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なぜ反ワクチン陰謀者はプーチンを擁護するのか…政府高官が噴飯した「東京ロックダウン」のフェイクニュース

 ウクライナ侵攻を巡っては、ロシアとウクライナ双方が情報戦を繰り広げている。中には、紛れもない「フェイクニュース」も存在する。いま世界ではどのようなフェイクニュースが飛び交っているのか。フェイクニュースが日本に及ぼす影響とは――。「デジタル」と「メディア」の関係を紐解く全5回のうちの2回目。

※本稿は、小倉健一『週刊誌がなくなる日 「紙」が消える時代のダマされない情報術』(ワニブックスPLUS新書)の一部を再編集したものです

第1回『自業自得…秋篠宮・小室圭問題の「いい加減報道」で言論規制が一気に加速したネットメディアの末路

第3回『週刊誌はあと5年で消滅する…限界に到達した無料メディア、新聞電子版にマスコミから悲鳴が聞こえる

第4回『42歳劇団員のヤフコメ民「私が炎上させる理由」…秋篠宮・小室家を匿名でタコ殴りする暴力ビジネス

第5回『回りまわって「新聞回帰」に困惑するメディア業界…バカ丸出しの新聞記者が知らないベタ記事の価値

フェイクニュースが戦争の口実に

 紙の時代での情報の伝播には自ずと限界があった。紙の印刷物を届けられる範囲でしか、情報が拡散しなかったからだ。しかし、オンラインは違う。人類の数ほどに達したスマホやPCを通して、SNSが中心になって効率よく瞬時に情報が伝播していく。それが事実かフェイクなのかが見極められないケースも多い。そして、そんな特性を利用する権力者たちもいる。

 その最たる例が、ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部でウクライナ政府軍による「ジェノサイド(集団殺害)」が起きていると主張したことだろう。ロシアのタス通信は、ロシアがウクライナへ侵攻する前の2022年2月21日、ロシア領内に侵入したウクライナ軍車両をロシア軍が破壊したと伝えた。

 しかし、イギリスの調査報道機関ベリングキャットはSNSで拡散した映像に映っているウクライナ軍のものと指摘された車両を、ウクライナ軍が運用していない装甲兵員輸送車「BTR70M」であると分析した。

 「ジェノサイド」や「ウクライナ軍によるロシア領内への侵入・攻撃」というフェイクニュースが、今回の侵攻の口実に使われていたのだ。ウクライナでもフェイクと思しきニュースが流れており、両国によるフェイクニュースの情報戦が盛んだ。

 ウクライナ侵攻をめぐる情報戦に限らず、相反する情報の中から、何が「真実」で、何が「フェイクニュース」なのかを見極めるのは容易ではない。下手をすれば、知らないうちに「陰謀論」に巻き込まれてしまうこともある。 

 新型コロナウイルスに関しても、ロシアは驚くべき手に打って出た。西側諸国に「新型コロナウイルスのワクチンは効かない」というフェイクニュースを流し、逆に、ロシアでは「ワクチンは効く」というニュースを流したのだ。

 米マイクロソフト社長のブラッド・スミス氏は「ウクライナを守る。サイバー戦争の初期の教訓」(2022年6月2日発表)と題したレポートの中で、次のように分析している。

 「ロシアのサイバー活動は、ウクライナ戦争開戦後にロシアのプロパガンダの拡散をウクライナで216%、米国で82%増加させることに成功したと推定できます。

 このようなロシアの活動は、複数の西側諸国で、新型コロナウイルスの〈偽のシナリオ〉を広めるために実施された巧妙な活動を基盤にしています。

 この6カ月間では、ニュージーランドとカナダで、ロシアのサイバー活動が、新型コロナウイルス政策に対する国民の反対を煽りました」

 日本においても過激な反ワクチン論勢力と、ロシアは悪くないとする勢力が重なっているという指摘があった。例えば、産経新聞「過激な反ワクチン、ロシア擁護『陰謀論』なぜはまる」(2022年4月21日)などだ。

フェイクニュースをつくるのは誰か

 これほどまでに「フェイクニュース」という言葉が私たちの日常に広まったのは、米国のドナルド・トランプ前大統領のおかげともいえる。トランプ氏が大統領に就任する前後は、米国の世論に主要メディアが偏向的な報道を流しているとの不満が高まっていた。トランプ氏は主要メディアに対して、ツイッターを使って「フェイクニュースだ!」と攻撃を続け、喝采を浴びた。

