10年前4560億円赤字「ソニー株」を買っていたら今いくらになったのか…大儲けした人の投資の鉄則

 もし過去最大4560億円の大赤字を計上した2012年に1000円割れしたソニー株を買っていれば、なんと14倍になっていた計算になる。株式投資に「もし」はないが、どうしたら化ける銘柄を見極める眼を養うことができるのか。投資家のバイブル『会社四季報』を30年以上編集してきた伝説の編集長・山本隆行氏は「過去最高の更新パターンは大きく3つあり、株価の動き方にもそれぞれ特徴がある」という――。(第3回/全4回)

※本記事は、山本隆行著『伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい』(東洋経済新報社)より抜粋・再編集したものです。

第1回:銘柄コード「4桁の秘密」…なぜ9434を見た古参は涙したのか、なぜ01を見れば相場がわかるのか
第2回:持っているだけで資産10倍超! 夢の「大化け株」は売上高さえ見とけば発掘できる
第4回:1年で株価20倍「北の達人コーポレーション」…平均年収の高騰を見抜いた投資家だけが大儲け

業績の “旬” は「最高純益」で見極める

 人間と同じように企業にもライフサイクルがあるといわれる。株式投資では、お目当ての企業が “生涯” のどのステージにあるか見極める視点が欠かせない。

 会社四季報で銘柄探しをしていると、業績が右上がりの会社が自然と目に入ってくる。しかし、業績が同じ右肩上がりでも、まさに今が旬の会社もあれば、旬は過ぎたがたまたま景気の波に乗って増益が続いているだけの場合もある。

 会社四季報に掲載されている業績は過去3期分から多くて6期分しかない。それより昔にもっと大きな業績の山があり、今は当時の5合目を登っているだけだとしたら、景気が後退すればたちまち息切れしてしまうかもしれない。

 では、企業の旬を何で見分けるのか。手がかりとなるのはDブロックの【指標等】欄にある「最高純益」だ。最高益は、アスリートでいえば「自己ベスト」に当たり、会社四季報は純利益ベースでの過去最高額と、それを記録した決算期を掲載している。()内の決算期が前期なら自己ベスト更新中の伸び盛り、7、8年以上前だったら旬は過ぎた、という感じで判断できる。

 最高益更新が見込まれている銘柄は当然、市場での注目が高く、投資信託にも最高益更新企業を集めた「日本最高益更新企業ファンド(愛称:自己ベスト)」という商品まである。会社四季報読者の皆さんには、過去最高の更新パターンは大きく3つあり、株価の動き方にもそれぞれ特徴があるという点を知っておいていただきたい。

ヤオコー、小林製薬、ニトリ…連続最高益企業にもある落とし穴

 1つ目は毎年のように最高益を更新するパターンである。代表格は2022年2月期に23期連続記録を更新した家具・インテリア製造小売りのニトリホールディングス(9843)である。連続更新記録保持者は埼玉県を中心に食品スーパーを展開するヤオコー(8279)で、営業利益率は業界首位の高さを誇る。

 ただ、こうした連続更新組の株価はすでに最高益が織り込み済みとなっていることが多く、長期投資には向いているが、短期投資ではあまり妙味があるとはいえない。会社側が発表した業績見通しが市場予想に届かないと逆に激しく売られることもあるほどで、優等生には優等生なりの厳しいハードルが用意されている。

 総合ディスカウントショップ「ドン・キホーテ」やスーパー長崎屋を展開し、12期連続で最高益更新中のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(7532)もその洗礼を受けている。

 2021年8月に前6月期決算と合わせて2022年6月期の業績予想を発表し、前期は従来予想を上振れて着地。今期も純利益が前期比7.0%増の576億円と最高益更新を見込んでいることを公表したが、市場はこれに売りで反応。株価は大きく売られ年初来安値を2カ月半ぶりに更新した。公表した純利益がアナリスト予想の平均値(632億円)を9%近く下回っていたことで成長鈍化が懸念されたのだ。

