桜井審議官、ご報告済み…総務省”内部”文書「重大局面」で鍵を握る櫻井翔パパの記憶

 放送法に基づくテレビ局の「政治的公平性」をめぐり、野党議員が公開した「内部文書」が注目を集めている。松本剛明総務相は文書が「行政文書」だと説明したが、当時総務相だった高市早苗経済安全保障担当相は、自らに関する部分は「捏造(ねつぞう)」と主張したままだ。真実であれば議員辞職すると明言した高市氏は「文書内容が本当なのか立証すべきだ」と反論し、「悪魔の証明」に近い騒動に発展している。“モリカケ問題” で不発に終わった野党が久々に手にした与党追及材料。果たして次なる一手はあるのか――。

立民・小西議員の追及に高市早苗氏は「文書捏造」と反論

「小西議員が公開した文書については、すべて総務省の行政文書であることが確認できました」。松本総務相は3月7日の記者会見で、立憲民主党の小西洋之参院議員が3月2日に公開した「内部文書」が総務省作成の行政文書であることを認めた。

 小西氏が公開したのは、安倍晋三政権時代に、放送法に基づく「政治的公平性」の解釈変更を求めたとされる経緯を記した資料だ。従来の政府解釈は、政治的公平性について「放送事業者の番組全体を見て判断する」というものだったが、高市総務相(当時)は2015年に1つの番組でも判断される可能性があると国会答弁している。

 小西氏は、この “新解釈” に至る首相官邸と総務省の協議などを記した内部文書を総務省職員から入手したと言い、3日の参院予算委員会で「放送法の解釈が政治的な圧力でつくられることが認められてもよいのか」などと追及したのだ。ただ、高市氏は「非常に悪意をもってつくられた文書」「捏造だ」と指摘し、自らに関する内容が真実であれば議員辞職するとまで表明した。

 松本総務相が「行政文書」であると説明したことを受けて、立憲民主党は「(高市氏は)文書を捏造と言い張り、自ら議員辞職に言及した。責任を取るべきだ」(安住淳国会対策委員長)などと勢いづいている。だが、高市氏は3月7日の記者会見で「私に関係する文書は不正確だと確信を持っている」と強調し、自らに関する4枚分の文書については「同席していたとされる方に確認し(不正確という)認識は一緒だった」と語っている。岸田文雄首相も「正確性や正当性が定かではない文書に申し上げることはない」と静観する構えを見せ、自民党サイドも危機感は薄いままだ。

自民が追及に全く慌てない理由…「放送法への解釈はいまでも全く変わっていない」

 政府・自民党が慌てていないのには理由がある。まずは、総務省の作成と認められた小西氏公開の「行政文書」を見ていきたい。「厳重取扱注意」と記された「『政治的公平』に関する放送法の解釈について(礒崎補佐官関連)」と題する文書には、当時の礒崎陽輔首相補佐官から2014年11月に「これまで積み上げてきた解釈をおかしいというものではないが、①番組を全体で見るときの基準が不明確ではないか、②1つの番組でも明らかにおかしい場合があるのではないか、という点について検討するよう指示」があったと記載。礒崎氏は年明けに安倍首相(当時)に説明した上で国会において取り上げたい意向を示したとされ、総務省側と高市氏や山田真貴子首相秘書官らとの解釈変更をめぐるやりとりが記されている。

 礒崎氏は3月3日、「首相補佐官在任中に、政治的公平性の解釈について、総務省と意見交換したのは事実だ。政府解釈では分かりにくいので、補充的説明をしてはどうかと意見した」と説明。7日の共同通信の取材には「一つ一つの会話の詳しい記憶は残っていない」とした上で、「首相官邸内で行われた各省庁との議論の内容が表に出るのは、決して望ましいことではない」とも指摘している。

 つまり、公開された内部文書が総務省作成の「行政文書」であり、礒崎氏本人も意見交換を認めているからといって「即クロ」と結論づけることはできない、ということなのだ。政府・自民党がそのように考える1つ目の理由は、「一貫して解釈を変えたとは考えていない」としている点にある。事実上の解釈変更と受け止められた2015年の高市氏による答弁は「補充的な説明」だったという考えであり、これまで必ずしも明確ではなかった基準について国会質疑を通じて「補充」するために総務省側とのすりあわせを行ったに過ぎない、という論理である。

 小西氏は「個別番組を狙い撃ちする政治的な目的で放送法の解釈を変えた」と追及しているが、松本総務相は「礒崎補佐官から総務省に問い合わせがあり、従来の解釈を補充的に説明した。本件の前後で放送行政に変更があったとは認識していない」と指摘。岸田首相も国会で「放送法についての政府の解釈は変わっていない」と答弁している。

行政文書といっても中身を見れば推測や伝聞だらけで正確性には疑問

 そして、2つ目の理由は「行政文書であることと正確性は別物」というものである。総務省は野党側に「捏造した内容を行政文書にすることはない」と一般論を示しているが、松本総務相は記者会見で「相手方の確認を取るとか、正確性を期する手順が取られていないということが判明しており、関係者から聞き取ったところによれば、認識は異なるといったようなことも判明している。正確性が確認できないものがあることも判明している」と語っている。

