IR(独自企業分析)

「歯科、人工臓器・器官・皮膚テーマ、研磨 テーマ」㈱松風

今回は、「歯科」「人工臓器・器官・皮膚」「研磨」などの「株テーマ」関連から株式会社松風(7979)です。

Key Points:

  • 創業来100年を超える歯科医療で培ってきた「技術力」と積極的な「グローバル化」が強み。
  • 2023年3月期は過去最高の「増収増益」。P/Lの主要項目すべてにおいて2桁の「増益」を達成! 2024年3月期も引き続き3期連続で過去最高の「増収」を見込む。
  • 株主還元においては、前期の「39円」から18円増配(普通配当47円プラス創立100周年記念配当10円)して1株当たり年間配当金額「57円」!なお、2024年3月期は普通配当を維持して47円を想定。

目次

Identity

★企業能力 KFS(Key Factor for Success = 重要成功要因):

創業来100年を超える歯科医療で培ってきた「技術力」と積極的な「グローバル化」

 松風は、「人工歯」、「研削材」、「歯科材料・機器」などの製造・販売、いわゆる歯科関連分野を柱に事業展開しており、国内4社、海外15社の子会社および関連会社でグループを形成しています。

 キーワードは、創業来100年を超える歯科医療で培ってきた競争力のある製品開発を可能とする「技術力」と積極的な「グローバル化」です。同社の「技術力」の優位性は、「人工歯類の製品シェア37.0%(2018年暦年)」、「特許保有件数は423件」という高い数値に示されています。さらに現在、グローバル展開を支える生産・品質体制と販売ネットワークが生み出す「信頼感」を背景に、世界100か国以上で約2万品目を超える製品を販売しており、海外売上高比率は50%を超える実績を誇ります。

 同社のメッセージ「噛む、笑う、生きる、を支える。」は、自社イメージを発信しているもので、松風の「技術力」と「品質力」の結晶である製品を世界中に届ける、そして人々の「生きる」を同社が支えるという自社の決意を表しています。

Performance:全体業績

経営環境

 2023年3月期の世界経済は、ウクライナ情勢を受けた資源・エネルギー価格の高騰のほか、各国の金融引き締め政策や急激な為替変動に加え、年度末にかけては欧米の金融不安が高まるなど、先行き不透明な状況で推移しました。国内経済についても、世界経済と同様のリスク要因に加え、物価高騰による消費マインドの低下などの懸念材料もあり、景気悪化への懸念が払拭できない状況が続きました。

 歯科業界は、新型コロナウイルス感染症の影響は徐々に収まりを見せ、昨年6月に閣議決定された骨太方針において、国民皆歯科検診の導入検討が発表されるなど、明るい材料もありましたが、歯科医療のデジタル化の進展など市場環境は変化を続けています。

 このような状況の中、2022年5月に創立100周年を迎えた松風グループは、第四次中期経営計画の二年目を迎え、今後の成長に向けた積極的な施策を推進してきました。具体的には、成長が見込めるデジタル歯科や予防分野の新製品を市場に投入するほか、デジタルコンテンツの充実等を通じて歯科医療従事者への情報提供活動の強化に努めました。また、新興国を中心に海外販売網の拡充に注力するとともに、京都本社内に歯科用CAD/CAM製品のデモ体験ができるショールームを備えた新社屋「あゆみテラス」を竣工させるなど、今後の成長に向けた事業基盤の整備に取り組みました。さらに、サステナビリティ経営を推進するための基本方針を策定するとともに、優先的に取り組むべき重点テーマと重要課題(マテリアリティ)を特定し、目標達成に向けた取組みを展開しました。 

2023年3月期決算の概要

P/L

P/Lは「増収増益」で過去最高の業績を達成。売上高12.6%増、営業利益18.9%増、経常利益15.8%増、親会社株主に帰属する当期純利益23.1%増。

 2023年3月期は「増収増益」で過去最高の業績を達成しています。売上高は前年同期比 12.6%の「増収」、利益面では営業利益18.9%、経常利益15.8%、親会社株主に帰属する当期純利益23.1%と、P/L上のすべての主要項目で2桁の「増益」です。

B/S

 B/Sでは、自己資本比率は80.5%から80.8%へと推移、引き続き高い財務の健全性を確保。またROEは1.1ポイント改善し9.2%へと上昇!

 総資産は、商品及び製品や本社内の新社屋建設に伴う有形固定資産の増加などにより、3,017百万円増加して43,727百万円でした。負債は、未払法人税等や設備関係未払金の増加などにより、前期末比441百万円増加し、8,211百万円でした。また純資産は、利益剰余金の増加などにより、前期末比2,575百万円増加し、35,515百万円となりました。この結果、自己資本比率は0.3ポイントUPして80.8%へと推移しています。高い財務の健全性を確保しており、M&Aなどの将来に向けた成長戦略への「お金」の備えも万全です。また、ROEは1.1ポイント改善し9.2% です。

C/F

フリーキャッシュフローは2,448百万円から1,880百万円へとマイナス推移!