 連続最高益企業は、好調さを前提に株価指標も割高になっていることが多いので、決算前に過熱感がないかをチャートで確認しておきたい。

数年おきの最高益型「もうはまだ、まだはもうなり」に要注意

 2つ目は、景気や新製品サイクルなどに合わせて数年おきに最高益を更新するパターンである。このパターンの代表格は工作機械各社だ。工作機械業界の年間受注額推移を見ると、米国自動車向けが好調だった2014年、米中貿易摩擦直前の2018年、コロナ禍によるテレワークの普及でパソコンやタブレットの販売が伸び、データセンターの増強が進んだ2021年、と3~4年間隔でピークをつけている。

 工作機械用NC(数値制御)装置の世界首位、ファナック(6954)もほぼこれに呼応する形で最高益を記録している。

 半導体業界も「シリコンサイクル」という言葉があるように、工作機械と並ぶ景気循環型の代表格だったが、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)分野の成長によってサイクルを超えるイノベーションが起き、従来のパターンは崩れつつある。

 数年おき最高益型の株価は、いったん動き出すと荒い値動きとなり、業績に比例して2倍高、3倍高となりやすい。投資妙味は絶大なのだが、投資格言にある「もうはまだ、まだはもうなり」を地で行くところがあり、株価のピークやボトムを見分けるのがきわめて難しい。そのうえ、最低投資単位が高額な値ガサ株が多いため、高値づかみをして急落しようものなら大きな痛手を負いやすい。

 ちなみに「もうはまだ」とは、「ここまで上がればもういいだろう」「ここまで下がればもう下がらないだろう」と思うとさらに上がったり下がったりすることが多々あるという教えだ。

「久しぶり最高益」は投資妙味大

 最高益更新パターンの3つ目は、忘れ去られていたような会社が十数年あるいは何十年という月日を経て久々に最高益を更新するパターンだ。株価インパクトはこれがいちばん大きく、最も投資妙味がある。

 久しぶり最高益型はさらに2つのパターンに分けられる。1つは数年にわたる事業構造改革の断行によって成長事業の入れ替えに成功し、復活を遂げるパターン。もう1つは、会社自体はとくに変化したわけではないが、社会構造が大きく変化して強烈な追い風となるパターンだ。

 最初のパターンの代表例は何といってもソニーグループ(6758)だろう。1980年代に「ウォークマン」「ハンディカム」などライフスタイルを一新する画期的製品を世に送り出して絶大なブランド力を築き上げ、2008年3月期には売上高8兆8714億円、営業利益3745億円、当期利益3694億円の過去最高益をたたき出した。

 ところが、その翌年の2009年3月期は世界トップシェアのテレビが赤字、ゲーム、デジタルカメラ、携帯電話、金融がすべて不振となり突如大赤字に転落した。天国から地獄とはこのことだ。

 以降、2015年3月期まで1年を除きすべての年で最終赤字となり、かつての輝きは消え失せた。凋落の理由はアップルのiPodやiPhoneの例を出すまでもなく、インターネット時代の対応に後れを取ったことや、韓国サムスン電子などアジア企業とのシェア争いに次々と敗れたためだ。

 そんなソニーが復活したのは2018年3月期。純利益ベースで10年ぶり、営業利益ベースでは実に20年ぶりに最高益を更新した。不採算事業の売却を進め、かつての屋台骨だったテレビやカメラは規模を追わず高価格帯へと特化。一方で、スマートフォン用カメラ向けなどで世界首位のCMOSイメージセンサーや、ゲーム、音楽、映像などエンターテインメント事業へ集中投資して磨きをかけ、ソフトコンテンツ、エレクトロニクス、半導体、金融で稼ぐ複合企業に転換を果たしたのだ。

 歴史に「もし」はない。株式投資にも「もし」はない。

 しかし、もし過去最大4560億円の大赤字を計上した2012年に1000円割れしたソニー株を買っていればなんと14倍になっていた計算になる。

 国際優良株にしてテンバガー、というケースはめったにないが、月足チャートで出来高推移を見ると、2013年1月に過去最大の出来高を記録していることから、現実に大儲けした人は大勢いる。「株は赤字のときに買って最高益で売れ」の教えは本当なのだ。

