第十九話「運命の呪い」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第十九話「運命の呪い」
李麗穎は、幼い頃から中国共産党の「影」を感じていた。中国の最高指導者の親戚として、彼女の人生は常に監視下にあった。日本への留学も厳重なセキュリティの下で行われていたが、麗穎はそれを秘密にしていた。
短くも濃すぎる北京の滞在を終えた今泉謙太郎は、日本に帰国すると大阪・梅田の実家で激しい動揺に襲われていた。「どういうこと? 好きな女性が中国の『新皇帝』の親戚って言うのは何かマズいことがあるのかな・・・」。いくら思案に耽ってみても答えが見つからない。
阪神タイガースの野球中継に夢中な母親との夕食を済ませ、中学生時代から使う自分の部屋に入った謙太郎は、思い切って麗穎にショートメッセージを送った。「今でも麗穎のことが好きだ。もし、可能ならば日本でもう1度会いたい」。短い中にも思いを込めたつもりだった。5分とかからず、スマホがメッセージの受信を告げる。「明日、京都にいきます」。麗穎から届いた意味深長のメールだった。
翌日、いつものようにキャンパスに向かうと正門に長身で黒髪をなびかせる1人の女性が立っていた。300メートル先からでもわかる。紛れもなく、麗穎だった。麗穎は泣いていた。自分の血統が障壁になるなんて・・・。彼女は自分の運命を呪っているかのようにひたすら悲しみ続けた。中国の権力は個人を超えた重荷である、と。
謙太郎は、かつてランチを共にした桜の木の下で麗穎の手を握りしめた。中国の「お偉いさん」の親戚と日本の一般家庭で育った大学生。国境を超え、まったく境遇が違う者同士の愛は許されるのか。それとも、やはり別の道を歩むしかないのか。2人は静かに、冷静に話し合った。
そして、辺りが暗くなりかけた頃にようやく1つの答えが出た。「僕と麗穎は、たしかに生まれや育ちが違うかもしれない。けど、本当の愛ならそんなものは乗り越えられるはずだ。そうだよね?」。麗穎は涙を拭い、少し微笑んだ。「信じてくれる?」。麗穎の返事に迷いはなかった。2人はあらゆる違いを乗り越え、普通の大学生同士の恋人として共に道を歩むことに決めた。ただ、お互いを支え合うためだけに。