国際政治アナリスト「高市首相のマネジメントスタイルは画期的だ」なぜなのか…派閥や対外的な影響を最小限にする文書によるマネジメント

 女性初の首相であることや、発足時からの人気が高いことなど、さまざまな面で注目を集めてきた高市首相だが、「最も注目すべきは、歴代首相と違うそのマネジメントスタイルです」と述べるのは国際政治アナリストの渡瀬裕哉氏だ。なぜなのか。同氏が解説するーー。

 みんかぶプレミアム連載「渡瀬裕哉の常識革命」

目次

「高市型マネジメント」は日本型マネジメントと明確に異なる

 行政組織や大企業の会議室で、こんな光景を見たことはないだろうか。  

「誰が決めたのか分からない方針」「責任の所在が曖昧なまま進むプロジェクト」「派閥間の駆け引きで遅れる意思決定」「〇〇と〇〇の人間関係云々というノイズ」。

 日本の組織が抱える慢性的な課題は、もはや“文化”と呼ばれるほど根深い。そして、大企業病の極致である政府与党、つまり日本の国家運営にも同じことが言える。

 しかし、高市首相のマネジメントスタイルは、この状況を変える可能性を秘めている。

 トップの意図を文書化し、ノイズを排除し、派閥の影響を制度的に抑え、組織をフラットに保つ、高市型マネジメントは従来の日本的組織文化とは一線を画す異質な存在だ。

 本稿では、このモデルを経営理論の観点から読み解き、その実効性と政治的意義を考えてみたい。

高市首相が画期的だったのは、業務方針を文書化したこと

 まずは「文書化」だ。高市首相は内閣発足早々に各大臣に対して、その業務方針に対して「指示書」を発出した。これは極めて当たり前の行為ではあるものの、およそ組織経営の感覚が欠落してきた政治・行政の世界では画期的な出来事であった。 日本の組織にありがちな「口頭の意向」「空気読み」「忖度」を排し、トップの意図を“文書”という形で固定した意味は大きい。経営学の視点から見ると、エージェンシー理論が指摘する情報の非対称性の解消といった複数の理論と整合する賢い行為だ。

 行政組織のように巨大で多層的な構造では、トップの意図が文書として固定されるだけで、組織の動きは劇的に変わる。「誰が何をするのか」が明確になれば、組織は自然と前に進むことになる。首相による大臣の評価は指示書に示された内容を履行できているか否かに集約されることになるからだ。

 また、この指示書方式は、トップの意図を文書化し、責任と権限を明確にすることで、派閥が介入する余地を構造的に縮減するものだ。日本的組織では、非公式ネットワークや派閥が意思決定に影響を及ぼすことが多く、これが組織の合理性を損なう要因となってきた。

 高市首相は食事会が苦手だとされている。しかし、その意味するところは、派閥の領袖との腹の探り合いのような直接的に行政の長としての業務と関係がないことに価値が見出せないということだろう。高市首相が望んでいることは、既に明文化されており、それ以外のことは些末なことに過ぎないからだ。まさに合理性のかたまりのようなリーダーである。

もう一つの経営の柱が「ノイズ排除」。派閥の影響力を低下させ、外部からの干渉を最小限にする

 もう一つの経営の柱が「ノイズ排除」だ。たとえば、首相が官僚に対して口頭での曖昧な内容でのやり取りではなく、文書での連絡を好む理由はノイズの排除を重視しているからであろう。

 ここでいうノイズとは、憶測的報道、派閥的利害、組織内部のムード、匿名情報など、意思決定に不要な要素の総称だ。行動経済学者ダニエル・カーネマンらは、意思決定のばらつきを生む最大の要因は「ノイズ」であると指摘している。高市型マネジメントは、このノイズを排除することで、意思決定の純度を高めている。情報処理能力には限界がある以上、不要な情報を削ぎ落とすことは合理的だ。

 ノイズには根も葉もない噂話の類も含まれる。たとえば、某雑誌にリークされたホルムズ海峡への自衛隊艦艇の覇権を巡る問題で、今井内閣参与が高市首相を恫喝したとされる類のものだ。自衛隊艦艇の派遣はNSC、外務省、防衛省などとの公式な調整の上で決定されることだ。そのため、ノイズ排除を徹底する高市政権では、記事にリークされたように、内閣参与が直接権限がない内容について首相を恫喝することなどあり得ないし、ましてそれで首相が辞意をもらすはずもない。つまり、そのようなノイズを本来は存在しなかったものと瞬時に判断できる。そのため、ガセの類で炎上させようとしても直ぐに相手にされなくなる。(実際、高市首相本人、そして今井参与もその事実を否定した。)

 大臣に対する指示書を発出し、派閥の影響力を低下させ、ノイズを排除するスタイルは、外交安全保障上も極めて重要だ。外部からの干渉を最小限にすることによって、首相の意思決定が他国の影響下に置かれることを防止することができる。高市首相のマネジメントスタイルは非常に画期的だと言える。

「高市首相はコミュニケーション能力不足」と揶揄する人たちが的外れである理由

 このような高市型マネジメントが導入されると、組織文化は大きく変わる。目的志向が強まり、責任の所在が明確となり、情報の純度が高まる。それによって空気読みが意味をなさなくなり、速やかな執行が求められる経営体制に移行する。

 現在、高市首相のマネジメントスタイルについて、既存のマスメディアがコミュニケーション能力不足であるかのように揶揄する論調が増えている。

 これは日本の政治や行政のような人間関係中心の古い体質のマネジメントスタイルの人々が、高石首相の新しい業務執行中心の経営スタイルに変わったことに付いていけないだけの話だ。彼らには日本の政治・行政の曖昧な権力関係や経営状況の在り方が見直され、通常の組織運営体制に変わっていくことが理解できないのだろう。

 高市首相が述べた「働いて、働いて、働いてまいります」という言葉は、まさにその通りであり、高市首相は有権者から負託を受けて、そのための仕事を淡々とこなしているに過ぎない。政治家や役人の自己の虚栄心を満たすだけのプロセスが不要だったと暴露され、関係各人が何をやるかが問われるようになったのだ。何もやらない人間には居場所がないのだ。

 日本型組織が抱える慢性的な課題を克服するための一つの答えとして、高市型マネジメントの今後の展開を注目して見守っていきたい。

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この記事の著者
渡瀬 裕哉

1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 早稲田大学公共政策研究所招聘研究員、事業創造大学院大学国際公共政策研究所上席研究員。機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。2016年トランプ大統領当選、2020年民主党による大統領・連邦上下両院勝利を正確に予測し、米国政治に関する分析力に定評がある。『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 』(すばる舎)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)

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