飛躍するくら寿司、伸び悩むスシロー…回転寿司業界の熾烈なトップ争い

スシローは5月9日、創業以来続けてきた「1皿100円」を終了することを発表した。10月から最低価格を120円〜140円(税込み)に値上げする。円安を原因とする物価高を背景に、これまで低価格回転寿司チェーンにおいてトップの座を不動のものとしていたスシローでさえ方針転換が求められているのだ。

一方、日々熾烈な競争が繰り広げられている低価格回転寿司チェーンのなかでも、スシローに追いつこうかという勢いを見せているのがくら寿司である。

回転寿司業界で今何が起きているのか。スシローとくら寿司のコスト・利益構造や原価率に着目し、両者の実力に迫ってみることとする。

回転寿司業界の王者、スシローの強さの秘訣とは

スシローの歴史をさかのぼって、その強さの厳選を考えてみよう。

スシローは、創業者清水義雄氏が1975年7月に大阪市阿倍野区に個人ですし店を開業したのが始まりである。その後、1984年10月に回転すし店の店舗展開を目的とする株式会社すし太郎が大阪府豊中市に設立された。1999年8月、清水義雄氏の実弟である清水豊氏が代表取締役を務めていた大阪府吹田市に本社を置く株式会社すし太郎を消滅会社とする合併が行われ、2000年12月に商号を株式会社あきんどスシローに変更。「すしを通して人々の暮らしを豊かにしたい」という経営理念のもと、高品質で付加価値の高いサービスを継続して提供するとともに、「回転すし総合管理システム」の導入などにより効率性を追求することで、お客様満足度の向上を図ってきた。スシローが、高品質かつ安い寿司を提供できるのは、この「回転すし総合管理システム」を始めとするシステムによるところが大きい。

さてここで、スシローの決算書を見てみよう。

注意が必要なのは、スシローでは連結財務諸表においてIFRS(国際財務報告基準)を採用している点である。

スシローの連結貸借対照表における特徴は次の2点である。

①新たなリース会計基準の適用

②無形固定資産(のれん)の計上

IFRSでは、2019年12月期以降の決算期において、新たなリース会計基準(IFRS16号)が強制適用されている。この結果、従来に比べて貸借対照表に計上されるリース資産の範囲が拡大したため、スシローの有形固定資産は2019年9月期から2020年9月期にかけて大きく増加することとなった。

スシローの連結貸借対照表上、無形固定資産であるのれんが計上されているが、その経緯は少々複雑である。詳しい解説は割愛するが、スシローの歴史上、組織再編が繰り返された結果として、第8期(2021年9月期)においてはのれんが30,541百万円計上されている。

スシローは回転寿司のほかにも、居酒屋業態の杉玉を展開している。2021年4月には吉野家ホールディングスから京樽を買収し、持ち帰り寿司の京樽と回転寿司の海鮮三崎港を傘下に収めた。コロナ禍における飲食業界の低迷に対して、中長期的にテイクアウト事業を強化しているところである。スシロー本体の盤石な基盤をバックにしつつ、M&Aを果敢に仕掛けてより強固な土壌を作りつつあるところだ。

業界2位のくら寿司。スシローに対する勝算はあるのか

続いて、業界2位のくら寿司の強みについて考察したい。

くら寿司は、1977年創業。1995年11月には、回転寿司の製造・販売を目的として大阪府堺市(現堺市中区)に株式会社くらコーポレーションを設立した。従来から存続していた回転寿司の製造・販売を事業目的とする株式会社くら寿司(大阪府堺市中区)と、同じく株式会社くら寿司(大阪府大阪狭山市に所在)より、設立と同時に両社の直営店13店舗の営業権を取得した。

店舗の土地をほとんど保有しておらず、有形固定資産が小さく抑えられていることがくら寿司の特徴だ。回転寿司の製造・販売において鮮魚を取り扱うため、売上債権や棚卸資産が少ない傾向にある。

昨今のくら寿司の好調さの理由のひとつには、コラボ企画の成功がある。大ヒットアニメ『鬼滅の刃』をはじめ、大ヒットしている劇場版『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』とのコラボも話題となったばかりだ。話題性のあるコラボに意欲的であり、このマーケティング力が強みとなっている。

財務データを見ることで、両社の強みが浮き彫りに

原価率と販管費に着目して、スシローとくら寿司を比較していく。

下表にスシローとくら寿司の直近の財務データ[3] を示す。

 

会社名 スシロー くら寿司
会計年度 2021年9月期 2021年10月期

売上収益・売上高

(百万円)

240,804 147,592
売上原価(百万円) △110,577 △66,795

販売費および一般管理費

(百万円)

△115,668 △83,475

上記財務データを見ると、原価率は、スシローが45.9%、くら寿司が45.2%である。販管費率については、スシローが48%、くら寿司が56.5%。このことから、原価率においてはくら寿司よりスシローの方が高く、販管費はスシローよりくら寿司の方が高いことがわかる。

売上原価は、寿司の原材料費に相当する。よって、原価率が高いスシローの方が原材料費にお金をかけているといえる。スシローの基本的な経営スタンスとして、寿司そのもので勝負する傾向があるので、原価率が高いことに納得がいく。過去に人気を博したメニューの復刻フェアを開催するなど好評を博している。

財務データを丹念に見ることで、両者の経営スタンスの違いが浮き彫りになった。寿司そのものの品質とコストを重視するスシローと、巧みなマーケティングで攻めるくら寿司。両者の熾烈な戦いはこれからも続いてくだろう。

どの寿司を食べればコスパがいいか?コスパがいいのは〇〇

リーズナブルな価格でお寿司を楽しめる点が低価格回転寿司チェーンの魅力のひとつ。

では、コスパを考えたときに、スシローとくら寿司でどのお皿を食べた方がお得なのか、考えてみたい。

直近の有価証券報告書より、スシローとくら寿司の原価率はそれぞれ、45.9%、45.2%である。原価率を見るかぎり両者に大きな差はないが、くら寿司よりスシローの方が原価率を0.7%上回っている。

回転寿司チェーンにおける原価率はおおよそ30%が平均といわれている。その意味するところは、すべての寿司ネタの原価率を一律30%にするという意味ではなく、全体を平均すると30%前後におさまっていることが望ましいと考えられている。

スシローとくら寿司の原価率はともに30%を超えているため、ぎりぎりの価格設定であることが推測できる。

消費者にとっては、原価率が高い寿司ネタを頼んだ方がコスパがよい。1皿100円で出しているようなネタのなかでも、ウニ、マグロ、イクラがとりわけ原価が高いことはよく知られている。つまり、最低単価で出されているマグロの赤身などは、コスパがよい、ということになる。

仕入れ値が低い寿司ネタは、タマゴ、ツナ、コーン、納豆、きゅうりなど。これらの寿司ネタは原価が安いため、お店側にとって儲けが出る。言い換えれば、消費者側は損をしていて、コスパが悪い。

くら寿司はサイドメニューに力を入れていることで知られているが、一般的にはサイドメニューの原価は寿司と比べると安く抑えられているので、こちらもコスパが悪い。

このように、コスパの観点からみてみると、ウニ、マグロ、イクラを頼んだ方がお得であると言えるだろう。回転寿司で注文をする際にはコスパについて意識してみることもひとつの考え方として、取り入れてみてはいかかだろうか。

この記事の著者
金塚さおり

外資系会計事務所出身のライター。金融系記事の執筆を得意とする。

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