見えた!「日本経済一人勝ち」の未来…ここにきて円安効果がデメリットを上回る事例が

2022年中間決算は、円安効果で最高益更新企業が続出

 米国のインフレ緩和期待などを背景に、足元では急激に円高へ振れたとはいえ、いまだ円安と物価高が日本経済の足かせになっている構図に変わりはない。インフレ退治に躍起になる米国と、金融緩和策を継続する日本との金利差は埋まらず、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化などの影響で資源価格も上昇しており、31年ぶりという歴史的な物価上昇を迎えた国民の生活不安は高まるばかりだ。

 ただ、円安の恩恵を受ける形で過去最高益を更新する企業も続出している。世界的な景気減速見通しの中で、一部では「日本の一人勝ち」との声も聞こえるが、結局のところ円安は日本にとってプラスなのか、それともマイナスになのか。

 2022年9月中間決算で、上場企業の好決算が相次いでいる。SMBC日興証券の集計によると、記録的な円安の追い風を受けて、純利益の合計額は21兆円を上回り、中間期としては過去最高水準となる。特に運賃が高止まりする海運や、資源高に円安メリットが加わる商社などの「非製造業」は好調だ。日本郵船、商船三井、川崎汽船の大手海運3社は、2023年3月期の業績予想(純利益)を上方修正し、過去最高益予想をさらに上乗せした。

 大手商社も2023年3月期通期の予想純利益を上方修正し、特に三菱商事は総合商社で初めて純利益が1兆円を超えるとの通期見通しを示した。

 新型コロナウイルスの感染拡大で停滞していた飛行機や鉄道の利用も回復傾向にあり、空運や陸運も利益を伸ばしている。名だたる大企業の好決算は日本経済が上向き、岸田文雄首相が意欲を示す大幅な賃上げにつながることを期待させる。

コスト上昇のデメリットが円安効果を上回る自動車業界

 円安は、海外事業の儲けを円換算で膨らませ、「製造業」の輸出競争力を高める。実際、円安メリットを受ける関連銘柄を見れば、海外に製品を輸出・販売する企業は基本的に売り上げが伸びている。

 電機大手8社の2022年度上期(4~9月)の連結業績は、いずれも増収を記録した。日立製作所のグループ全体の決算は売上高が前年同期比12.1%増の5兆4167億円で、円安効果で4470億円の業績押し上げが見られた結果、この時期の売り上げとしては過去最高を記録した。ソニーグループの売上高も前年同期比9.4%増の5兆633億円、営業利益は8.8%増の6510億円と過去最高になっている。

 ただ、各業界とも原材料価格や物流コストの上昇によって、利益の圧迫も見られる。特に顕著なのが自動車で、大手7社の9月中間連結決算は全社で増収となったが、各社の営業利益合計は、前年同期から減っている。トヨタ自動車は純利益が前年同期に比べ23.2%減の1兆1710億円となり、半期として2年ぶりの減益だ。ホンダの純利益は13.0%減の3385億円、日産自動車は61.8%減の644億円となった。

 トヨタ自動車の豊田章男社長は9月22日の記者会見で「資材や部品の輸入が増えており、輸入価格やエネルギー価格の高騰によるデメリットが拡大しているのが現実だ」と危機感を隠さない。原材料費の高騰によって円安効果が剥落し、利益を圧迫する構図をいかに乗り越えるかが課題となっている。

 円安になれば、輸出企業は「得」をして、輸入企業は「損」となる。セオリーとしては当てはまるものの、今日の円安局面ではコスト上昇が重しとなっているのが実情だ。原材料費の上昇分を価格転嫁できない中小・零細企業にはダメージが大きい。

 円安が今後の業績にどのように影響していくのか見通しは難しく、その効果も明暗が分かれると言える。

経済同友会・桜田代表幹事は、国力低下が円安を招いていることを憂慮

 財務省が11月17日発表した10月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は2兆1623億円の赤字で、10月としては1979年以降で最大となった。円安と資源高で「輸入」は前年同月に比べ53.5%増の11兆1638億円に膨らむ一方、「輸出」は25.3%増の9兆15億円にとどまる。

