愛人略奪のご乱心…アホの2代目源頼家vsバカ真面目な比企能員、一族皆殺しの刑ー鎌倉殿の13人

 NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜午後 8:00)の主な登場人物が次々と死んでいくーー。お笑いタレントの松村邦洋さんは「『鎌倉殿の13人』は、源氏と北条一族、御家人たちのドロドロ闘争劇」と言う。名前も知られていないが、実は面白かったりすごかったりする幕府の御家人や文官たちの人柄やエピソードを紹介する。

※本記事は、松村邦洋著『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』(プレジデント社)より抜粋・再編集したものです。

絵にかいたような嫌な奴「優等生のチクリ魔」梶原景時が御家人66人に”超嫌われた”ワケ

キャバクラ幕府じゃないよ。鎌倉幕府の創業社長 “頼朝” の後継者バトルが「鎌倉殿の13人」

 鎌倉時代という武士のための世を開いた最大の貢献者は、言うまでもなく源頼朝ですよ。頼朝が偉いのは、最初に幕府ってものを作ったってことですね。鎌倉幕府。キャバクラ幕府じゃないですよ。これはもう、徳川家康や足利尊氏が手本にするわけですよ。

 そんな頼朝が突然死んでから、早くも始まるのが権力争い。二代目将軍・頼家の、比企一族をバックにカン違いした振る舞いに、実の母親の政子は北条家との板挟みになって苦しむんですけど、そんな政子の心のうちとは関係なく、頼家は御家人たちに権限を取り上げられて、しまいには伊豆の修禅寺に幽閉されて殺されるんですよね。

 それと同時に進んでいくのが、いっしょになって平家と戦ってきた御家人たちの仲間割れと生き残りのトーナメントでしてね。梶原景時、比企能員(ひき・よしかず)、畠山重忠、和田義盛……という荒武者たちが、暗殺や謀略で毎週のように失脚したり殺されたり。

 しかも頼朝の後を継いだ頼家、実朝も若くしてその謀略戦の犠牲になっていくんですよ。そんな修羅場の中で、頼朝未亡人の政子を表看板に持つ北条時政、そして政子の弟、義時がしたたかに生き残っていきます。

 いい人だと思っていっしょに戦ってた人に、次は足元をすくわれるっていうか、どんどん人が消えていくんですよ。あの頃の武士の考え方って、コイツと組んでおけば「利益になるな」と思う相手とは組むし、「邪魔だな」と思ったら殺す、殺し合うという感じだったと思いますよ。

 すごいバトル・ロワイアルというか、アウトレイジというか、血で血を洗うというか、勝ち抜きトーナメント、御家人王座決定戦みたいな。その末に生き残って権力を握ったのが北条義時。

源頼朝

17歳の生意気ぼんぼん。2代目社長「頼家」の裏に、義理人情とヒキの強い?! 比企一族

 13人のメンバーに限らず、『吾妻鏡』が悪く書いてる登場人物は、北条が天下を取るのに邪魔だった御家人ばっかりですね。梶原景時や比企能員が典型ですね。

 二代将軍になった頼家は、流人の時代から頼朝の面倒を見ていた比企一族の後ろ盾をいいことに、勝手し放題なんですよね。取り巻きと蹴鞠ばっかりしている。ベテランの御家人をみんな呼び捨てにして、政子に怒られる。でもこの時、頼家はまだ満17歳くらいなんですよねえ。今でいえばサカリのついた生意気な高校生が、いきなり全国の武士の頭領になって権力を持ってしまったわけですよ、ええ。頼朝が急に死んじゃったから本人のせいじゃないですが、ちょっとかわいそうな役なんですけどね。

 景時と並ぶ北条のジャマ者という意味じゃ、比企一族はその最たるもんだったんじゃないですか。他の御家人とは全然違うんですよ。北条の対抗馬ですよ。持ってる領地も広くて裕福だし、頼朝の乳母の一人、比企禅尼は比企一族、その甥っ子が能員で、その娘が頼家の妻の若狭局。しかも、頼家との間に一幡も生まれてますからね。

