3億円超のタワマン、窓を開けたらそこは下水ポンプ所だった…スーパーは「まいばすけっと」一軒のみ。夜間人口1500人の街「天王洲アイル」の住み心地はいかに
「住みたい街」と評される人気のエリアにも、掘り起こしてみれば暗い歴史が転がっているものだ。そんな、言わなくてもいいことをあえて言ってみるという性格の悪い連載「住みたい街の真実」。
書き手を務めるのは『これでいいのか地域批評シリーズ』(マイクロマガジン社)で人気を博すルポライターの昼間たかし氏。第18回は、名前は知っているけどみんな行ったことがない街「天王洲アイル」を歩く。実はこの街、3億円超のタワマンがある。
目次
誰も本気で「住まない」街。名前だけの未来都市
名前は知ってても、別に出かけることがない東京の街。天王洲アイルはその代表格といえるだろう。地名は誰でも知っている。なにしろ、東京モノレールとりんかい線、2本の路線が走っているから。とりわけ地方出身者であれば、帰省の際に羽田空港にいく途中に利用する東京モノレールで駅名が連呼されるのを聞いたことがあるはずだ。
天王洲アイルとはなかなか未来感のある名前だが、これはあくまで駅名に由来する通称名。住所は全域が品川区東品川2丁目と、地味な呼称になっている。JTBや日本航空のような誰でも知っている会社が本社を置く天王洲アイルだが、タワーマンションや都営住宅があり、住んでいる人もそこそこいる。2000年1月に849世帯1481人だった人口は1099世帯 1754人となっている。
……人口が少ない。
数字を整理してみよう。1099世帯で1754人、つまり1世帯あたり約1.6人だ。お台場のザ・タワーズ台場が1.87人で「明らかにおかしい」と書いたが、天王洲アイルはさらに下回る。
居住用物件を並べてみると、URの天王洲ビュータワーが33階建て403戸(1995年竣工)、シーフォートタワーが29階建て139戸(1992年竣工)、そして都営東品川第5アパートが1970年建設の376戸。UR403戸と都営376戸を足すだけで約780戸になる。
つまり、エリア全体の1099世帯のうち、7割近くはURか都営住宅ということになる計算だ。残りの分譲・賃貸タワーを足しても、人口はたった1754人。それどころか、シーフォートタワーの2LDKは賃料が48.5万円という物件まである。誰が住んでいるのか。

答えは簡単だ。誰も住んでいないか、住民票を置いていないかのどちらかだ。JTBや日本航空の本社を構えるオフィス街の隣である。法人契約のサービスアパートメントとして使われ、借り主は住民登録などしない。あるいは投資用として買ったオーナーは港区か世田谷区か、もしかしたら香港あたりにいる。
要するに天王洲アイルとは、誰もが駅名を知っているのに、誰も本気で住んでいない街なのだ。お台場と同じ構造だ。いや、お台場よりさらに希薄かもしれない。お台場には一応、「ここに住む」と覚悟を決めたUR・JKKの入居者がいた。天王洲アイルの数字が示すのは、そもそも「住む気がない人々」の比率がお台場を凌駕しているということだ。
3億円のタワマンの窓下に広がるのは「下水ポンプ所」
そこへきて、長谷工施工・三井不動産レジデンシャルと三菱地所レジデンス共同の「パークタワー品川天王洲」が2027年竣工予定で建設中だ。34階建て275戸、1LDK〜3LDK。売れるのだろうか。いや、売れるのだろう。問題は、買った人が住むかどうかである。
その「パークタワー品川天王洲」の価格表を見ると驚愕する。2LDKが1億2,900万円から、3LDKは最高3億1,900万円。坪単価900万円超だ……。これもう住む気ないだろ?
では、その窓の外に何が見えるか。いや窓から見ている限りは素晴らしい眺望が開けている。でも、南西側で下を向けば、東京都下水道局の天王洲ポンプ所である。下水を汲み上げるポンプ場だ。2億円出して買ったタワマンの眺望に、ポンプ場。

有明ではタワマンの隣がヤマト運輸の営業所だったが、天王洲アイルは下水道施設である。どっちも文化的な生活に欠かせない社会的インフラであるが、24時間コンビニよりも確実に宅配便で荷物を送ることができるという点で、有明のほうがまだマシだろう。
さらに、東京都の昼夜間人口比較統計を見ると、この街の驚くべき状況がわかる。東品川2丁目は昼間人口2万3255人に対して夜間人口1522人。昼間人口指数1528。昼間は夜間の15倍以上の人間がいるということだ。つまり東品川2丁目は、「住んでいる」エリアではなく、「働きに来る」エリアであることが数字で完全に証明されている。ちなみに、このデータは、2020年国勢調査のものだ。コロナ禍でオフィス勤務が激減していた時期なので、平常時なら昼間人口はさらに多かった可能性すらある。