資産5億男の「損切り上手」になれる心のコントロール方法…どんな暴落でも焦らない!
「株式投資は、非常に行動経済学の要素が強い、いわば心理ゲーム」と語るのは、脳科学とヒトの行動心理に基づく研究をしてきた投資系YouTuberの上岡正明さん。不確実なマーケットで、恐怖や過信、迷い、欲望が生まれた時、勝つための心理状態を保つ “株メンタル” を手に入れたことで資産5億円超えを達成できたそう。株式投資の勝者と敗者を分ける”メンタル”の決定的な違いとは――。(第3回/全4回)
※本記事は、上岡正明著『株メンタル: トップ3%投資家の最強ソリューション』(東洋経済新報社)より抜粋・再編集したものです。
第1回:どん底「豆腐メンタル」な私が強い心を手に入れて、資産5億以上稼ぐまで
第2回:株セミナーにくる一流投資家と三流投資家の違い…残念すぎる勘違いとは
第4回:なぜ10代で投資を始めた天才バフェットが60代でやっと資産を爆上げできたのか
感情豊かな人は投資に向かない?! 投資家の心理を熟知することが勝ち組投資家への近道
【問題】2つの封筒にそれぞれ3万円のお金が入っています。たまには贅沢したい――、そう考えたあなたは、どちらを先に使いますか?
- A 母親がコツコツ働いて苦労して貯めた仕送りの3万円
- B たまたま日曜日にパチンコで儲かった3万円
いきなりの問題に、戸惑ったかもしれませんが、あなたはどちらを選択したでしょうか。普通に考えると、ほとんどの人がBを選択するでしょうか。私もおそらく、Bの封筒を最初に使ってしまいます。
しかし、どちらも同じ3万円であり、お金の価値は変わりません。手書きの便せんなどには愛情がブレンドされているかもしれませんが、中身を入れ替えても気づくことができません。見た目の価値を超越して、お金から私たちが感じることはないのです。
同じ価値のお金だから、別にどちらを先に使っても結果は同じです。
でも、そう思えない。封筒に、故郷の母を重ねてしまう。つまり、この質問でBを選んだ場合、あなたは心理的な感情によって合理的ではない、不合理な意思決定を強いられている、と見ることができるわけです。
行動経済学は、いわゆる人間の本能的な行動そのものをモデルとして考えられています。99%の人間はそういう考え方や行動をするだろう、を基本にしているわけです。
その結果、行動経済学では「人間は必ずしも合理的でない」と結論づけています。心理的な影響によって、頻繁に不合理な意思決定を選んでいる、としているわけです。
投資というのは、お金が関わることです。
お金に関することは、人は感情で判断してしまいがちです。
勘定で判断しなければならないのに、感情で判断してしまうため、不合理な結果になりがちなのです。
株式投資というのは、非常に行動経済学の要素が強い、いわば心理ゲームです。
だから、普通の人が自分の心の赴くままに投資をすると、なかなかうまくいかないわけです。それはある意味、自然の摂理なのかもしれません。人間だから陥りがちな、ミスやパターンがあります。それを熟知して行動心理と照らし合わせて投資に役立てていくからこそ、勝ち続けることができるのです。
じゃあ、具体的に、どんなミスやパターンがあるのか、行動経済学や行動ファイナンスをどう投資に活かせばいいのか、それを今から話していきます。
投資で勝てない理由がよくわかる「プロスペクト理論」
プロスペクト理論――投資家なら一度は聞いたことがあるかもしれません。
この理論は比較的新しい心理学研究であり、2002年にノーベル経済学賞を受けたダニエル・カーネマンの論文によって世界に広まりました。内容はというと、不確実な状況で、人はどのような意思決定を行うのだろうか、ということを研究しています。
この不確実な状況というのは、まさに投資の世界と同じですね。だから、このプロスペクト理論を知れば、あなたが投資で勝ち続けるための心理的なメカニズムを理解できるきっかけになるのです。
まず、2つ問題を出させてください。どちらも2択となっています。深く考えないで、直観で答えてください。
【問1】次の2つの選択肢から1つを選んでください。
- A 無条件で100万円もらえる