 比企一族がいれば、北条に余計なことはさせません。お前ら黙ってろ、オレは源氏の老舗でずーっと家来やってんだ、お前ら北条みたいなポッと出とはわけがちがうんだ、みたいなね。「政子、黙ってろ」ぐらいは言えそうな対抗馬。源氏の運命が大きく変わったのは北条がのしてきたからですよ。北条のやり方って、ちょっと汚いですよね。

 比企一族は頼朝が伊豆に流されて、まだやっかい者扱いされてた頃でも決して見捨てず、生活物資を届けて頼朝をずっと支え続けていたんですね。

就任6カ月で愛人略奪。女でやらかした頼家社長のドロドロ愛憎劇場に、母・政子がブチキレ説教

 就任から半年経った時も、頼家はやっぱりやらかしましたね。比企家と同様に、長年頼朝のそばにいた安達盛長の長男・景盛――『草燃える』では火野正平さん――が愛人を自宅に住まわせたんですね。『草燃える』じゃ妻になる女性って設定になってましたけど。

 ところが、頼家の取り巻きの若い衆が、頼家の命令で景盛の留守中に彼の自宅に乱入して、その愛人をひっさらっちゃったんですよ、頼家の愛人にするためにね。しかも、景盛がそれを恨んでいると聞いた頼家が、なんとなんと、「景盛は謀反を企んでる!」って言いがかりをつけて、兵を集めて討とうとしたんですね。

 これを聞いて頼家の母、政子がブチきれた。そりゃ当たり前ですよ。火野正平さん、何にも悪くないですから。政子はまず景盛の家に行って彼をなだめすかして、一方で頼家に使者を送ってですね、「景盛を討つなら、まず私に向かって矢を射てからにしなさい!」。

 さすがですね、政子。景盛にはいちおう、謀反を起こすつもりはないという一文を書かせますけど、もういっぺん頼家をキツく叱るんですよね。

 こんな具合なもんですから、頼家が権限を取り上げられたのもまあ仕方ない。頼家が頼りにしたのは、梶原景時と比企能員でしたけど、景時は合議制ができてまもなく追放されて自害し、その3年後に頼家は蹴鞠をやってる最中に病気で倒れて、明日にも死ぬかってところまで病状が悪化したんですね。

 北条にとっては、頼家の子の一幡を将軍にしたい比企を出し抜ける大チャンスが来たわけですよ。すぐさま「頼家が死んだから、弟の千幡を次の将軍に据える」と、京都の朝廷に馬で使いを走らせるんですね。まだ死んでないうちにですよ、頼家が。先に朝廷から宣旨をもらうためですね。そういう手配をしといてから、時政が能員にお誘いをかけるんですよ。「仏像供養の儀式をやるので、北条邸へおいでください。また、これを機会にいろいろ話し合いましょう」ってね。時政が能員にうまく取り入ったんだと思います。

比企能員

いつの時代も、まじめで優秀な人ほど出世できないセオリーか。比企能員の命を奪った卑劣な手口

 能員の家族は、「時が時だから、ぜひ武具を身につけて、手下を連れていってください」と頼んだけれども、「そんな格好で行ったら、鎌倉中がカン違いして大騒ぎになってしまうわ」と、平服でお供もちょっとしか連れずに時政の自宅へ向かったんですよ。

 これでもう、運命決まっちゃいましたね。北条邸に入ったとたん、天野遠景と仁田忠常の2人の御家人が能員の手を押さえつけて、そのまま竹藪の中に引きずり込んで殺しちゃったんですよ。もちろん、時政の言いつけ通りですよ。

 さらに「比企が謀反を起こした」とか何とか理由をつけて、一幡のいる小御所に軍を送り込んだんですよ。能員が死んだことを知った比企の一族はそこに立てこもって戦うんですけど、ほとんどが戦死するか、その場で自害してしまったんですよ。頼家の妻の若狭局も、三代将軍になるはずだった一幡も殺されました。小御所で焼死したという説と、いったん逃げたものの義時の手勢に刺殺されたという説がありますけどね。