 公文書は2017年に記載内容を相手方に確認する管理ガイドライン改正がなされたが、今回の行政文書が作成されたのはその前だ。松本総務相は「記載内容が正確であることを前提に議論するのは難しい」とし、高市氏も3月8日の参院本会議で「私が発言したことのない記述がされるなど正確な情報ではない」「捏造された行政文書によって大臣や議員を辞職すべきだとは考えていない」と反論している。つまり、文書自体は「本物」であっても、その中身は「捏造」という主張だ。

 なぜ2つ目の理由が成立し得るかといえば、公開された文書の核心部分には「推測」「伝聞」が見られることがあげられる。たとえば、2015年3月13日夕の「山田首相秘書官からの連絡」と題した文書には、政治的公平性に関する国会答弁の件について安藤友裕情報流通行政局長(当時)に電話連絡があったと記されている。ただ、中身を見ると山田氏は「高市大臣から総理か今井秘書官かに電話があったようだ」とし「総理は『軽く総務委員会で答弁しておいた方が良いのではないか』という反応だったとのこと」と記載されている。「~ようだ」「~とのこと」という形なのだ。

 2015年3月9日夕の「高市大臣と総理の電話会談の結果」と題した文書を見ても、大臣室の参事官から安藤局長に連絡があり、「高市大臣から総理に電話(日時不明)。総理からは『今までの放送法の解釈がおかしい』旨の発言。実際に問題意識を持っている番組を複数例示?(サンデーモーニング他)」などと記されている。また「国会答弁の時期については、総理から『一連のものが終わってから』とのご発言があったとのこと」とある。

 やはり気になるのは、高市氏と安倍首相(当時)の電話会談があったとしながらも「日時不明」であり「複数例示?」「~とのこと」と曖昧な部分がある点だ。高市氏は3月8日の参院予算委で「放送法の解釈について安倍元首相と電話で話したことはない」と述べており、仮にそれが事実であれば文書になぜそのような記述が残っているのかわからなくなる。

 ただ、2015年3月6日夕の「大臣レクの結果について安藤局長からのデブリ模様」と題した文書には、高市氏から「これから安保法制とかやるのに大丈夫か」「民放と全面戦争になるのではないか」「総理が『慎重に』と仰るときはやる気がない場合もある」「一度総理に直接話をしたい」との意向が示されたと記載されている。担当参事官に今井尚哉政務秘書官経由で安倍首相と話ができる時間を確保するよう指示したとも記され「本件大臣レクの結果について桜井総務審議官にはご報告済み」とまである。

立憲民主党の切り札は「嵐」櫻井翔パパらの証人喚問

 文書の見方によっては、解釈変更に慎重だった高市氏が安倍首相にも直接確認する必要があるとの意向を示していた、と見ることはできる。そして「日時不明」ながらも首相と高市氏の電話会談につながったというストーリーである。しかし、それはあくまでも推測の域は出ないものであり、高市氏と安倍元首相との良好な関係を踏まえれば「今井秘書官経由」で時間を確保しなければならないとも考えにくい。

 電話は基本的に2人で会話されるものであり、安倍元首相亡き今、電話の有無や内容を証明することは極めて困難だ。放送法の解釈について安倍氏と電話したことがないと否定する高市氏は「私の電話を誰かが盗聴でもしているのか」と自らの主張に自信をのぞかせている。

 では、証明することが困難と見られる立憲民主党側に次の一手はあるのか。そのヒントになりそうなのが人気グループ「嵐」の櫻井翔氏の父で当時、総務省総務審議官を務めていた桜井俊氏だ。先に「ご報告済み」と記されていた人物で、公開された今回の文書にはたびたび “翔パパ” が登場している。

 「桜井総務審議官限り」と記された「総理レクの結果について」と題する文書には、2015年3月5日夕に山田首相秘書官から電話があった旨が記載され、安倍首相への説明は同日16時5分から実施し、礒崎首相補佐官や今井政務秘書官、山田氏が同席。今井、山田両氏は「メディアとの関係で官邸にプラスになる話ではない、等と縷々(るる)発言した」と記載。総理からは「政治的公平という観点からみて、現在の放送番組にはおかしいものもあり、こうした現状は正すべき」「日本の放送法には『政治的公平』の規定があって、国民はこれが守られていると思っており、守られていない現状はおかしい」などの発言があった、と記されている。

「永田町における異種格闘技戦」の行方はいかに

 このほかにも、桜井総務審議官限りの「礒崎総理補佐官からの連絡」との文書には、2015年3月6日9時45分から20分間、首相官邸で安藤情報流通行政局長や放送政策課長らが礒崎氏と向き合った際のやりとりとされるものが記されている。一連の文書の配布先には桜井氏の名が並んでおり、当時の状況を知り得る限られた人物であることは間違いない。

 こうした点を考えれば、立憲民主党は高市氏や礒崎氏、そして “翔パパ” たちの証人喚問で追及するしかないとみられる。不正や疑惑解明のため議院証言法に基づき行われるもので、偽証すれば厳しい刑罰の規定があるものだ。

 高市氏は「議員辞職を迫るのなら、文書が完全に正確だと相手も立証しなければならない」と述べており、関係者の認識にズレが生じている以上、もはや証人喚問でなければ追及できないだろう。

 あることの証明はできても、ないことの証明は困難で「悪魔の証明」ともいわれる。森友学園問題をめぐる証人喚問では不発に終わった野党だが、今度は政権を揺さぶることができるのか。人気アイドルの父親をも巻き込む「永田町における異種格闘技戦」(国民民主党の榛葉賀津也幹事長)の行方は目が離せない。

この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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