藤巻健史「ドルを持つ者だけが、救われる」超円安説を的中させた男が語る「日本、第二の敗戦」

 元モルガン銀行東京支店長兼日本代表の藤巻健史氏は、日本銀行が近い将来破綻を迎えることを確信している。しかしその後も、日本経済の未来は暗いままなのか。

 「実はその後、日本は復活すると考えています。明治維新や、第二次大戦後のときのようにね」。はたして、これから日本を待ち受ける未来とはどんなものなのか。金融界のレジェンド、藤巻氏へのインタビュー全3回の最終回。

第1回:驚異的円安説を的中させた藤巻健史「1ドル500円時代到来」…2023年、ハイパーインフレに備えよ

第2回:超円安説を的中、藤巻健史「日本に残された選択肢は”日銀潰す”か”預金封鎖”」…住宅ローン民は「ドルを持て」

日本が貧乏になったのは、社会主義国だから

――日本がハイパーインフレで破滅的な結末を迎えるとして、その後、日本の国力を高めるために政府ができることはありますか。

(藤巻氏) 日銀が潰れても日本が潰れるわけじゃないですからね。日本経済がその後、復活する可能性は十分ありますよ。ただ4年ぐらい悲惨な時期を迎えなくちゃいけないと思っているし、みんなが持っているお金は一度、全部政府に持っていかれてしまいます。終戦直後のように、みんな貧乏な状態からスタートです。しかし、その後は大きく発展する可能性があると思う。

 これには2つの条件があって、1つ目は今までのような放漫財政をしないこと。スイスやドイツのように均衡財政を目指すための項目を憲法に入れることですね。日本は放漫財政をやったがゆえに借金がどんどん膨れ上がり、こんな状況になっているわけですから、二度と同じ誤りを起こさないよう反省しなければいけません。

 2つ目の条件は、GDPを上げること。30年間でGDPがほとんど伸びていない。他国がぐんぐん伸びているのにね。今海外に行くと、日本がとても貧乏な国になってしまったことを嫌でも実感しますよ。

――なぜ日本は他の先進国とGDPの差がついてしまったのでしょうか?

(藤巻氏) なぜ日本がこんな貧乏になっちゃったかっていうと、日本の実態が社会主義国だからです。私がモルガン銀行東京支店の支店長だったときに、部下の外国人のほとんど全員が「日本は世界最大の社会主義国だ」と言っていました。それは日本で生活し、日本で働いたうえでのみんなの感想なんです。

 日本が社会主義的になってしまったのは、格差是正論が出てきたからだと思います。資本主義国である以上、格差がないと、国力なんか強くなりませんよ。格差があるからこそ、みんな「豊かになりたい」と思って一生懸命働くんだよね。

 だから、格差是正をしていては共同貧困への道になっちゃう。なぜアメリカがあんなに発展したかっていうと、アメリカっていうのは5%の天才たちが、システムをきちんと作って、その他の95%全体を押し上げているんですよ。

 なぜ海外の天才がアメリカに集まるのかというと、アメリカはお金を貯めやすいから。相続税もほとんどないし累進課税率も日本より低い。(※日本の所得税率は5~45%に対し、アメリカの所得税率は10〜37%)

 成功した人がもっとお金持ちになる、そして税金もそこまで持っていかれない。アメリカは結果平等主義じゃなくて、機会平等主義なんです。だから世界中から天才が集まってきて、お金持ちになろうと無茶苦茶働きます。

 日本の天才はみんな逃げちゃうわけですよ、アメリカにね。大谷もダルビッシュもそうだし。日本の野球選手なんて大した収入差もなく、天才にとっては楽しくないですよ。天才の足を引っ張るのが日本であって、天才を引き上げているのがアメリカ。これが資本主義国と社会主義国の大きな差です。日本は実質的には社会主義国だから、アメリカとこれだけ差がついちゃったんだと思います。

 社会主義国が資本主義国に負けるっていうのは、歴史が証明していますからね。働いても働いても恩恵を受けられないんだから当然そうなる。生活保護だって日本人の平均サラリーマンの平均年収くらいもらえちゃうんだから、それではみんな働く意欲がなくなりますよ。