 どうです? 「仏のためなら北条も比企もないじゃないか」「御家人みんなで二代目をバックアップするいいきっかけになりそうだ」って思って武器も持たずに顔を出す能員の真面目な人柄ですよ。これをだまし討ちにする北条が100対0で悪い。しかも、頼家といっしょに蹴鞠で遊んだ同じ年ごろの御家人の若旦那どうしって、みんなお友達じゃないですか。義時の弟の北条時房なんて、頼家に「おーい、五郎」とか呼ばれてたお友達ですよ。

 それをね、頼家の一番大事な一幡をね。本来だったら三代将軍になるはずのね。実朝じゃねーよ、もう。その一幡を火の中に追いやって殺すなんてね。許せます? でもね、一幡が生きていたら、結局は公暁みたいに、実朝を殺しに来るかもしれませんね。で、怖い話なんですけど、この後に誰もが死ぬと思ってた頼家が何と、病気から回復しちゃうんですよ。まったくの想定外の出来事で、時政も政子も義時も愕然とするわけです。頼家は自分の意識がないうちに起こった事すべてを知って、そりゃあもう、怒りに震えます。

政子はキイタ! 出世レースに敗れた比企能員。”比企の乱”の間抜けすぎる真実

 『吾妻鏡』だと、能員が殺されたのは反乱を起こしたからだって事になってます。だから「比企の乱」って言われるんですね。能員が若狭局を通じて夫の頼家に、「何としても北条を討つべきです」「北条時政の一族と一幡とは両立できません」とお勧めして、頼家が能員を寝所に呼んで密談しているのを “偶然” 政子が障子越しに聞いて発覚した……というストーリーなんですけど、『吾妻鏡』は北条が監修してる記録書ですからね。んな偶然があるわけねーだろ! んな場所で、ンなデカい声でそんな大事な話をするかよ! って話ですよ。

 ただ、この弱肉強食の時代に、能員はホワイト過ぎましたよね。ヒキが弱かったっていうんですかね。もし暗殺されなかったら、能員は自分が忠誠を誓う源氏の血筋について、若手の御家人たちに「源氏とは何ぞや」を教える学校でもやらせたらよかったんじゃないでしょうかね。梶原景時の息子さん、畠山重忠の息子さんにね。安達さん、足利さんも呼んで、みんなでね。「出過ぎたマネはしないで、名門・源氏を立てて」ってね。

 そうすれば、鎌倉時代は5代、10代、15代と源氏の将軍が長く続いたんじゃないですか? 20代、30代、40代って、鎌倉時代いつ終わんだよって。津川雅彦さんの徳川家康が「まだか!」って歯ぎしりしてたりしてね。「足利、ちょっと時間の都合で、ナシでお願いしますうー」みたいな。もう日本の歴史は鎌倉時代だけでいい。織田信長もいらないし。

イラストレーション:森田 伸

松村邦洋著『松村邦洋「鎌倉殿の13人」を語る』(プレジデント社)

この記事の著者
松村邦洋

1967(昭和42)年8月11日生まれ。山口県出身。日本のお笑いタレント。 大学生の頃、バイト先のTV局で片岡鶴太郎に認められ芸能界入りし、斬新な生体模写で一躍有名に。ビートたけし、半沢直樹、“1人アウトレイジ”、阪神・掛布雅之、故野村克也監督など多彩なレパートリーを誇り、バラエティ、ドラマ、ラジオなどで活躍中。プロ野球好きで、大の阪神ファン。 芸能界きっての歴史通で知られ、YouTubeで日本史全般を扱う『松村邦洋のタメにならないチャンネル』を開設。特にNHKの歴代「大河ドラマ」とそれにまつわる知識が豊富。著書に『武将のボヤキ』『愛しの虎』『ボクの神様-心に残るトラ戦士』がある。

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