。単価が下がれば回転率を上げなければならない。回転率を上げれば、ヒアリングに時間をかけられなくなる。
「オーダースーツって、既製品では味わえない体験をしに買いに来てくれるお客様が多いはず。それなのにお店に行ったら時短接客されて、結局高いお金と時間をかけた割に特別いいものが出来上がってくるわけでもない。顧客満足度の低下が起こることで、スーツ業界がどんどん衰退していく——そういうことが起こっているのを目の当たりにして、もう辞めたくなったんです」
オーダースーツ本来の価値は、寸法の正確さだけにあるのではない。お客様の目的をじっくり聞き、その一着に意味を込めること。就職活動、昇進、大事な商談——人生の節目に着るスーツには、それを買いに来るまでの物語がある。その物語を丁寧に扱う時間を削った先に残るのは、ただの服だ。勝社長が感じた違和感は、そこにあった。
辞めようと思ったときに訪れたのが、縫製工場だった。40年間、布を裁ち続けた職人。20年間、ボタンをつけ続けた職人。その一人に「何を考えながらボタンをつけているのか」と聞くと、「毎日、この服を着る人はどんな人なんだろうと考えながらつけているんですよ」という答えが返ってきた。
「それを聞いたときに、魂に火がついたというか。この人たちが受け継いできた職人文化を衰退させてはいけないと思ったのと同時に、この温度をそのままお客様に届けるのが、お店にいる人間の仕事だよなって」