タワマン購入前に知っておきたい豊洲という街の2026年…「ごめんね、ららぽーと。今日も錦糸町に行きます」と住民が言うまで
「住みたい街」と評される人気のエリアにも、掘り起こしてみれば暗い歴史が転がっているものだ。そんな、言わなくてもいいことをあえて言ってみるという性格の悪い連載「住みたい街の真実」。
書き手を務めるのは『これでいいのか地域批評シリーズ』(マイクロマガジン社)で人気を博すルポライターの昼間たかし氏。第15回は、湾岸タワマンの筆頭格・豊洲のこれからについて。
目次
あの「キャナリーゼ」はどこへ消えたのか
江東区豊洲といえば、2000年代に入ってからのタワマン大量供給で一躍注目された湾岸エリアの有名どころ。そんなタワマンに住まう子育て世代の主婦たちは、シロガネーゼ(白金)やマリナーゼ(浦安)と並ぶキャナリーゼとして、一躍注目されていた……。だが、もはや誰も言わない、呼ばない、叫ばない。道で会っても振り向かない。
そんな言葉ができた頃の新聞記事(『北海道新聞』2008年3月16日付朝刊)を振り返ると、こんな記述が。
<キャナリーゼのオシャレ必須アイテムは、つば広のお帽子に、ヒール、外国製のベビーカー(英国ブランドのマクラーレン製が多い)>

2008年の新聞記事でキャナリーゼの代表格として紹介されていたママ友サークル「キャナルマム」。取材に答えている代表の女性が、現在はなにをしているのかと検索してみたら、ご当地キッズダンスユニットを運営していた。なんでも、娘さんがアニメ「アイカツ!」に夢中になったことがきっかけで立ち上げたという。2025年で活動14年目。ららぽーとや豊洲公園のイベントに出演を重ね、防災フェスではアイドルマスターの楽曲で踊っているらしい。
つば広帽子にマクラーレンのベビーカーを押していたキャナリーゼは、いつのまにかキッズアイドルのプロデューサーになっていた。子どもの成長に合わせて自分の活動も変えていく。キャナリーゼの旗を振り、今度はペンライトを振っている。豊洲という街への執着なのか、愛なのか、もはや本人にしかわからない領域に達している。
キャナリーゼは滅んだのではない、進化したのだ
しかし、である。周囲を見回してほしい。もう誰もキャナリーゼなんて言っていない。マクラーレンのベビーカーも街から消えた。あの頃、一緒につば広帽子を被っていたママ友たちは、とっくに子育てを終え、PTA役員を経て、今頃は中学受験の修羅場を潜り抜けた戦友として年に一度ランチをする程度の関係になっているはずだ。
というよりも、大半は、そう。
当たり前である。キャナリーゼって要は運河を意味する英語「キャナル(canal)」と、ミラノっ子を指す「ミラネーゼ(milanese)」と組み合わせた造語。日本語で表現するなら「運河の民」……『水滸伝』の梁山泊か、ベトナムのビン・スエン団か? 運河の民なら、高度成長期まで月島あたりにわんさかといた。住んでいるのはタワマンではなく船の上だが、よっぽどそっちのほうが人間らしい。
たいていの人は、そのように世間を知ってキャナリーゼという自認を恥じていったのか。いや、違う。プライド以前に、そんな生活できなくなったのだ。そのことを示すのが、今の豊洲の賑わいスポット。
「豊洲なら、賑わってるのは、アーバンドックららぽーと豊洲でしょ?」
と、思うかもしれない。違う、豊洲の地元民が足繁く通うのはスーパービバホーム豊洲店の2階……専門店街「ビバモール」だ。
そこは、スーパーの文化堂、ヤマダデンキ、洋服の青山、セリア、くまざわ書店と生活密着店舗の集合体。特に、目を見張るのは多くの面積を占める文化堂。安いスーパーの代名詞と知られる文化堂だが、今回の取材でたまたま訪れたのは日曜の午前中。特売の野菜を目当てに店は大混雑。キャベツやキュウリを品定めしているのは、安心できる庶民風な人々。
そう、タワマンばかりが注目される豊洲なのだが土地の半分くらいを占めているのは都営住宅などの団地群。ここに豊洲という街の真の姿を見ることができる。

