【漫画】投資の神様バフェットが大量保有する日本5大商社株「さらなる買い増し」を狙う2つの理由
コロナ禍の2020年8月に「世界一の投資家」と呼ばれるウォーレン・バフェット氏は日本の5大商社(伊藤忠商事、丸紅、三井物産、三菱商事、住友商事)への投資を決めた。その後、2022年11月にはさらに投資を拡大し、各社の持ち株比率を6%以上まで引き上げた。日本への投資を拡大し続ける理由と、バフェット氏が考える日本への投資戦略を解説する。(第3回/全3回)
※本記事は、濱本明監修、ちゃぼ(漫画)、 桑原晃弥著、中野佑也著『バフェットの投資戦略 ’00~’22』(standards)より抜粋したものです。
第1回:【漫画】「シケモクで一服しなさい」投資の神様ウォーレン・バフェット…朝マック歴59年のドケチ列伝
第2回:【漫画】なぜバフェットはインドのFintechに投資した…ツイッターなどIT企業は基本毛嫌い
震災、コロナ、円安…それでも世界一の投資家は「日本株」を評価
東日本大震災後の日本株を「大量買い」した理由
バフェットの主戦場はアメリカである。もちろんヨーロッパやイスラエル、中国や韓国の企業などへの投資も行ってはいるが、主力はアメリカだ。ゆえに日本に関しては大きな関心を示していないし、長く日本株は買わないと言われ続けてきた。
日本と縁がなかったわけではない。バフェットが大株主だったワシントン・ポストの社主キャサリン・グラハムに誘われ、ソニー創業者である盛田昭夫夫妻と食事を共にしたこともある。しかし、その際、バフェットは盛田夫妻が用意した日本食15品を一口も食べることができなかった。
ステーキなら血の滴るようなものが好きだが、生の魚がまったく食べられなかったのだ。
グラハムと盛田夫妻に無礼な振る舞いをしてしまったことは後悔したが、日本食に関しては「最悪だった。もう二度と日本料理は食べない」と固く決意している。バフェットにとっては日本料理も「能力の輪」の外にあったわけだが、1979年に発売され、世界的大ヒット製品となった「ウォークマン」をつくり上げたソニーなどへの関心は持ち続けていたようだ。
1998年に行われた「日経ビジネス」によるインタビューでは「ソニー株に興味はあるが、割高」と購入を見送る姿勢を示している。
日本株よりも韓国株や中国株への関心が高かったというのも事実だが、そんなバフェットが福島県いわき市の工具メーカー・タンガロイの新工場完成式典に出席するために初来日したのは2011年11月だったというのは驚きだ。
同年3月、日本では東日本大震災が起きており、原発事故の影響もあって、多くの外国人が日本を離れ、来日をためらうなか、バフェットはあえて日本を訪問している。
その少し前にはテスラモーターズとスペースXを率いるイーロン・マスクも来日、福島を訪れて太陽光発電の設備を寄贈しているが、こうした勇気ある行動は日本人を励ますものとなった。
当時の日本企業を取り巻く環境はとても厳しいもの(※)だった。輸出産業にとって急速に進む円高ドル安に加え、ユーロ安も加わったことで、かつては頼みとした欧米市場は利益の出にくい市場と化していた。韓国企業や中国企業、台湾企業の躍進も著しく、かつて日本が得意とした半導体や電気製品などの分野でも苦しい戦いを強いられていた時期である。
少子高齢化によって進む国内市場の縮小と、厳しい輸出環境に、さらなるダメージを与えたのが東日本大震災だった。これだけ悪条件が重なれば、日本企業の将来に悲観的にならざるを得ないところだが、初来日したバフェットは投資先の企業の設備の見事さや、社員の優秀さを賞賛したうえで、「日本人や日本の産業に対する私の見方は変わっていません」として、こういい切っている。
「私たちは、日本で大きな会社を買収したいと本当に思っています。もし日本の大企業から明日電話をもらって、バークシャーに買収してほしいという申し入れがあれば、飛行機に乗ってすぐ駆けつけますよ」
※2011年当時のドル円相場は1ドル80円前後、10月には史上最安値となる75円台を記録した。
