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そして「WHITE…」へ、「余白」の先へ…羽生結弦『“REALIVE”an ICE STORY project』試考(3)

(c) AdobeStock

日野百草 ファンしか知らない羽生結弦

目次

羽生結弦といえば白

〈白はすべての色を溶かす〉

 まさに、羽生結弦のことだ。

 ウィトゲンシュタインは白についてこうも述べている。※

〈人はしばしば白について、色がついていない、と言う。それはなぜか?(透明のことを考えているわけではない場合でも、白には色がついていないと言う。)白がその他の純粋な色と同等に見えるときもあり(旗の場合がそうである)、逆にそう見えないときもある、というのは注目に値する〉

〈白っぽい緑や白っぽい赤が『濃くない』と言われるのはなぜだろうか? これらの色を薄めるのが黄色ではなく白なのはなぜか? このことは色の心理学(つまりは色が与える印象)の問題なのだろうか、それとも色の論理学の問題なのだろうか?〉

〈人が『濃い』あるいは『くすんだ』等々といった種類の言葉を用いるのは心理的なものに基づいているのだが、しかし、人が一般に明確に〔色を〕区別するとき、それは概念的なものを目指している〉

 どうだろう、あえて『WHITE…』つまり、白へと至るに何らかの手がかりになるのではないかという部分を引かせていただいた。

 色は、白に始まり白に帰結する。

 拙筆『羽生結弦は、白がよく似合う…アクア「創新」の白、宝石のような白、真っ白な心のままに』でも白について言及しているが、羽生結弦といえば白、白鳥、ロミジュリ、SEIMEI、そしてダニーボーイであり『WHITE…』という必然は確かだ。

 しかし、これまでのプログラムと『WHITE…』が違うのは「白そのもの」が主題として提示されているということだ。

 「Prequel」ーー羽生結弦はうずくまる。風ばかりの中で。天の檻が暗示するのが何かもわからないままに。氷上の四角形、そして赤色や黄色といった光に彩られ、宇宙を漂い、白の空間へと至るーー「Prequel」の言語化は非常に難しい。それこそウィトゲンシュタインの「語り得ぬものについては、沈黙しなければならない」がもたげてくる。

白の世界には何がある

 それにしても羽生結弦、氷上のモノドラマ(一人芝居)とも言うべきアイスストーリーの系譜はさらなる進化を遂げている。「前日譚」であっても20分をひとりで演じきる、それも氷上でーーオリジナルの創作、極彩色の景、何度も書くが「ひとりバレエ・リュス」とつくづく思う。そう思わざるを得ない。

 間違いない、やはり21世紀氷上芸術の幕開けは羽生結弦であったと後世の歴史は間違いなく記すであろう。

 ぶっちゃけ、こんなものを観たことがないのだから。

 みなさんもそうだろう。そうだ、観たことないんだ。羽生結弦のプログラムは、いつだってそうだ。

 それにしても、あの美術館には、白の世界には何があるのだろうーー。

 羽生結弦は〈みなさんが想像出来る、余白のある物語にしたい〉と語った。広大な余白に思う。そして余白もまた「白」だ。

 色の三原色に白はない。光の三原色に白がある。

 白は色であって色でない。

 色でないが色である。

 白は無色でも透明でもない。

 そこに白がある。

 実のところ、白というのは私たちの人の生そのものの有り様に思う。私たちが白を好む(とくに日本人は白が好きとされる)ことは、人であることの生をもっとも投影しうる色が白であること、白は何物にも染まり、何物にも染まらない、ただもっとも明るい光としての存在に惹かれるからなのかもしれない。

 曲は原摩利彦、いまや映画『国宝』で知られるが、私は川久保玲子率いるファッションブランド「コム・デ・ギャルソン」のデザイナーのひとりである渡辺淳弥のショー(2019年)で印象深い。『Prequel』から『WHITE…』へ、どんな音の「白」を、極彩色を魅せてくれるのだろうか。

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この記事の著者
日野百草

1972年生まれ。日本ペンクラブ広報委員会委員。出版社勤務を経て国内外における社会問題、政治倫理を中心に執筆。大学院で芸術学を専攻、修士(芸術)、芸術修士(MFA)。文芸論、人物評伝および比較史におけるポップカルチャー、またフィギュアスケートなど舞踏芸術に関する論考も手掛ける。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。著書『評伝 赤城さかえ 楸邨・波郷・兜太に愛された魂の俳人』他。

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