- B コインを投げて表が出れば200万円もらえる
さて、あなたはどちらを選びましたか。
ちなみに、どちらももらえる金額の期待値は同じで100万円となります。ただ、ほとんどの人は確実に利益を得られるAを選んでしまいます。つまり、人は利益を得られる場面では、確実性を選ぶ傾向が強いわけです。
続いて、次の質問はどうでしょうか。
【問2】あなたは返済期日の迫った200万円の借金を背負っているとします。次の2つの選択肢から1つを選んでください。
- A 無条件で100万円もらえる
- B コインを投げて表が出れば借金全額がチャラになる
この設問の期待値も問1と同じです。しかしながら、こちらは前提条件として、あなたが「期日が迫った200万円の借金を背負っている」としました。その前提で考えてみてください。
さて、あなたはどちらを選ぶでしょうか。
実はこの問題ですが、結果の違いにおいて面白いことがわかっています。問1でAを選んだ人でも、今回のケースではなんとBを選ぶ人が多いのです。
冷静に考えればどちらの設問でも、AとBの選択肢の期待値は100万円と条件は同じです。
問1の回答の傾向をデータから見れば、堅実に借金を減らせるAを選択肢として選ぶ、そう思いがちです。しかし、人の行動には違いが出てしまいます。
条件や状況の変化がメンタルに大きく影響を及ぼし、あえてギャンブル性の高い選択肢を選ぶ人が多くなるのです。
大きな利益、損失を前にヒトは冷静な判断ができなくなる
この2つの問題から導き出される結論はなんでしょうか。
それは、人というのは常に合理的な決断をするように見えて、状況や条件によって、損得勘定の考え方に大きな違いがあるということです。
利益を得られている局面では、「さらなる利益を逃すまい」というリスク回避の行動心理が強く作用します。
一方で、すでに大きく損失を被っている局面では、「リスクを負ってでも今の損失をゼロにしたい」という強迫観念や焦燥感などの損得勘定が、強く行動心理に働いてしまうわけです。
これを、行動経済学で「損失回避性バイアス」と呼びます。
損失回避性バイアスは、行動ファイナンスの中で最も有名な理論の1つです。人は損をすることを異常に嫌う、という心理を説明したものです。
損することが好きな人など、この世の中にはほとんどいません。その結果、利益が出ている局面では確実に利益を積み上げていくことを好み、損失が出ている局面ではロスカットを遠ざけたり、逆にナンピンなど大きな賭けに出ようとする傾向が強くなります。
たとえば、順調なうちは堅実に小さく投資をして、着実に利益を積み上げていたとします。しかし、一度大きく損をしてしまうと、その損失を取り戻そうと、普段慎重な人でも信じられないような大胆な行動で一か八かの賭けに出やすくなります。
損失回避性バイアスは、損をすることを回避しようとする人間の心理が、かえって不合理な行動を招いてしまうことを説いています。
同じ金額でも、利益より損失のほうが大きく感じる
次のグラフは「価値関数」と言われるものです。難しい心理学の単語を覚える必要はありません。考え方を図で理解してください。
このグラフでは縦軸で心理的価値を、つまり上に行くほどに「うれしい」「楽しい」という満足の感情を表しています。一方、下に行くほどに「悲しい」「つらい」という不満の感情を表します。
続いて、横軸では「利益」と「損失」の関係を示しています。右に行けば行くほど利益が大きくなり、左に行けば行くほど損失が大きくなります。このグラフを見てわかることは、利益を得たときはゆっくりと心理的価値が上がり、損失を被ったときは即座に心理的価値が下がるということです。
つまり、同じ金額の損得でも受け手の被る心理的価値の大きさが違うわけです。この感じ方の違いが働くことによって、自分のお金を運用する個人投資家は、小さく勝っているときは「うれしい」「楽しい」を確実に獲得しようと、大きく負けると「悲しい」「つらい」を解消しようとする行動を繰り返してしまうわけです。
先程の問で、コインの表が出れば借金が全額返済できるBを選んでしまうのは、こうした人の感情の違いによるものだったのです。
イラスト:ひえじまゆりこ