コロナ禍で日本の5大商社への投資を決めたが、2カ月後にすべて値下がり…
2020年8月、バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが伊藤忠商事、三菱商事、三井物産、住友商事、丸紅の5大総合商社の株式取得を発表したことが大きなニュースになった。
金額にして約60億ドルの投資である。バフェットにとっては、日本への投資としては過去最大級のものだった。だが、取得後の9〜10月の2カ月で、5社すべての株価が値下がりしたことで、商社への投資に対し疑問の声が聞かれるようにもなった。
投資した企業の一時的な株価はバフェットにとってはどちらでもよいことだが、バフェットが日本の商社に投資した理由はいくつか考えられる。
ひとつは世界的なコロナ禍によって商品需要が損なわれたうえ、有り余ったお金がバリュー株よりもグロース株へと向かう動きが顕著だったことだ。この年、アメリカの株式市場は出足こそ好調だったものの、世界的なコロナの感染拡大によって、景気の影響を受ける「エネルギー」や「金融」が出遅れる一方、「情報関連」などは大幅に上昇するという二極化が顕著だった。「バリューよりグロース」というスタイルが影響したのか、日本の商社株は利益(2019年3月期には三菱、三井、伊藤忠、丸紅、住友が過去最高益を計上)を上げていても、株式市場では取り残された存在となっていた。
しかし、その後ワクチンの開発などで少しずつ落ち着きを取り戻していた世界で、長期的な視点で見れば、忘れられていた分野の割安株が再評価されるようになるという期待から、バフェットは投資に踏み切ったのではないかとみられている。
それ以外にも日本の商社は長い歴史を持っているうえ、その株主には大手企業が名を連ねており、バリュー投資における「安全域」という視点から見ても、よほどのことがない限り倒産する恐れもなく、仮に経営難に陥ったとしても三菱や三井、住友といったグループ企業が救いの手を差し伸べる、合併などの救済策も期待できる。その意味ではバフェットにとって安心して投資できる企業といえる。
さらに「配当利回り」も高く、急激な成長はともかく、長期にわたる継続的な成長が期待できることもバフェットにとっては好ましい企業である。
倒産リスクが低い日本商社。保有額上位15銘柄に入った伊藤忠商事
バフェットの期待通り2020年11月以降、5社の株価はいずれも上昇に転じた。さらにバフェットは、5%の持ち株比率を10%近くに高める可能性もあると認めたうえで「将来、お互いに利点があることをしたい」とも話していた。日本の将来性に対して疑問を口にする大物投資家もいるなかで、バフェット自身は日本の商社の可能性を感じていたのだろう。
2021年2月、バフェットはバークシャー恒例の「株主への手紙」を公開しているが、それによると同社の上場株の保有額上位15銘柄には、日本企業として初めて伊藤忠商事が入ることになった。
保有額は23億ドルで、保有比率は伊藤忠の株式の約5%だったが、バフェットは同社に関しては約5億ドルの含み益があると明かしていた。
投資判明から約1年半が経過した2022年2月現在、バークシャー・ハサウェイは伊藤忠の発行済み株式の5.02%、三菱商事の5.04%、三井物産の5.26%、住友商事の5.04%、丸紅の5.05%を保有。業績も好調で株価も上昇、年間配当予想を積み増す企業もあっただけに、バフェットにとって初めての本格的な日本への投資は実を結んだと言えるのではないだろうか。
2022年に入り、ロシアのウクライナへの侵攻により、今後の業績はやや見通しづらくなっているものの、長期的視点を何より重んじるバフェットにとっては、さほど問題にならないだろう。
また上位銘柄を見れば、それまでのアメリカ株偏重から少しずつ脱しつつあるようにも見える。今後、日本企業への投資が増えるかどうかはわからないが、円安が急速に進むなど明るい話題の少ない日本市場にとって、バフェットが日本企業に投資してくれているという事実は「日本はまだ大丈夫」という希望につながっているのはたしかである。