「桁違いの資産」を持つ人も、お金の不安から解放されていない? データサイエンティストが解き明かす「お金のモヤモヤ」の正体

「億万長者でもお金の不安って消えてないんですよね」
そう語るのは、データサイエンティストの佐藤舞氏。著書『あっという間に人は死ぬから』で「読者が選ぶビジネス書グランプリ2025」自己啓発部門賞を受賞し、運営するYouTubeチャンネル「謎解き統計学」の登録者は40万人を超える。
データを武器に統計学を語る佐藤氏が、経営者と接する中で目にしてきたのは、「桁違いの資産を持つ人ですら、お金の不安から解放されていない」という事実だった。資産運用に向き合い、それなりの蓄えを築いてきた人ほど、この「終わらない不安」に思い当たる節があるのではないだろうか。
今回は佐藤氏が、統計データと現場の観察から導き出した「お金と幸福度のリアルな関係」を解き明かす。全3回の第1回。
目次
億万長者でも、お金の不安は消えていなかった
私は仕事柄、経営者の方々とお話しする機会が多くあります。なかには、一代で億単位の資産を築いた方も少なくありません。傍から見れば、「もう十分すぎるほどの財産を持っている」と感じるような方々です。
ところが、実際にお会いしてみると、お金への不安が消えているわけではありません。
「いくら稼げば、本当に安心できるのかわからない」
「資産が減っていくのが怖い」
彼らから、そうした言葉を何度も耳にしてきました。
サラリーマンの生涯賃金を上回るような資産を築いた方々でさえ、お金の不安から完全には解放されていない。その現実を目の当たりにして、私はあることに気づきました。
お金の不安は、単純に“残高”だけで決まるものではない。むしろ、お金を「安心の答え」として追い続ける限り、その不安には終わりがないのかもしれないと。
実は、こうした傾向はデータの上でも見られます。世界的な研究では、年収7万5千ドル、日本円にしておよそ1,200万円を超えたあたりから、収入が増えても幸福度の伸びは緩やかになっていくとされています。
「1億円あれば安心できる」「3億円あれば不安はなくなる」と思っている方は多いでしょう。
しかし、おそらく多くの方は、その金額に到達してもなお、安心の境地には辿り着けません。「もっと稼げば安心できる」と数字だけを追い続けても、不安そのものが消えることはないのです。むしろ、資産が増えるほど、「これを失いたくない」という感情が強くなっていくことさえあります。
幸福度の半分は、すでに決まっている
幸福度を決める要素は、大きく三つに分けられると言われています。「遺伝的な気質」が約50%、「環境要因」が約10%、「意図的な行動」が約40%です。
最も大きな「遺伝的な気質」とは、ちょっとしたことでも「幸せだな」と感じやすい人と、同じことが起きてもあまり何も感じない人がいる、という先天的な性質のことです。そして「環境要因」とは、年収、貯蓄、住まい、結婚の有無といった外側の条件を指します。
意外なのは、この環境要因が、幸福度全体のわずか10%しか占めていないことです。一方で、40%を占める「意図的な行動」とは、自分の価値観に沿った日々の習慣です。たとえば、健康のために散歩をする。誰かに感謝を伝える。困っている人に手を差し伸べる。そうした小さな行動の積み重ねです。
しかし私たちの多くは、「もっと幸せになりたい」と思ったとき、まず環境要因に手を加えようとします。
年収を増やす。出世してポジションを上げる。投資で資産を増やす。良い家に住む。目に見える条件を整えることに、多くの時間とエネルギーを注いでいるのです。
しかも、そのために残業を重ね、ストレスを抱え、家族との時間や健康まで削ってしまうこともある。冷静に考えると、これはかなり苦しい構造です。
幸福度の大部分を占めるのは、日々の行動や習慣であるにもかかわらず、私たちはそこに十分な時間を使えていません。だからこそ、「頑張っているのに満たされない」という感覚が生まれてしまうのです。