イラン戦争は世界経済の混乱を招く……イランの「メッセージ付きミサイル」をどう読み解くか
東京大学大学院教授/地経学研究所長の鈴木一人氏は、イラン戦争が世界経済に大きなダメージを与える可能性を示唆する。楽観論も根強いイラン戦争だが、今後世界はどうなっていくのか。私たちはイラン戦争をどうみればいいのか。鈴木氏が解説する。
みんかぶプレミアム連載「鈴木一人 地政学×経済安全保障=地経学」
目次
世界経済は冷え込んでいく
イラン戦争は、今後の世界経済に大きなダメージを与える可能性があります。この状態でエネルギー価格が下がる理由がありませんし、そもそもイランはエネルギー価格の上昇を意図してホルムズ海峡を封鎖しているので、意図した通りの結果が出るのだろうと思っています。
エネルギー価格が上昇した場合に何が起こるのか。それは想像するしかありませんし、おそらくどんな想像をしても、現実がその想像を超えていくと考えています。
まず、石油の調達が極めて難しくなります。先進国の多くは1970年代の石油ショックを経験しているので、それなりに戦略的な備蓄があります。しかし、グローバルサウスの国々には余裕がありません。そのため、エネルギーの枯渇に最初に直面するのはグローバルサウスの国々です。
今後それらの国々において、燃料不足や価格高騰への不満から暴動が起こるなど、社会の不安定化につながる可能性があります。その動きがクーデターといった政治的な動乱にまでつながると、当然、グローバルなサプライチェーンにも影響が及び、世界経済全体が冷え込んでいくことになります。
なおいまのところ、日本はナフサや石油について、ホルムズ海峡の代替ルートを通ったり備蓄を取り崩したりする形で調達しており、それなりに楽観的な見通しを立てています。
一方で日本企業は、東南アジアに多くの工場を有しています。東南アジアでの経済活動に制限がかかるようになれば、日本にいくら石油があってもモノが入ってこない状況が生まれます。
また、いまイランは「バブエルマンデブ海峡を封鎖する」と脅しをかけています。バブエルマンデブ海峡は紅海とアデン湾を結ぶ要衝です。 封鎖されてしまうと、サウジアラビア産の油の積み出し拠点であるヤンブー港からの油が止まってしまうことになります。
日本の船会社はリスク許容度が低いので、これまで「フーシ派からの攻撃を受けるかもしれない」という理由でバベルマンデブ海峡を利用してきませんでした。しかしホルムズ海峡が封鎖されたことで、バベルマンデブ海峡ルートの活用に期待が寄せられていました。ですから、現時点で石油の調達の見通しが立っているといっても、そんなに安心していられる状態ではありません。
イラン戦争の“勝者”はロシアと中国
では、この戦争で得をした国はどこでしょうか。まず挙げられるのはロシアです。もともとアメリカはロシア産の原油などを対象とした制裁を課していましたが、イラン戦争の影響で石油の流通が滞ったため、現在は解除を発表しています。
これに対し、ウクライナのゼレンスキー大統領は強い懸念を示していますが、そうは言っても石油が入ってこないので、ロシアからの油を買う国が続出してもおかしくない状態にあります。
あとは中国です。というのも、いま中国では、エネルギーシフトが急速に進んでいます。再生可能エネルギーや原発のほか、エレクトリフィケーション(電化)も進んでいます。
これによって、石油に対する依存度は相対的に低下しています。つまり、中国は石油が手に入りづらくなっても耐えられるだけの体制に変わりつつあるのです。
化石燃料価格が上がっても、再生可能エネルギーや原発、石炭火力など複数の電源を組み合わせれば、電力は作ることができます。ですから、「ずっと停電状態」といったことにはなりません。ですがガソリンは作れないので、ガソリン車は走らなくなる。そうすると、今後電気自動車シフトが進むことになります。
東南アジアの国々も、石油の調達が難しい状態になりつつあるので、どんどん電化が進んでいくでしょう。原油を中東に依存している中国は、「圧勝」というよりは、1点差で勝つような試合ではありますが、「電気自動車といえば中国」という状況が生まれつつある中で、中国は“勝ち組”になるでしょう。
そういう背景もあり、中国がこの戦争において、積極的に介入することはまずありません。中国からすれば、アメリカが自滅しているだけでなので、このままミサイルを使い果たし、疲弊していくのを見守っているというところでしょう。