なぜ「ペヤング、ゴキブリ混入事件」は大炎上したのか…「ホビージャパン転売容認」「東証システム障害」とネット民の反応

 炎上によって企業が失うものは数多い。一方で、炎上をバネにして会社の体制を刷新し、信頼獲得やひいては業績の拡大に結び付けた企業もある。炎上からの脱却に成功した企業はどのような対応を行ったのか。働き方改革総合研究所株式会社代表取締役の新田龍氏が紹介する――。全3回中の2回目。 

※本稿は新田龍著『炎上回避マニュアル』(徳間書店)から抜粋、編集したものです。 

第1回:山本一郎が”炎上”の一般化に寄与…「朝日記者ブログへの批判殺到」現象を”野球用語”で表現し定着した

体制刷新で売上高倍増!まるか食品 

 中には世間からの厳しい批判を浴び、一時的に危機的な状況に陥りながらも、着実な対処や迅速な対応を取ることで事態を収拾し、早期の鎮静化を成功させたり、逆に信頼獲得に繫げたりしたケースも存在する。3つの事例から、炎上鎮静化のポイントをひもといていきたい。 

 ロングセラーブランド「ペヤングソースやきそば」を製造・販売する「まるか食品株式会社」における異物混入事件は、初期対応のまずさから厳しい批判が寄せられたものの、事後対応の姿勢が結果的に支持されることに繫がったケースだ。 

 2014年12月、カップ焼きそば購入客が、「ペヤングからゴキブリ出てきた」というメッセージとともに、麵の内部に虫の死骸とみられるものが入った写真をSNS 上で公開。すぐに話題となって報道されることとなった。 

 当初は製造過程での混入疑惑をかなり強気に否定していたが、その後外部機関によって分析した結果、虫に加熱の形跡が確認されたため、同社は「製造過程での混入の可能性が否定できない」と認識を改めた。 

 同時に、製品の自主回収費用を補償する「リコール損害保険」に同社が未加入だったことも報じられたほか、問題発覚後、投稿した購入客本人の元へ直接担当者が訪れて商品買い取りを提案した際に、「問題となった写真を削除してほしい」と依頼したこと、社長がコメントを出さず謝罪会見もおこなわなかったことなど、一連の不誠実な対応が明らかとなった。 

 これにより同社の姿勢への不信感が高まり、「食の安全への認識が甘い」と厳しい批判を招くこととなり、同社は商品の全面回収と約半年間の生産・販売自粛、生産設備の全面刷新を余儀なくされてしまったのだ 

 ただ同社は、そこからの動きが早く、かつ徹底していた。その後の調査においても、虫の混入原因や経路の特定には至らなかったが、虫混入疑惑があった所とは無関係な場所も含め、全工場での生産を停止。 

 同時に、既に市場に流通していた製品4万6000個を自主回収するとともに、全国で販売休止を決定した。事件発覚からわずか10日あまりのことであった。その後、大規模な投資を決定し、生産設備を完全に入れ替え、徹底的に品質管理を強化した。 

 当時の年間売上高約80億円に対して、改善のために投資した金額は10億円を超えると言われている。操業停止の間、同社は一切の人員整理をおこなわず、従業員へのボーナスも全額支払い、新年度を迎えて新入社員も全員受け入れた。 

 また、生産中止で行き場所がなくなった大量の在庫(食材、調味料、旧容器など)をすべて取引先から買い取り、社長が小売店へお詫び行脚をおこなったほか、自ら工場に赴いて仕分けを率先しておこない、社員を鼓舞するなどの対応をおこなったのだ。 

 結果的にこれらの姿勢が地元の取引先から強く支持され、販売再開時の支援体制に繫がることとなった。約半年後の2015年5月に生産再開、6月に関東地方での販売を再開した際には、当初予想の約3倍程度の注文が入り、24時間フル稼働の生産体制でも追いつかなくなり、急遽製造ラインを増やして対応しなければならない程であった。その後7月には全国での販売が再開している。 

 同社は、販売休止期間中、他社にシェアを奪われることもなく、出荷量も拡大を継続。2020年度の売上高も、事件のときからほぼ倍増の約150億円にまで成長している。 

厳しい処分で信頼回復!ホビージャパン 

 株式会社ホビージャパンは、出版及び模型・玩具・ゲームの開発・輸入・販売を手掛ける、1969年設立の老舗企業。総合ホビー雑誌「月刊ホビージャパン」のほか、「カードゲーマー」「月刊アームズマガジン」等、ホビーやゲーム関連の専門誌を刊行するとともに、東京・神奈川に直営店舗を構えて運営している。 

 2021年7月末、同社は自社雑誌の編集者が、「自身のSNSにおいて、プラモデルなどの買い占めや転売を容認する発言をおこなった」として、当該編集者を退職処分としたほか、常務取締役など、監督者3人を降格させたことを発表、話題となった。 

