第十四話「電磁波の『応用』」連載小説「奪われるースパイ天国・日本の敗戦ー」
スパイ防止法がないこの“天国”・日本で、知らない間に国が「奪われる」──。
表向きの歴史やニュースの裏側に潜む、冷酷な国際諜報戦と、個人の運命が国家間の巨大な陰謀に巻き込まれていく壮大な安全保障サスペンス小説、ここに爆誕。
舞台は、女性初の内閣総理大臣・高地きみえが熱狂的な支持を背景に「強い日本」を目指す日本。彼女は長年の懸案である日本人拉致被害者の奪還を決意し、極秘裏に北朝鮮の金正恩総書記との会談に臨む。しかし、その外交交渉の裏側では、すでに北朝鮮の体制に「影」が差し込み、巨大な隣国・中国の思惑が絡み合っていた。
第十四話「電磁波の『応用』」
壁のモニターに別のウィンドウが開き、世界地図が表示された。赤い点が日本列島を取り囲むように点滅している。「中国や北朝鮮はいろいろとシミュレーションしている。近い将来、彼らは動き出すと私たちは踏んでいる。その時、あなたたちのような優秀な頭脳から得られたデータが必要だったということだろう」。東京・霞が関の一角にある法務省で、ガッチリした体に口ひげを備えた男は淡々とした表情で説明を続けた。
公安調査庁の水上源太郎が言うには、彼はNSS(国家安全保障局)で局長を務める市原啓太という偉い人物らしい。「我々が調査したところでは、死亡したパクの本名は『崔善姫(チェ・ソンヒ)』だ。北朝鮮の工作員として日本に潜伏し、日本人の『協力者』を探していたと思われる。企業や大学、省庁、政治家などに接触していたようだ」と話した。そして、「なぜチェが殺されたのかはわかるだろう。任務を達成し、口封じをされたのだ」と続けている。スパイ映画では見たことがあるようなシーンだが、目の前で起きるとまったく迫力が違った。
市原が合図すると、黒いスーツを着た男たちが会議室に一気に入ってきて、浩一に前へ出るように促した。「山田浩一さん、あなた一体なにを流していたんだ?」。市原の大きな声が室内に響く。「ご存じの通り、日本にはスパイ防止法がない。中国であれ、ロシアであれ、北朝鮮であれ、やりたい放題しているのが現状だ。警察や公安調査庁、外務省、防衛省は法律の枠内でしか何もできない」。浩一が何を言いたいのかわからないという顔で市原を見つめる。
「最近のチェの動きがわかるように、街中にある監視カメラによる追跡を行った。その結果、山田さんは少なくとも2度にわたってチェと会っていることがわかった。しかも、2回目はなぜか港区立図書館の非常階段付近で、だ。ここで、あなたはチェと何をしていた?」。浩一は自らにかけられている嫌疑を打ち消そうと、必死に説明した。「実は、私が働くGTL社の研究所でデータ異常が見つかりました。それと・・・何人かの同僚が突然いなくなる出来事がありました。だから、研究所で何が起きているのか調査しようということになり・・・」。浩一が時系列でわかりやすく整理しながら続ける。
「ある日の夜、パブで友人と飲んでいる時に『パク』と名乗る女性から話しかけられました。彼女はGTL社の同僚であるといい、私と同じように研究所での出来事に不安を抱いていると言っていました。だから、私は彼女と一緒に調査しようと思って」。こう説明した時には、浩一も自分の“失敗”に気づいていた。