サムスンはどうやって日本企業から技術を盗み取ったのか…土日にソウルで開かれた謎の「講義」

大村大次郎
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 世界における日本のプレゼンスが年々低下している。日本のお家芸であったものづくり分野でも、中国や韓国をはじめとする海外諸国の製品に押され、辛酸を舐めている。ただし、経営コンサルタントの大村大次郎さんは「この現状を招いたのは日本自身」と厳しく指摘する。日本企業が持っていた「油断」とは――。全4回中の1回目。 

※本稿は大村大次郎著『お金で読み解く地政学』(彩図社)から抜粋・編集したものです。 

第2回:このままでは破綻してしまう!「史上最悪の借金国」になってしまったアメリカの危険すぎる末路
第3回:スリランカが陥った中国の罠…債務返済不能の港をチャイナが租借 習近平が進める静かなる侵略
第4回:ロシアへの経済制裁がうまくいかなかった理由…「年金は日本以上」プーチンが作り上げた盤石な経済

家電メーカーの衰退は日本経済低迷の象徴 

 1990年代前半に起きたバブル崩壊以降、日本の経済的存在感は、急速に低下しています。1980年時点では、日本は世界のGDPの9.8%を占めていました。実に世界の1割近くのGDPを日本たった一国で稼ぎ出していましたが、2017年には世界GDPのシェアは6.1%にまで縮小しており、現在も下がり続けています。 

 なぜ日本経済は、ここまで凋落してしまったのでしょうか? その理由は、「お金と地理」の観点から読み解けば、説明できます。 

 日本は、戦後、急激な経済成長を遂げました。日本の経済成長を象徴する出来事に「所得倍増計画」があります。「所得倍増計画」というのは、戦後15年しか経っていない1960年、池田勇人首相が画策したもので「10年間に国民所得を26兆円に倍増させる」というものでした。 

 これが当たり、日本の産業は急激に発展しました。鉄、繊維、造船、電化製品、自動車などで世界市場に輸出攻勢をかけ、終戦からわずか24年後にはアメリカに次ぎ世界第2位の世界規模を持つに至りました。 

 オイルショックなどで一時的に停滞する時期もありましたが、80年代までは「奇跡」と呼ばれるほどの経済成長を続けていました。1980年代の日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」などとも言われ、世界経済の中で最も勢いのある国とされていました。 

 日本企業は世界中に進出し、電化製品、自動車などの日本製品は世界中にあふれていました。地域的な影響力も大きく、中国、韓国をはじめアジアの大半の国は日本から何らかの援助を受けていました。 

 日本経済低迷の象徴として、家電メーカーがあります。家電メーカーの衰退の経緯の中に、日本経済がなぜ低迷していったのかの理由が詰まっています。 

 日本の家電メーカーは、かつては世界シェアの多くを占めていました。2002年時点では、世界の家電シェアの1位2位を日本の家電メーカーが占め、10位のうちに5社、15位のうちには7社も占めていたのです。 

 しかし、2000年代後半になって、韓国や中国のメーカーに凌駕されるようになっていきました。日本の家電メーカーは、韓国や中国のメーカーに、価格競争で敗れ、世界の家電シェアはたちまち彼らに奪われたのです。 

 近年における家電メーカーの売り上げを見ると、意外な事実が浮かび上がってきます。欧米のメーカーは、日本のメーカーと違ってしっかり頑張っているということです。 

 家電の分野で、日本のメーカーは軒並み苦戦していますが、それは中国、韓国の台頭が主要因だとされてきました。だから、世界の家電は、中国、韓国のメーカーに席巻されているようなイメージがあります。 

 ですが、実は、そうではないのです。2002年に10位以内に入っていた欧米の家電メーカーたち、アメリカのワールプール、スウェーデンのエレクトロラックス、オランダのフィリップスは、2022年現在も世界的なシェアをキープしています。日本のメーカーとは対照的です。 

 むしろ、日本のメーカーに席巻されていた1990年代ごろと比べれば、シェアは伸びていると言えます。アメリカのワールプールなどは、企業買収などの成果が大きいにしろ、日本や韓国勢を上回る年もあったのです。 

 各メーカーの主要商品を見ればその理由は見えてきます。欧米の家電メーカーは、中国や韓国のメーカーとは、あまり競合していないのです。アメリカのワールプールは、冷蔵庫や洗濯機などの「白モノ家電」が主要商品です。しかし、ワールプールの扱う商品は、アメリカ式の大型のものがほとんどであり、業務用のものも多いのです。中国の家電メーカーがつくる白モノ家電とは、ちょっと分野が異なるのです。 

 またスウェーデンのエレクトロラックスも、白モノ家電が主要商品ですが、食洗器、調理器具など、キッチン周りの製品が多いのです。そして、デザイン性に優れ、家電としてだけではなく「家具」として高級感のある商品が特徴となっています。しかし、日本の家電メーカーの主要商品と、中国、韓国の家電メーカーの主要商品は、まともにかぶっています。 

