イラン戦争は終結していないのに、なぜこんなにも株価は高いのか……鈴木一人氏「イラン戦争はまだ続く」
イラン戦争終結への期待が、株価を押し上げている。ただし東京大学大学院教授/地経学研究所長の鈴木一人氏は、「イラン戦争はまだ継続する可能性が高い」と話す。なぜまだイラン戦争は終わらないのか、そしてなぜ不透明な状況でも株価が上がるのかについて、鈴木氏が解説する。
みんかぶプレミアム連載「鈴木一人 地政学×経済安全保障=地経学」
目次
高い株価は市場の願望を反映しただけ
イラン戦争の停戦交渉が難航しています。ただ、もともと2回目の停戦交渉の話が出てきたときも、「これで戦争が終わる」との考えはあまりにも楽観的すぎると唱えていました。
しかし現在の株価は、日経平均株価が終値ベースで過去最高値を記録するなど、株式市場がかなり楽観的に見ていることがわかります。
これほど状況は不透明なのに、なぜ株価が高くなっているのか。その要因の一つはアルゴリズム取引です。トランプ大統領の強気な発言をコンピューターが「好材料」と判断して自動で株を買うことで、株価が押し上げられるのです。
そしてもう一つの要因は、市場参加者の「この戦争を早く終わらせてほしい」という願望が株価に反映されてしまっているということです。
経済学者のケインズは、玄人の行う投資は、「100枚の女性の写真の中から『最も美しい女性』が写った6枚を選び、その選択が実際の投票結果に近い者に賞品が与えられる新聞投票」に見立てることができると述べました。
これは、 投資においては「最も本質的な企業価値が高い企業(=最も美しい女性)」ではなく、「市場参加者が最も値上がりするだろうと考える企業(=投票者が『最も美しい』と判断するであろう女性)」を選ぶことが重要だと述べたものです。
つまり、いまの高い株価は一部のマーケットリーダーの楽観的な動きが大きく影響し、結果的に全体が楽観的な方向に向かっているものだとみています。
世界的に、イラン戦争は過小評価されていると感じます。アメリカ側も「アメリカこそが最強だ。自分たちの行動が戦争の行方を決定する」と思っている節があります。「イランがアメリカに対して対抗できるわけもないし、どこかで音を上げるはずだ」と見ているのです。
イスラエルに対しても、「トランプが言えば、イスラエルも言うことを聞くだろう」といった楽観を持っています。しかし、現実には、この戦争はイスラエルが主導しています。トランプが停戦交渉したとしても、おそらくネタニヤフは交渉を潰しにかかってくるはずです。
逆封鎖では大した効果を得られない
トランプは、「ホルムズ海峡の逆封鎖」を宣言しました。とはいえ、完全に封鎖し続けることは現実的ではありません。トランプの目的は「とにかくイランの収入を断つ」ことにあると考えられます。
トランプは“封鎖”を突破しようとしたイラン船籍の船を「引き返させることに成功した」と喧伝しています。どうやらこれを「成果」としたいようです。本当はこの状況下でもホルムズ海峡を通過しているイランの船もあるのですが、そのことについては言及していません。
この逆封鎖も、大した効果はないだろうとみています。というのも、アメリカのイランへの制裁というのは、2018年から続いています。経済制裁は、0が1になることはすごく衝撃が大きいのですが、80が85になったところで、もはやそこまで大きな衝撃にはなりません。
イランの経済状況は極めて悪化していますが、その状況がすでに国内で織り込まれています。たとえこれ以上経済状況が悪くなったとしても、戦争を継続することが可能な体制がすでに構築されているのです。
また、中東域内には、表沙汰にならないネットワークが存在します。イラン側としては、ホルムズ海峡が利用できなくなったとしても、いくつもの代替ルートがあるのです。特にカスピ海を通じたロシアとの貿易が続いていることは重要なポイントです。
さらに言えば、アメリカの逆封鎖の目的として、兵器の材料となる物資の輸入を止めることで、兵器の生産能力を低下させることも挙げられますが、これも即効性はありません。
兵器の材料の流通を止めたところで、そもそも材料を受け取ってから兵器ができるまでには数ヶ月程度の時間がかかります。ですから、逆封鎖の効果が現れるとしても数ヶ月後の話。イランがいま、しばらく攻撃を続けられるだけのミサイルやドローンを有していることには変わりないのです。
つまり、逆封鎖したからといって、イランの行動が大きく変わることは期待できません。そう考えると、この戦争は今後も続いていく可能性が高いとみています。