 当該編集者は7月、自身のプライベートSNSにおいて「転売を憎んでいる人たちは、買えなかった欲しいキットが高く売られているのが面白くないだけ」「頑張って買った人からマージン払って買うのって、普通なのでは」などと発言。 

 また別のコンテンツ配信サービスでも「転売している人は、買えなかったあなたよりも努力してそれを勝ち取った」「希少価値がついたものは、誰でも複数欲しくなる」といった、転売や買い占めを容認する主旨の書き込み(現在はいずれも削除済)をおこなっていた。 

 これらの投稿を受け、ネット上では「自社でプラモデルを販売し、取引先にも玩具メーカーが多くあるのに、転売を容認するのか?」などと一気に批判対象となり、炎上状態に。 

 当該編集者は投稿内容を撤回し謝罪したうえ、ホビージャパンも事態を受けて謝罪し、会社や編集部としては転売や買い占めを容認していないと明言。編集者を社内規定に従って処分する方針を示していた。 

 そして7月末、同社は当該編集者を退職処分、管理監督者をそれぞれ譴けん責せきしたうえで、常務取締役編集制作局長を取締役に、「月刊ホビージャパン」編集部編集長を副編集長に、副編集長をデスクに降格したと発表したのであった。 

 世の中の反応を見る限り、同社の迅速な対応を評価するものが多かったようだが、一部からは「一社員のプライベートなSNS投稿だけで退職処分なんて厳しすぎる」といった意見や、専門家からも「懲戒権の濫用では?」「会社は不当解雇で訴えられても文句を言えないのでは?」との指摘も見られた。 

 「どのような懲戒を設けるか」については基本的に各企業の自由だが、だからといって企業は「自由に懲戒できる」というわけではない。懲戒処分はあくまでも制裁罰であるため、懲戒の理由と処分内容のバランスを慎重に判断されることになる。 

 諭旨退職自体がもっとも厳しいレベルの懲戒処分であり、本来であれば「刑事罰相当の犯罪をおかしたとき」「重要な機密を故意に漏洩したとき」「架空取引や不正会計で会社に損害を与えたり、信用を損なったとき」といったレベルの問題行動に対して下されるものである。 

 今般はそれが「プライベートSNS投稿」に対して下されたわけだから、「厳しすぎる」との意見も一理あるかもしれない。恐らく本件は、そのような批判があることも想定の上で、あえて下したギリギリの判断ではないかと考えられる。 

 結果的に、この処分が発表されて以降、炎上は沈静化し、騒動自体も収束している。リスクを負ってでも素早く対処した成果といえるだろう。 

経営陣の抜群の会見対応!東京証券取引所 

 厳密には「炎上」に該当しないかもしれないが、企業不祥事対応の成功事例として認識され語り継がれているのが、2020年10月に、東京証券取引所で発生したシステム障害による終日売買停止という甚大なトラブルにまつわるものである。 

 障害自体は翌日復旧したものの、絶対に止まってはならない証券取引システムのトラブルということで、東証に対する批判と不信感が渦巻いていた。 

 しかし、トラブル当日夜に開かれた記者会見において、東証経営陣は関係者から「完璧」と称賛される会見対応をおこない、「こんな切れ者の経営陣が揃っているのなら」と却って信頼を取り戻すことに成功したのだ。具体的にはどのような対応だったのだろうか。 

 まず、トラブル自体が証券取引所の終日売買停止という大規模なものであったにもかかわらず、会見はトラブル当日の夕刻という迅速なタイミング(トラブル発生から約7.5時間後)で開かれた。 

 しかも、経営陣は誰一人として「調査中」「確認中」といった言葉を用いず、システムトラブルの原因を把握し、テスト解析まで済んでいるなど、当該時点で確認可能な点は全て解明したうえで会見に臨んでいたのだ。 

 システム機器の多くは富士通製であったことから、会見に臨んだ記者からはシステムベンダーとしての富士通に対して何らかの責任追及をおこなうのかどうかについて質問がなされた。 

 一般的にこのようなケースでは多少なりとも責任転嫁の姿勢がみられるところだが、東証社長は「市場運営者としての責任は私共に全面的にある」と回答し、損害賠償の可能性についても「現時点では考えておりません」と答えた。 

 発注者側がこのような姿勢を明示することは稀であり、公共性が高い事業を営んでいる企業としての矜持と、誠実な姿勢が強く示されたことが印象的であった。 

 さらに会見に臨んだ経営陣全員が各自の管掌分野について深く理解しており、記者からの様々な角度の質問(中には明らかに記者側の理解不足と思われるものも多かったが)に対しても理路整然と回答する様子が終始見られ、聞き手にとっては大いに安心感を抱かせるものであったのだ。これもまた、迅速な対応と真摯な情報開示姿勢の賜物であろう。

新田龍著『炎上回避マニュアル』(徳間書店)

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この記事の著者
新田龍

働き方改革総合研究所株式会社代表取締役。労働環境改善、およびレピュテーション改善による業績と従業員満足度向上支援、ビジネスと労務関連のトラブルと炎上予防・解決サポートを手がける。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。

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