1年で株価20倍「北の達人コーポレーション」…平均年収の高騰を見抜いた投資家だけが大儲け

 東洋経済新報社が年4回発刊する『会社四季報』は、上場全企業約3800社の業績を業界担当記者が独自予想し、記事をまとめている。毎号2000ページを超えるボリュームを30年以上編集してきたからこそわかる、ベテラン編集者・山本隆行氏による会社四季報「超」活用術を公開する。今回は、地方に眠る「お宝銘柄」の見つけ方を紹介する。(第4回/全4回)

※本記事は、山本隆行著『伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい』(東洋経済新報社)より抜粋・再編集したものです。

第1回:銘柄コード「4桁の秘密」…なぜ9434を見た古参は涙したのか、なぜ01を見れば相場がわかるのか
第2回:持っているだけで資産10倍超! 夢の「大化け株」は売上高さえ見とけば発掘できる
第3回:10年前4560億円赤字「ソニー株」を買っていたら今いくらになったのか…大儲けした人の投資の鉄則

地方本社企業には金の卵がいっぱい

 今回は、会社四季報記事の右下にあるFブロックに注目したい。

 本社所在地、電話番号、従業員数、平均年齢と給与などが掲載されているFブロックは、電話帳代わりに使ったり、就職活動中の学生が給与水準を調べたりするのに重宝される。一方で、投資家にとってはあまり重要ではないと思っている人もいるかもしれない。

 その認識は大きな間違いだ。私は、どこかの企業を調べる際、Aブロックで特色、連結事業、海外売上比率を一通りチェックしたあとに、このFブロックに必ず目を通す。どの地域に、何人が働いていて、給料がいくらでこんな仕事をしている……等々、テレビ番組でいえば “オープニング映像” を勝手に頭の中にイメージするためだ。

 本社がどこにあるのか。もし地方なら、私の場合、がぜん興味が湧いてくる。というのも地方には成長企業が意外に多いからだ。

 『週刊東洋経済』2021年12月4日号は「トップの通信簿」という企画を特集した。上場企業各社の代表者が現在の役職に就いてから2021年11月15日までに、自社の株価をどこまで上げたかを時価総額倍率として計算してランキングしたもので、そのトップ25社が次の表だ。

 首位レーザーテック(6920)はぶっちぎりの267倍、10位のベネフィット・ワン(2412)でも46倍とどれも夢物語のような株価だが、注目すべきはトップのうち社が地方本社企業という点だ。

 株価94倍で2位の北の達人コーポレーション(2930)は化粧品や健康食品のネット通販を手がけるオーナー会社で、札幌市が本社だ。株価76倍で4位のトリケミカル研究所(4369)は人口2万人余りの山梨県上野原市に本社を置き、先端半導体に必要な化学材料を多品種少量生産する高純度化学薬品のニッチ企業である。

 業績も最高益更新中と申し分ない。5位は「業務スーパー」を展開し7期連続で最高益更新中の神戸物産(3038)で、本社は兵庫県加古川市。アパートの開発販売で成長した6位のシノケングループ(8909)は福岡市だ。

 トップ10入りはならなかったが、時価総額44倍で13位のシーティーエス(4345)は建設ICTの専門会社で、本社は長野県上田市にある。14位は地域限定のお土産菓子で有名な寿スピリッツ(2222)で鳥取県米子市が本社だ。

 地方発祥企業は自らの商圏で地盤を固めた後、商圏を広げる企業が多く、山口のファーストリテイリング(9983)、北海道のニトリホールディングス(9843)がそうした道を歩んできたことは説明するまでもないだろう。

見落とすな! 年収急増の年が買いチャンス

 このFブロックでもう1つ、意外なヒントが隠されているのが【従業員】欄の社員数と年収だ。

 ここで1つ質問したい。日本で社員の年収が高い企業はどこだろうか。

 会社四季報2021年秋号が行ったアンケートによると、トップは独立系M&A仲介会社のM&Aキャピタルパートナーズ(6080)で、社員の平均年齢31.4歳にして年収はなんと2269万円(!)だ。

 2位は製造技術者派遣・請負の夢真ビーネックスグループ(2154)の1900万円だが、同社は社員数わずか5人のホールディング会社なので除外すると、実質2位はFAセンサーなど検出・計測制御機器大手のファブレス企業キーエンス(6861)で、平均年収1751万円(平均年齢35.8歳)。3位は旧富士銀行系の銀行店舗ビルの管理から出発し、東京区の駅近ビルを中心に好物件を数多く所有する不動産会社ヒューリック(3003)の1708万円(39.4歳)となっている。

 中でも2位のキーエンスは、時価総額でもトヨタ自動車(7203)やソニーグループ(6758)に次ぐ企業価値を誇る。代理店を通さない直販営業を特徴とし、客先に密着して得たデータ分析に基づく提案営業に強みを持つ。営業利益率はなんと50%超。高収益を土台に「人」への投資を続けてきたことでも定評があり、ここ10年で営業利益を3倍に伸ばす間に社員数が8400人と約2.7倍に増加し、平均年収も462万円増えている。

