スリランカが陥った中国の罠…債務返済不能の港をチャイナが租借 習近平が進める静かなる侵略

大村大次郎
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 実質的な資本主義化を進め、力強い経済成長を果たしてきた中国。現在は資源の確保のため、アジア、アフリカをはじめとする世界各国に積極的な資金援助や投資を行っている。このような状況に、経営コンサルタントの大村大次郎さんは、「様々な国が『中国の罠』に陥る可能性がある」と警鐘を鳴らす。中国の野望とそのリスクとは――。全4回中の3回目。 

※本稿は大村大次郎著『お金で読み解く地政学』(彩図社)から抜粋・編集したものです。 

第1回:サムスンはどうやって日本企業から技術を盗み取ったのか…土日にソウルで開かれた謎の「講義」
第2回:このままでは破綻してしまう!「史上最悪の借金国」になってしまったアメリカの危険すぎる末路
第4回:ロシアへの経済制裁がうまくいかなかった理由…「年金は日本以上」プーチンが作り上げた盤石な経済

共産主義からの路線変更で急成長 

 第二次世界大戦後、共産主義政権の中華人民共和国が誕生します。これはアメリカや西側諸国にとって痛恨事でした。アメリカ政府は「共産党政府を中国の政府とは承認せず、共産党政権とは国交を持たない」と表明します。 

 国際社会に国家として認められなかった中国に、ソ連が手を差し伸べます。そして中華人民共和国樹立の翌年の1950年に、「中ソ友好同盟相互援助条約」を結びました。中国は、ソ連の経済計画などを模倣し、1958年に「大躍進政策」なるものを発動させました。 

 これは世界第2位の経済大国だったイギリスを15年で追い抜くという、当時の中国から見れば、途方もなく無理な目標でした。農工業に無理なノルマを課していた上、鉄鋼など一部の分野を数値を上げることばかりに執着したため、各産業の効率が落ち、経済は大混乱をきたしました。 

 その結果、農村では食料が圧倒的に不足し、史上まれに見る大飢饉が発生してしまったのです。この大躍進政策の失敗を誤魔化すために、毛沢東は「文化大革命」を起こしました。この文化大革命により、中国では大勢の知識人が犠牲になったので、中国の社会経済をさらに後退させることになってしまいました。 

 文化大革命の混乱は、結局、1976年に毛沢東が死去するまで終わりませんでした。その間に、中国とソ連の間も急激に悪化していきました。 

 毛沢東の死去後に、中国の権力を握った鄧小平は、「大躍進政策」「文化大革命」の混乱を収拾するために、「改革開放路線」というこれまでとは180度違うような経済政策をとります。共産主義という看板は掲げたまま、自由主義経済のいい部分を真似しよう、西側諸国とも積極的に交流し、投資も呼び込もうとしたのです。 

 1979年には、中国は深圳、珠海、 汕頭、廈門(アモイ)に経済特区をつくりました。経済特区というのは、特例的に外国企業の進出を認め、税金の優遇などを行う地域のことです。深圳、珠海、 汕頭、廈門は、いずれも沿岸地域であり、香港、マカオ、台湾などに近接したところです。ここに経済特区を設けることで、香港、マカオ、台湾の企業や投資マネーを呼び込もうとしたのです。 

 中国のこの経済特区政策は、「当たり」ました。外国企業にとって、中国の経済特区は非常に美味しい「タックスヘイブン(租税回避地)」だったからです。中国の経済特区の法人税の税率は15%程度でした。当時の先進国の法人税率は40~50%程度ありましたので、この低税率だけでも随分美味(おい)しいものです。 

 それに加えて、中国の経済特区は「工業地帯」として非常に好条件を備えていました。まず土地代が非常に安く、工場用地などが整備されているということ。そして、何より人件費が先進国に比べて、10分の1以下で済みました。また中国は、東南アジアのど真ん中に位置していますから、アジア圏の輸出などにも非常に便利です。 

 しかし、この中国版タックスヘイブンには、大きな罠(わな)がありました。これは中国から見れば「外国人に工場を建ててもらって、自動的に産業を発展させてもらう」ということです。しかも、進出した企業の技術情報が吸い取られるということでもありました。 

 中国が改革開放政策を講じ始めた当初、外資には資本の制限がありました。自動車などの機械製造分野では、外資の資本割合は50%を超えてはならない、ということになっていました。だから、日本のメーカーが中国に進出するときには、資本100%の子会社をつくることはできず、中国側と合弁企業をつくるしかありませんでした。これが後年、大きな仇(あだ)となり、日本の家電メーカーなどの衰退を招くのです 。 

中国が躍起になる領土・領海問題 

 改革開放政策に転じて以来、中国は驚異的な経済成長をしてきました。が、この中国経済にも、泣き所があります。中国が今後、必ずぶつかる大きな壁があるのです。それは領土と領海の問題です。 

 中国は、世界で4番目という広い国土を持っています。が、この国土の6割以上が、少数民族などの自治区になっているのです。中国の人口は9割以上が漢民族なのですが、ほかに55の少数民族が存在します。中国の国土の6割以上の部分に、少数民族が点在し、自治区を形成しているのです。 