 その後、大統領に就任すると、自分が気に食わない記事に「フェイクニュース」のレッテルを貼ることが増え、ジョー・バイデン氏との大統領選に敗北した時には「選挙で不正が行われた」というフェイクニュースをツイッターに投稿。さらには支持者を扇動したとして、ツイッターを「永久追放」されてしまった。

 言論の自由は、最大限に認められるべきなのだ。しかし、プーチン氏やトランプ氏のようなケースについては、受け取る側が「フェイク」を見抜く力をつけていかねばならないだろう。フェイクニュースをつくるのは、決して権力者側だけではないことにも注意した方がいい。

 誰もが騙される当事者であると同時に、騙す当事者でもあるのだ。世論工作は、政党、メディアだけでなく、一般市民が自ら信じる組織のために実行しているケースも多い。

 中には、まったく関係のない第三者が利益を得るためだけに行うこともある。

 NHKが2018年に取材した、マケドニアの「ヴェレス」という人口4万人の村がある。取材をしたNHK佐野広記ディレクターによれば、住民の月収が5万円程度と決して豊かとは言えないこの街では市民がこぞって英文のフェイクニュースを作成し、PVを稼ぐことで収益を得ているのだという。

 「耳にピアスして『渋谷で遊んでいます』みたいな感じの大学生が、取材に応じてくれました。『米国人はバカだ』『オレたちはあるわけがない嘘を書いているのに、奴らは本気にして読むんですよ』『すごくたくさん読まれてボロ儲け。けっこう楽なんだ』と軽いノリで小遣い稼ぎをしている。ヴェレスでフェイクニュースをつくっているのは200~300人とのことでした」

 例えば、トランプ氏が「メキシコとの国境に壁を造る」というニュース記事は、文章の大半はそのまま使いつつ、一部を「ネバダに収容所を造ると言っている」などとセンセーショナルに書き換えてしまう。普通のニュースサイトのような文章に仕立てあげ、作成した記事を自分のウェブサイトに掲載、そこに広告配信サービスを埋め込む。読者が広告を見たり、クリックしたりすれば、広告料が入るという仕組みだ。

 やはり、特定の情報の真偽を議論すること以上に、情報分析には情報の利用目的やタイミングの観点から背景を読み解くことが求められる。フェイクニュースも含めた世論工作が氾濫する現代社会において、情報を読み解くスキルを持つことは欠かすことができないものとなるだろう。

東京がロックダウン? 情報戦でも負ける日本

 日本でもフェイクニュースは広がりを見せている。たとえば、新型コロナウイルス感染拡大が深刻なものとなりつつあった2020年3月下旬、権力中枢にある首相官邸で足を止めたある政府高官は、友人から送られてきたLINEのメッセージを見ながら笑いをこらえられなくなった。

 スマホ上に映し出されたのは「4月1日、東京がロックダウン(都市封鎖)される」。重要政策のほとんどにアクセスする政府高官が知らないまま超法規的措置が飛び出すことなどあり得ない。念のためスタッフに確認したところ、すぐに偽情報であることが判明した。

 驚いたのは、まもなくして複数の別の知人からも似たような情報が寄せられてきたことだった。その発信元の情報源としては「内閣情報調査室の知人」「友人のテレビ局関係者」などから聞いた、というもので、ロックダウンの偽情報はSNS上で次々と拡散されていった。

 「意図的でなく、悪意がなくても偽情報を、『善意』で拡散する人は多い。間違っていることが判明しても訂正されることはなく、あたかも『真実だった』かのようにネット上には残り続ける。その威力はハンパではない」

 総務省の調査によると、新型コロナに関するフェイクニュース・デマの接触は4人中3人が経験しており、後に間違った情報や誤解を招く情報であると気づいた理由は、「あとからテレビ放送局の報道で知った」が33.2%だった。「あとからファクトチェック(事実確認)結果を見て知った」は3.2%にすぎない。情報が怪しいと思った場合の情報の真偽確認の経験については「真偽を調べない方が多かった」が49.1%に上っている。

 ある外務省幹部は、進まない日本の対策に不満を漏らす。

 「名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害というのは欧米では重いが、日本は軽視されている。それと同様にフェイクニュースへの危機感も薄い。ロシアによるウクライナ侵攻を見ても、有事に飛び交う偽情報への対策は急務だ。日本はデジタル時代にふさわしい体制をとらなければ、情報戦で負け続ける」

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この記事の著者
小倉健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長就任(2020年1月)。2021年7月に独立。現在に至る。 Twitter :@ogurapunk、CONTACT : https://k-ogura.jp/contact

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