 また以前は、分野だけではなく、商品そのものも、似ているものが多くありました。中国や韓国の家電メーカーの製品は、明らかに日本製のコピー商品と言えるものが多々あったのです。構造だけではなく、デザインもそっくりなものが多く出回っていました。 

 韓国や中国の家電メーカーは、日本のメーカーを手本にしてきたのです。そして彼らには安い人件費という強力な武器があります。そのため、日本の家電メーカーは、中国、韓国に価格競争で敗北してしまっているのです。 

安易な海外進出が企業の首を絞める 

 それにしても、なぜ日本の家電メーカーは、中国や韓国の家電メーカーと主要商品がかぶっているのでしょうか? その主な理由は次のようなものと言えます。 

  • 中国、韓国のメーカーは日本のメーカーを手本にしてきたこと
  • 日本のメーカーは、早くから中国、韓国に工場を建てて、技術供与をしてきたこと

 こんな事態になったのは、元はと言えばお金と地理の両面における、日本の油断が原因なのです。 

  日本の家電メーカーは、1970年代ごろから急速に外国に進出し、東南アジアに工場などを建て始めました。しかし、企業の海外進出には大きな落とし穴があります。それは、技術の流出です。 

 この「製造のための海外展開」は、企業の収益を一時的に押し上げます。しかし、長期的に見れば、その企業の技術を現地に流出してしまい、強力なライバルを育てることになってしまうのです。現在の日本の家電メーカーの苦戦の最大の要因は、そこにあると言えます。企業がどれほど技術の流出防止に努めたとしても、外国に工場設備まで建ててしまえば技術流出を止められるはずがないのです。 

 中国、韓国、台湾などの企業が、急激に発展したのは、日本がこれらの国に進出したことと無関係ではありません。日本がこれらの国で工場をつくり、無償で技術を提供したために、彼らは急激に技術力をつけていったのです。現在の日本の家電メーカーなどの停滞は、もとはと言えば日本企業が安易に海外進出したことで起こったのです。 

 企業としては、当面の収益を上げるためには、人件費の安い外国に進出したくなるものです。しかし、これは長い目で見れば、決してその企業の繁栄にはつながりません。進出先の国でその技術が盗まれ、安い人件費を使って、対抗してくるからです。つまり、日本企業は、自分で自分の首を絞めているのです。 

海外企業に買われる日本人技術者 

 日本経済が低迷している要因として、「人材の流出」もあります。日本はアジア諸国と地理的に近いため、日本人技術者が中国や韓国の企業で働くのは、そう難しいことではありません。 

 2014年、東芝の提携企業の元技術者が、韓国の半導体企業「SKハイニックス」に機密情報を流したとして訴えられました。これは「東芝半導体データ流出事件」と呼ばれているものです。 

 この事件の経緯は次のとおりです。アメリカの半導体大手のサンディスクの日本法人に勤務していた技術者が、共同技術開発していた東芝のデータをコピーし、韓国の「SKハイニックス」に転職しました。そして「SKハイニックス」において、コピーしていた東芝の研究データを提供したということです。 

 これに気づいた東芝が、SKハイニックスと元技術者に対し1090億円余りの賠償などを求める訴訟を起こしたのです。この裁判は、SKハイニックスが2億7800万ドル(当時の為替レートで約330億円)を支払うことで和解しました。 

 この元技術者は、SKハイニックスから前職の2倍ほどになる千数百万円の報酬を約束され、住居にはソウルの高級マンションを提供されたそうです。しかし、SKハイニックスは、この元技術者の能力自体には魅力を感じておらず、保持している機密情報だけが欲しかったらしく、たった3年で契約を打ち切られています。絵にかいたような「産業スパイの使い捨て」です。しかし、この事件は氷山の一角であると見られています。 

 この事件は、東芝の社員ではなく提携先の企業の元技術者が「データをコピーして持ち出した」ために訴えられたものです。もし、東芝の技術者がデータをそのまま提供するのではなく、自分の培った技術を提供すれば、なかなか訴えるのは難しいのです。実際に、90年代以降、そういう事例は腐るほどあるのです。 

 東芝、ソニーなどから、韓国や中国の企業などに転職した技術者は多々います。また転職をせずとも、韓国企業などから招かれて技術講義などを行った日本の技術者は多々いると見られています。日本の技術者たちは、日本企業に在職したまま、土日にサムスン電子などにソウルに招かれるということがよく行われていました。一回の技術講義で、その技術者の月給の何倍もの報酬が払われていました。いまや日本の産業全体で、こういうことが行われています。

大村大次郎著『お金で読み解く地政学』(彩図社)
大村大次郎

経営コンサルタント。1960年生まれ、大阪府出身。元国税調査官として10年間国税庁に勤務した後、経営コンサルタントに。現在はビジネス・税金関係の執筆も行なっている。フジテレビドラマ「マルサ!!」監修。著書に『脱税のススメ』シリーズ、『教養として知っておきたい33の経済理論』(彩図社)、『お金の流れでわかる世界の歴史』(KADOKAWA)等多数。

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