 もしこれらの自治区が中国からすべて独立してしまえば、漢民族は今の半分以下の国土の中に押し込められてしまうのです。もちろん中国としてはそれは避けたいわけです。そのため漢民族を少数民族の自治区になるべく多く居住させ、自治区を漢民族の居住地域に取り込もうとしています。 

 中国政府が、チベット人やウイグル人の人権を侵害しているということが、しばしば国際問題になります。それは、少しでも独立の動きがあったり、中央政府に反抗する予兆があれば、徹底的に抑え込もうとしているからなのです。 

 そして中国の領海問題はさらに厳しいものがあります。中国は領海について近隣諸国と軋轢(あつれき)が生じています。日本とも尖閣諸島の領有権をめぐって対立していますし、フィリピンなどとも南沙諸島をめぐってたびたびトラブルになっています。また中国は、70年以上、統治できていない台湾をいまだに自国だと主張し、台湾の分離独立は絶対に認めないという姿勢をとっています。 

 中国が、尖閣諸島や南沙諸島、台湾に固執する大きな理由が、「領海」とそれに伴う「排他的経済水域(EEZ)」なのです。中国の場合は、その広い国土に比べて、領海と排他的経済水域は非常に狭くなっています。それは、中国が接している海域には、ふたをするように日本や台湾、フィリピンが存在しているからです。 

 中国の排他的経済水域の面積は世界で10番目であり、229万平方キロメートルしかありません。一方で、島国の日本は世界で8番目であり、中国の2倍近くの排他的経済水域を持っています。 

 昨今、海洋資源の開発などの技術が進み、海で天然資源が発掘されるようになりました。なので排他的経済水域の重要性が非常に高まっています。尖閣諸島なども、以前から日本の領土として国際的にも認められてきたのですが、1969年、国連の海洋調査で「近海に豊富な油田が存在する」と発表された途端に、中国が領有権を主張し始めたのです。 

世界各国が「中国の罠」に陥る 

 2022年7月、アジアのスリランカで政変が起きました。現在、スリランカは深刻な経済危機に陥っています。慢性的な貿易赤字に加えて、新型コロナウイルスにより主力産業の観光業が低迷し、それにロシアとウクライナの戦争での物価高が追い打ちをかけたのです。スリランカの2022年3月末時点の外貨準備高は約19億ドルで、1年間で半減しています。また外貨不足により原油や食料品の輸入が滞り、スリランカでは深刻なインフレが生じています。 

 スリランカの債務は、その多さも問題ですが、その内容に重大な懸念材料が秘められています。スリランカは「中国の罠」にひっかかったとされているのです。 

 スリランカは中国からの融資で、ハンバントタ国際港とマッタラ・ラジャパクサ国際空港を建設しました。が、どちらも経営がうまくいかず、債務の返済ができなくなり、2017年に中国国営企業がハンバントタ国際港を99年間租借することになりました。 

 中国は19世紀に、欧米列強から政治の腐敗に付け込まれ、資源や国土の利権を奪われました。中国全体が虫食い状態にされ、国を立て直すのに100年以上かかりました。中国自身がそういう目に遭っていながら、それと同様のことをスリランカにしているのです。 

 また中国は近年、アジア、アフリカの資源を確保するために、アジア、アフリカ諸国に経済援助や投資を行なっているのです。中国は2000年から、アフリカ諸国首脳を集めて「中国・アフリカ協力フォーラム」を開催しています(2021年は53カ国が参加)。 

 この「中国・アフリカ協力フォーラム」では、毎回、中国からの桁違いの支援が約束されています。2015年の第6回会議ではなんと600億ドルもの巨額の拠出をすることになったのです。600億ドルというのは、日本円で約8兆円です。 

 この中国の動きに、欧米諸国は警戒心を募らせています。アフリカの資源を中国にごっそり持っていかれるとともに、中国の経済支援の在り方に問題があるからです。中国は、アジア、アフリカ諸国を支援する際に「条件をつけない」のです。 

 他の欧米諸国や日本の場合、「経済援助が軍事目的で使われないこと」「人権に問題がある政権には援助しない」などの条件がつけられます。しかし、中国の場合は、そういう条件は一切抜きにして、「何に使ってもけっこう」ということで援助が行われるのです。そのため、中国の援助は、軍事独裁政権の武器として使われるケースがままあり、人権侵害を間接的に手助けするということも生じるのです。 

 新型コロナのダメージがまだくすぶる中で、このままいけば、今後も、第二、第三のスリランカが出てくることになるでしょう。アジア、アフリカ諸国の中には、資源や国土の利権を中国にごっそり持っていかれる国が続出するかもしれません。

大村大次郎著『お金で読み解く地政学』(彩図社)
大村大次郎

経営コンサルタント。1960年生まれ、大阪府出身。元国税調査官として10年間国税庁に勤務した後、経営コンサルタントに。現在はビジネス・税金関係の執筆も行なっている。フジテレビドラマ「マルサ!!」監修。著書に『脱税のススメ』シリーズ、『教養として知っておきたい33の経済理論』(彩図社)、『お金の流れでわかる世界の歴史』(KADOKAWA)等多数。

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