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「貧しさの中で愛は何の役にも立たない」イスラム原理主義者に破壊された背徳の楽園インドネシアのカリムン島”パヤラブ”…奥地に潜む中国人の正体と男が見つけた真理

 1980年代から90年代にかけて、アジアの歓楽街は熱気と混沌、そして甘美な腐臭に満ちていた。高度経済成長のあぶく銭を握りしめ、男たちは夜の底へと沈んでいった。これは、かつて暗黒街に沈み、熱気と混沌に溺れながら「愛」を探し求めた男の回想録である。

「ブラックアジア」「ダークネス」でカルト的な人気を博す作家・鈴木傾城氏による連載「アジアの暗黒街で愛を探した男」第12回――。

<前回までのあらすじ>

 2001年の9・11同時多発テロ後、イスラム国家のインドネシアにも地殻変動が起きる。そんな世情をよそに、筆者はビンタン島の隔離された暗黒地帯で、どこか薄幸な女性ミミンと出会う。強烈に惹かれ合い、求婚されるも一線を引いて島を去った。半年後に再訪すると、彼女がシンガポール人の愛人になったと知り――。

目次

背徳の楽園、カリムン島「パヤラブ」

 インドネシアのリアウ諸島は本当に素晴らしい「背徳の島」で、誰も知らないこのエリアにいたときこそが、私の人生で一番幸せな時だったかもしれない。バタム島、ビンタン島、カリムン島、クンドール島の四島は本当に忘れられない。今でも名前を聞いただけで感情が昂ぶるほどだ。

 どの島も好きだが、中でもカリムン島の山奥に隔離された巨大な背徳村「パヤラブ」のスケールには圧倒された。今はどうか知らないが、当時この島はシンガポールからの直行便がなくて、他の島を経由しないと行けなかった。

 そもそも、普通の人は無理してこの島に行ったとしても、観光資源なんか何もない。海がきれいだというわけでもない。港のまわりには漁村があるが、あとは濃い緑に覆われた山が目立つだけだった。

 やってくるのは、特別な意図を持つシンガポール人の男だけだったのだ。

 この島には山奥のパヤラブだけでなく、漁村のはずれにも特別なエリアがあった。そこにも社会から弾き出された女性たちが大勢いて、公然たる売春地帯になっていたのだった。インドネシアの奥深さには本当に恐れ入った。いつまでもインドネシアの島をフラフラとしたかった。

じわじわと減っていく貯金と、消えた大バクチの気力

 ただ、カネのことは常に頭の片隅にあった。

 ちょうどこの時期、私は貯金を食い潰して生きていた。バブル崩壊ですっかり萎れてしまった日本株にはほとほと愛想を尽かしていたので、米国株を通じて株式市場に戻るようになってはいた。

 しかし、もう大きなバクチを打つ気力がなくなっていた。大きなことをするよりも、下手なことをして貯金を失いたくないという気持ちが大きかった。それで、米国株を小さく売ったり買ったりして様子を見ていた。

 米国株はITバブルが崩壊したと思うと、今度は同時多発テロで暴落したりしていたのが当時の状況だった。これを見ていると、大きな金額を賭けて「のるかそるか」のバクチ的な投資をしようという気にはならない。

 米国株も下手にやっていると足下をすくわれかねない。なので、すっかり様子見になっていた。結果として、資産は増えるというよりも、日々の生活費でじわじわと減っていく状況だった。

 バブルの頃にむちゃな投資で得た資産も、このままではいずれゼロになる。この当時、私は30代も半ばになっていたのだが、何もしないでカネを取り崩しているだけだと、あと5年だか6年だかで無一文のホームレスになりそうだった。

「おカネがなくて眠れない」

 心の奥底では、相変わらず「何もかも失う不安」が渦巻いていた。

 インドネシアの離島で「おカネがなくて眠れない」という女性がいて、彼女に睡眠導入剤を分けてあげたこともあったが、その「おカネがなくて眠れない」という彼女の気持ちがよくわかった。

インドネシアの安宿にて(筆者撮影)