 フリーキャッシュフローは、2,448百万円から1,880百万円へとマイナス推移ですが、現金及び現金同等物期末残高は、前年同期比で622百万円増加しています。

なお、各キャシュフローの状況では、営業活動によるキャッシュ・フローは、3,170百万円のプラス(前期比566百万円の減少)となりました。これは主に税金等調整前当期純利益4,410百万円によるものです。投資活動によるキャッシュ・フローは、1,290百万円のマイナス(前期比1百万円の減少)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出1,545百万円によるものです。財務活動によるキャッシュ・フローは、1,457百万円のマイナス(前期比382百万円の減少)となりました。これは主に親会社による配当金の支払額730百万円や、長期借入金の返済による支出325百万円によるものです。

株主還元

前期の39円から18円増配の57円配当を実施!

 同社の株主還元は、長期的な企業価値の向上と、株主への利益還元を目指しつつ安定した配当の維持・継続が基本方針です。一方で、経営基盤の強化・財務体質の改善を図りながら、海外事業の拡大、新製品開発のための研究開発投資等、将来における積極的な事業展開に備えるため内部留保の充実にも配慮しています。利益還元の指標は、連結配当性向30%以上を目標とするほか、純資産配当率(DOE)1.7%を目安としています。

 2023年3月期の1株当たり年間配当金額は、前期の39円から(100周年記念配当10円を合わせて)18円増額の57円配当を実施しています。2024年3月期の1株当たり年間配当金は普通配当47円の予定です。

2024年3月期の見通し

 今後の経済情勢については、世界経済全体では緩やかながら成長が続くと見込まれるものの、各国の金融引締め政策の影響により、欧米を中心に景気後退懸念が高まるなど、依然として楽観視できない状況が続くと予想されます。

 歯科業界においては、国内市場ではデジタル歯科や審美・予防分野の成長が期待できるほか、海外市場では各地域の経済成長や生活水準の向上により歯科医療の需要は拡大が見込まれます。このような状況の中、同社グループは「創造的な企業活動を通じて世界の歯科医療に貢献する」という経営理念のもと、世界の歯科医療への貢献度をより高めていくため、連結売上高500億円、連結営業利益75億円という“当社のあるべき姿”の実現を目指しています。

 第四次中期経営計画の最終年度を迎える2024年度は、グループの更なる成長に向けて、中長期における重点課題に対して、スピード感をもって着実に実行していく考えです。

2024年3月期の見通し(※2023年3月期4Q時点)

  • 売上高  :33,550百万円(前期比5.9%)
  • 営業利益 :3,820百万円(前期比△0.1%)
  • 経常利益 :3,938百万円(前期比△7.1%)
  • 親会社株主に帰属する当期純利益:2,769百万円(前期比△11.7%)

※主な為替レート想定:米ドル130.00円、ユーロ140.00円、英ポンド155.00円、中国人民元19.00円

Performance:セグメント別業績

 松風グループの事業は、「デンタル事業」「ネイル事業」「その他の事業」の3つで構成されています。売上高で9割を超えるデンタル事業を中核に、ネイル事業や工業用研磨材事業など、デンタル事業で培ってきた技術やネットワークを活かせる分野へも積極的に進出しています。

 2023年3月期における「事業セグメント別」の状況は、売上高構成比率92.3%を占める「デンタル関連事業」が13.0%の増収でした。「ネイル関連事業」は8.2%の増収、「その他の事業」は1.0%の増収となっています。

「地域セグメント別」の状況では、海外売上高比率が51.8%から54.9%へと推移しており海外ビジネスの力強い成長性を物語っています 。

ESG Elements:環境・社会・ガバナンス

 同社では、SDGsおよびESGを重視したサステナブル経営を推進する上で、グループの「サステナビリティ基本方針」を策定するとともに、4つの重点テーマ(とそれに紐づくマテリアリティ(重点課題))を特定しています。

Environment(環境)

 環境関連では、地球環境温暖化防止に向けてCO₂排出量削減に取り組んでおり、省エネにつながる設備への更新によるエネルギー効率の向上、また工場や事務所の照明器具のLED化などを推進しています。

Social(社会)

Governance(ガバナンス)

 ガバナンス体制においては、13名中6名と社外役員比率は46.2%です。

 また、従来0名であった女性役員については、2023年6月の株主総会で新たに選任されており、同社のガバナンス体制の多様性に進展が感じられます。(円グラフは2023年3月31日現在の状況)

Plan 中期経営計画

 同社グループは、「創造的な企業活動を通じて世界の歯科医療に貢献する」という経営理念の実現を目指して、第四次中期経営計画を推進しています。

 最終年度である2024年3月期の目標指標を「売上高315億円(国内148億円/海外166億円)」、「営業利益37.9億円(営業利益率12.0%)」、「ROE(自己資本利益率)8.0%」としています。

 この目標指標はすでに達成済であるため、2024年3月期の直近見通しでは、売上高335.5億円、営業利益38.2億円、経常利益39.3億円、最終利益27.6億円を想定しており、より高い成長を意識しています。

 また、重点課題として、「新製品売上高比率20%以上」、「海外売上高比率52.9%(うちデンタル事業海外売上高比率54.4%)」を掲げて、グローバル戦略を積極展開しています。

Out Look まとめ

 松風グループは、「噛む、笑う、生きる、を支える。」という同社のメッセージのもと、グローバル市場で十分に戦える競争優位性を加速させています。創業来100年を超える歯科医療で培ってきた「技術力」をべースに「グローバル」に戦略展開する攻めの姿勢は「◎」です。

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