 Xデーが来ても、その後に財政均衡をきちんと憲法で定めて、アメリカのように本物の資本主義経済システムが機能する国にできれば、日本経済は復活すると思います。

 今、岸田さんが言っている新しい資本主義なんて、社会主義の典型ですよ。

日本は第二の敗戦を迎え、その後復活する

――日本が歴史的によみがえったときって、政治システムがガラッと変わった明治維新とかそういうタイミングだと思います。ハイパーインフレによって、日本政治が一新される可能性はあるでしょうか。

(藤巻氏) それは大いにありえます。歴史的には明治維新が第1回目、第二次世界大戦の敗戦が第2回目で、今回は第3回目の大改革です。日本社会の大混乱の時期。だからこそ、変わるチャンスも大いにあるわけ。日本は、そういうビッグイベントがないと変わらない国だからね。今度のXデーを不幸中の幸いにするかどうかが一番重要なポイントじゃないですか。

――新しく大金持ちになる人たちも生まれますか?

(藤巻氏) すごいチャンスですよ。Xデー後の数年間は、下克上の世界になるでしょうね。大金持ちでも円に固執していた人は没落していくし、ドルをたくさん持っていた人はきっと、相対的に日本人の上位にいくでしょうね。このような人は、再生日本に乗っかっていけるわけですよ。

 まず日本の現状をきちんと理解しておくということが重要ですね。戦後と同じです。戦争に負けたからといって自暴自棄になってしまった人は貧乏のままだった。でも、戦後民主主義日本に希望を持って頑張った人は、再生した日本で富を築けたわけじゃないですか。

――最後に、私たち民間人が、このような時代にキャリアを築いていくためには、どうすればいいと思いますか?

(藤巻氏) これからの日本人は、英語を学ぶことが重要だと思います。円が安くなったら日本企業は外資系企業に買われちゃうと思うんですよ。日本の企業は叩き売りだね。経営者と株主はみんな外国人になってしまうと思いますよ。外国、あるいは外資系企業で働くためにも、やっぱり英語をきちんと学んでおくことが大切です。

 もう1つ必要なのは、日本の常識は世界の常識じゃないという事実を知ること。円が高いときは「留学しろ」とか「海外で放浪しろ」と言っていたんだけど、円がこんなに安くなったから難しくなってきている。

 やっぱり、海外を自分で見るということは大事ですよ。超貧乏旅行でアメリカへ行って、アメリカと日本の経済力にここまでの差がついてしまったことを実感して学んでくるといいでしょうね。英語も多少できるようになるだろうし。

 1997年に韓国がアジア通貨危機で大変になった後から、海外留学する韓国人が激増して韓国人の英語力が格段に良くなりました。当時は「英語ができなければ就職もできない、ましては結婚もできない」と言われていましたから、韓国人はみんな必死でしたよね。日本でもこのようなショックがあると、みんな英語に目覚めるんだろうね。

 最後にもう1つ。すでに崩れつつあるけど、終身雇用制はやっぱり崩壊すると思う。そこで、何でもいいから、自分の得意分野を1つ作っておくといいです。何でもいいんです。掃除が好きなら掃除のプロになる、物を書く能力があるならその分野でトップレベルを目指す、そんなことが大切だと思っています。

この記事の著者
藤巻健史

1950年東京生まれ。一橋大学商学部を卒業後 三井信託銀行に入行 1980年社費留学で米国ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBAを取得。ロンドン支店 勤務をへて1985年 米銀のモルガン銀行(現JP モルガンチェース銀行)に転職。 同行で資金為替部長、東京支店長兼在日代表を歴任し東京市場屈指のディーラーとして 世界に名を博し JPモルガンの会長から伝説のディーラーと称された。 2000年にモルガン銀行を退社後はジョージソロス氏アドバイザーを務めた他、一橋大学 経済学部、早稲田大学大学院商学研究科にて講座を受け持った。2013年から2019年までは参議院議員。2020年に旭日中綬章を受章。日本金融学会所属。 現在(株)フジマキ・ジャパン代表取締役 。

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