 20代から勢いでここまで仕事もしないでフラフラと生きていたが、どれだけ節約していたとしても、新しくカネがつくれないのであれば貯金は間違いなく尽きる。仮に40歳で貯金がゼロになったら、私はどうしたらいいのだろうか。

「これまで何をしていたんですか?」と面接で言われて「東南アジアの歓楽街でフラフラしていました」と答え、雇ってくれる会社なんかあるのだろうか。学歴・職歴・資格・スキル・貯金・コネのすべてがゼロの人間なんか、誰が雇うというのか。

 よく野良犬みたいな生き方が羨ましいと言われることもあったが、先のことを少しでも考えられる人間だったら、誰もこういう生き方を選ばない。アメリカで流れ者のヒッピーを歌った歌詞の中に「自由とは、別の言葉で言うと失うものが何もないということ」というものがあるが、身に染みた。

 私が貧困の世界から目が離せないのは、いずれ自分もそこに堕ちる人間であるというのを自覚していたからだったのかもしれない。

 カネは無尽蔵にあるわけではない。働きもしないでそれを食い潰していたら、いずれは極貧の人間になる。だから、「おカネがなくて眠れない」という女性の気持ちが痛いほど伝わってきた。

カリマンタン島のシンカワンにいたのは?

 リアウ諸島でインドネシアに慣れてくると、だんだん他の島にも関心を持つようになって、ジャワ島のジャカルタやスマトラ島のメダンなども訪れるようになった。

 ジャカルタは想像していた以上の大都市で、それはそれで面白かった。街は排気ガスにまみれ、熱帯特有の濃い空気が漂い、猥雑で、騒音まみれで、人も多かった。刺激があった。

 ただ、これまでインドネシアの僻地にいたせいなのか、ジャカルタにはどうも慣れなかった。面白いのは面白いが、それほど長居できなかった。

 スマトラ島に流れると、心なしか空気がのんびりしてきてむしろこちらの方がほっとした。メダンを中心に回ったが、ビンタン島で知り合った女性の故郷がここだったので、私はとても印象深くメダンを旅した。

 そして、カリマンタン島にも向かった。カリマンタン島は東南アジア最大のジャングル地帯を擁する島だが、この当時からジャングルがどんどん焼き払われていて、奥地に入っていくと樹木が焼き尽くされるようなニオイが充満して息苦しかった。

 カリマンタン島ではシンカワンが気に入った。今はちょっとした観光地のような場所になっているらしいが、当時のシンカワンは殺伐とした街だった。昔の古いアメリカ映画の西部劇に出てくる「荒野の街」のような出で立ちで、その雰囲気が何とも言えず心地良かった。

 そして、こんな場所でも小さな売春宿があちこちに点在していた。

 実は、このシンカワンの売春宿には多くの中国系の貧困女性がいた。彼女たちは「アモイ」と現地で呼ばれていた。そのアモイが美人だという噂があって、シンガポールや台湾の男がひそかにやって来ていたのだった。

 日本ではまったく情報が流れていなかったが、東南アジアのアンダーグラウンドにいる一部の男たちには公然たる秘密でもあった。

 実は、このシンカワンにはポンティアナから入ったのだが、ポンティアナのホテルでは車イスの台湾人の男性が泊まっていた。この男性がタクシーに乗るのに難儀していたので手伝ってあげたことがあった。30代くらいの男性だったと思う。

 そのとき、足の不自由な台湾人の男性がここにいることには特に何も思わなかったが、あとになって私はひとつの事実を知ることになった――。

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この記事の著者
鈴木傾城

作家、アルファブロガー。1966年生まれ。20歳の頃にタイに旅立ち、そのまま社会からドロップアウト。以後、本格的に東南アジアの歓楽街・貧困街に沈没する生活に入り、2000年よりサイト『ブラックアジア』を主宰、カルト的な人気を得る。2009年より時事を扱うサイト『ダークネス』を立ち上げ、3年で1億PV超達成、アルファブロガーとなる。著書『ボトム・オブ・ジャパン日本のどん底』『ブラックアジア』『絶対貧困の光景』等々。

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