 先行き懸念も尽きない。9月の機械受注統計(季節調整値)を見ると、企業の設備投資の先行きを示す民需(船舶・電力を除く)は8680億円と前月比4.6%減だった。2カ月連続のマイナスで、内閣府の基調判断は7カ月ぶりに下方修正し「持ち直しの動きに足踏みがみられる」となっている。非製造業は4.4%増だったが、製造業は8.5%減だ。7~9月期を見ても民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前期比1.6%減の2兆7438億円で、製造業は6四半期ぶりに減少に転じている。

 経済同友会の桜田謙悟代表幹事は10月19日の記者会見で「円安はデメリットの方が大きい」と指摘した上で、「(円安が)日米金利差だけではなく、日本の経済力と国力に起因するのであれば大変心配だ」との認識を示した。

 円安に伴う輸入コスト上昇が続けば、家計への負担増も避けられない。輸入品だけでなく、輸入材をもとに製造される商品も値上げを余儀なくされるからだ。9月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年同月を3%上回っている。消費税率引き上げの影響を除けば1991年8月以来31年ぶりの水準で、特に「生鮮食品を除く食料」の上昇(4.6%)は大きく、41年ぶりの水準にある。

 物価上昇に賃金アップが追いついていけば問題はないが、9月の毎月勤労統計調査(速報)で実質賃金は前年同月比1.3%減少している。6カ月連続のマイナスであり、消費が冷え込むのは無理もない。今年7~9月の国内総生産(GDP)速報値は、実質で年率換算は前期比1.2%減と4期ぶりのマイナスとなった。大きな理由は、GDPの半分以上を占める個人消費の伸び悩みだ。日銀の黒田東彦総裁は6月に「家計は値上げを受け入れている」と発言して批判されたが、国民の財布の紐(ひも)が緩む状況にはない。

再開したインバウンドは円安が後押しも、賃金格差は拡大か

 円相場は10月下旬に1ドル=150円台まで進行し、1990年8月以来32年ぶりの円安水準を記録した。1月時点の115円台からすれば、35円近くも下落したことになる。インバウンド需要に期待を寄せる岸田政権は10月11日から1日あたりの入国者制限を撤廃し、外国人観光客の呼び込みに躍起だ。日本政府観光局が11月16日発表した10月の訪日外国人客は49万8600人となり、前年同月の22倍超となった。9月(20万6500人)と比較しても2倍以上の伸びを見せており、円安が後押しする。

 円安にはメリットもデメリットもあるのは当然だが、日銀の黒田総裁は10月19日の参院予算委員会で「このような円安の進行は企業の事業計画策定を困難にするなど先行きの不確実性を高め、我が国経済にとってマイナスであり、望ましくないと考えている」と述べた。結局のところ、どのレベルまで円安が進み、その影響をどこまで企業や個人が許容できるのかということになるだろう。

 日本の平均給与が25年近くも上がらない中、連合は2023年の春季労使交渉で、基本給を一律に上げるベースアップと定期昇給を合わせた賃上げ要求を5%程度にすると発表した。芳野友子会長は10月20日の記者会見で「物価高も踏まえ、一層の全体的な底上げを図っていかなければならない」と意気込みを見せる。経済界は賃上げ自体には前向きな姿勢を示しているが、28年ぶりの高い要求には「平均5%は相当厳しい」(桜田代表幹事)との声も漏れる。

 利益が膨らむ輸出企業では従業員の給与増が期待される一方、輸入関連銘柄ではマイナスの影響もあり得る。たしかであるのは、今後もこのような状況が続いていけば「富める者」とそうではない者の格差が広がりかねないということだ。あなたは「勝ち組」「負け組」のどちらかになるだろうか?

この記事の著者
佐藤健太

ライフプランのFP相談サービス『マネーセージ』(https://moneysage.jp)執行役員(CMO)。心理カウンセラー・デジタル×教育アナリスト。社会問題から政治・経済まで幅広いテーマでソーシャルリスニングも用いた分析を行い、各種コンサルティングも担う。様々なメディアでコラムニストとしても活躍している

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