急動意する「社会環境変化型」

 企業を取り巻く社会環境が変化して最高益となるパターンについても説明しよう。2015年から2016年にかけては、まさにそんな事例が多発した。背景にあったのは、当時起きた空前のインバウンド(訪日外国人客)ブームである。

 この期間に高級ホテルの代表格である帝国ホテル(9708)は28年ぶり、羽田空港旅客ターミナルビルのオーナーで免税店を展開する日本空港ビルデング(9706)も24年ぶりに最高益を更新。「セロテープ」で有名なニチバン(4218)も、発売から25年も経った「ロイヒつぼ膏」が中国人観光客の間で話題となり、20年ぶりに最高益を更新している。相模ゴム工業(5194)も超薄型コンドームが外国人に買いあさられ、2017年3月期にかつての記録の2倍となる最高益を更新した。

 こうしたインバウンド銘柄は株価も爆上げで、2014年初からその後の高値までニチバン4.8倍、日本空港ビル3.5倍、相模ゴムに至っては9.4倍とテンバガーまであと一歩の水準まで上昇した。

 これと同じことが2019年からの新型コロナ禍でも起きた。2021年3月期に日本郵船(9101)と川崎汽船(9107)が13年ぶりに最高益を更新、商船三井(9104)も2022年3月期に14年ぶりに更新する見通しとなったのだ。

 海運3社の業績に猛烈な追い風となったのは、巣ごもり消費の拡大による世界レベルでの輸送需要の急増だった。コンテナ船の運賃市況が高騰し、”海運バブル” と呼ぶべき状況が2020年から発生した。日本郵船は期初に200円としていた2022年3月期の配当を1200円に引き上げる大盤振る舞いをしてみせた。

 もっとも、巨額の利益を稼ぎ出しているのは本体や子会社でなく、かつてお荷物扱いされていたコンテナ船事業の共同出資会社であるオーシャンネットワークエクスプレスジャパン(ONE、日本郵船38%、商船三井と川崎汽船が31%ずつ出資)だ。環境が変わればこうも稼ぎが変わる典型例といってよい。

 もう1社、コロナ禍を背景にして久々に最高益を更新し、株価が大化けしたのが中古オートバイ買い取り販売のバイク王&カンパニー(3377)だ。これまでの過去最高純益は決算期変更前の2007年8月につけた9億9800万円だったが、2021年11月期に12億2600万円を稼ぎ出し、14年ぶりに最高益を更新した。2022年11月期も好調に推移しており、最高益を大幅に更新する見通しとなっている。

 コロナ禍で「3密」を避ける手段としてオートバイの人気が高まり、東京都内の自動車教習所で若者や女性を中心に2輪免許の取得希望者が殺到する様子はニュースにもなった。加えて、熟年ライダーに人気が高い大型・高単価の中古オートバイを強化したことも最高益更新の一因となった。

 会社四季報2021年夏号は会社予想よりやや強気の予想を立て、欄外には「⬆︎⬆︎マーク」と「ニコちゃんマーク」の両方がついた。ところが、同年6月末に会社側は2度目となる大幅な業績修正を発表。修正後予想は会社四季報予想を大きく上回る内容で、株価はおよそ3カ月半ぶりに年初来高値を更新して上昇を開始。上昇はおよそ2カ月続き、夏号発売時に700円割れだった株価は一時1917円まで買われ約2.7倍高となった。

山本隆行著『伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい』(東洋経済新報社)
この記事の著者
山本隆行

『会社四季報』元編集長 1959年生まれ。早稲田大学法学部卒業。東洋経済新報社で『会社四季報』記者として多岐にわたる企業・業界を担当したほか『週刊東洋経済』では副編集長として主にマーケットや投資に関する企画を担当。2002年『オール投資』(現在休刊)編集長、証券部編集委員、名古屋支社長などを経て、2012年『会社四季報』編集長。2013年10月「会社四季報オンライン」立ち上げに伴い初代編集長に就任。2019年4月から編集局会社四季報センターのシニアスタッフとしてマーケットや企業分析における記者教育を担当している。

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