 しかし、この年収欄で重要なのは金額の多さではない。大事なのは前号、あるいは1年前と比較してどう変化しているかにある。というのも、売上高と同様に、社員数や平均年収の増加は成長企業の特徴の1つでもあるからだ。

 私がこのことに最初に気づいたのは、地方企業のくだりでも登場した北の達人コーポレーションの年収の増加ピッチと、それと歩調を合わせるように急騰していく株価を見たときだった。

年収が1年で100万円アップ。株価は20倍に急上昇

 北の達人は2002年の設立で上場は2012年。業績は2016年2月期以降の伸びが顕著でその後3年で純利益は5倍増、株価はさらに凄まじく2018年4月までの2年ちょっとで20倍に上昇した。

 北の達人の平均年収を以下の図にまとめてみた。いちばん左の数字は会社四季報2017年春号に掲載されたもので、従業員の平均年齢は31.3歳、平均年収は394万円だった。国税庁の民間給与実態統計調査(平成29年分)によると当時の30代前半の平均給与は男性461万円、女性315万円、平均が407万円なので、北の達人の平均年収はむしろ10万円ほど安い。

 ところが翌年の2018年春号では429万円に昇給して平均を追い越し、3カ月後の2018年夏号であっと驚かされる。なんと平均年収が102万円(23.8%)アップの531万円に急上昇しているのだ。

 こうした変化は毎号継続して1つの銘柄を研究していないと気づきにくい。531万円にアップした2018年夏号の業績記事に「18年4月入社から総合職の初任給を大幅引き上げ」とあるように、北の達人はこの年、24万円だった初任給を34万円に一気に引き上げている。オーナー企業でなければできない芸当だ。株価が1年で20倍に高騰したのはまさにこの時期だった。

 会社四季報に掲載されている平均年収は、残業料と賞与が含まれている点がミソである。つまりこの数字には会社の繁忙ぶりが如実に表れているのだ。新しい会社四季報が発売されるたびに年収が増えている会社があったら要マークである。そうした会社は業績も好調なので見つけるのはそう難しいことではない。

17倍に化けた銘柄の大化け兆しは「積極採用」

 次に北の達人と同じパターンの会社を見つけたのは2019年夏号に掲載されたITコンサルティング会社のベイカレント・コンサルティング(6532)だった。株価は当時3000円台後半(11月1日に1株を10株に株式分割しているためチャートは10分の1になっている)だったが、2021年9月には6万3400円(同)をつけた。

 成長を牽引するのはDX(デジタルトランスフォーメーション)関連のコンサル業務。DXには業務をデジタル化するITと、経営戦略に生かす戦略コンサルという、2つの知見が欠かせない。DXブームが来る前から得意のITに加え、戦略分野の人材や案件を強化していたことが奏功している。

 会社四季報2022年新春号を見ると、2022年2月期の業績予想は売上高560億円、営業利益200億円。「【絶好調】客先のコロナ順応進み、得意のIT分野が急増大。(中略)営業益伸び盛り」と最大級の賛辞を送る。

 ベイカレントの2019年夏号当時(2019年2月期)の業績は売上高329億円、営業利益は44億円にすぎなかった。しかし当時から、社員の年収の伸びには目を見張るものがあった。

 それを示したのが次の図だ。

 とくに顕著な増加を見せたのが2017年春号から夏号にかけてと、2019年春号から夏号にかけてで、最初は65万円、次が35万円のアップとなっている。図左の株価チャートと併せて見ると、株価もこのタイミングで大きく上昇しているのがわかる。

 その後の年収もフォローしてみると、2020年夏号では1031万円(平均年齢32.6歳)とついに大台に乗せ、2021年夏号では1101万円(32.9歳)となお増加中だ。もう1つのカギとなる社員数も2018年夏号から顕著に増加し始め、2021年3集では2161人と5年間で1.8倍に増えている。

 会社四季報2019年秋号記事には「採用300人強と強気」と書かれているが、業績記事にあえて採用計画が書かれているときは、その後の株価のヒントとなることが多い。現行の社員数と比較してどのくらいインパクトがあるのかを必ずチェックするようにしたい。ベイカレントの場合は、当時の社員数が1531人。300人は約2割に当たる大量採用だった。

山本隆行著『伝説の編集長が教える 会社四季報はココだけ見て得する株だけ買えばいい』(東洋経済新報社)
この記事の著者
山本隆行

『会社四季報』元編集長 1959年生まれ。早稲田大学法学部卒業。東洋経済新報社で『会社四季報』記者として多岐にわたる企業・業界を担当したほか『週刊東洋経済』では副編集長として主にマーケットや投資に関する企画を担当。2002年『オール投資』(現在休刊)編集長、証券部編集委員、名古屋支社長などを経て、2012年『会社四季報』編集長。2013年10月「会社四季報オンライン」立ち上げに伴い初代編集長に就任。2019年4月から編集局会社四季報センターのシニアスタッフとしてマーケットや企業分析における記者教育を担当している。

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