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インドネシアのビンタン島にあるとされる「山奥に捨てられた女たちの集落」とは。宗教国家が不品行な女たちを「ゴミ」として隔離した果てに出現した桃源郷へ行く

 1980年代から90年代にかけて、アジアの歓楽街は熱気と混沌、そして甘美な腐臭に満ちていた。高度経済成長のあぶく銭を握りしめ、男たちは夜の底へと沈んでいった。これは、かつて暗黒街に沈み、熱気と混沌に溺れながら「愛」を探し求めた男の回想録である。

 「ブラックアジア」「ダークネス」でカルト的な人気を博す作家・鈴木傾城氏による連載「アジアの暗黒街で愛を探した男」第10回――。

<前回までのあらすじ>

 バブル崩壊後の絶望の中、筆者が辿り着いたのはインドネシアのビンタン島。そこには社会から隔離された「山奥に捨てられた女たち」の集落があるという。バイクで鬱蒼とした山道を抜け、遮断機を越えた先に広がっていたのは、イスラムの戒律とは無縁の異様な光景だった。男たちを惹きつける「隠された聖域」で筆者が見た光景とは――。

目次

暗黒街の男にも、新時代がやってきた

 1990年からの株価の崩壊(ガラ)以後、私は何をやっても下落していく相場で利益を出せなかった。それで、相場はもう完全にあきらめていた。あとは残った資産を食い潰して生きていく人生だと思い、ずっと暗い気持ちだった。

 株式市場は低迷したままだし、歓楽街ではエイズも蔓延している。何をやっていても、人生の終わりのような感覚が私にはあった。相変わらず仕事もしないで資産を食い潰して生きているだけなので、最後は路頭に迷う未来しか見えなかったのだ。

 ところが、1990年代の終わりから2000年代にかけての金融ビッグバンで、個人が自由に外国為替証拠金取引や外国株売買ができるようになった。これで、ひさしぶりに心が踊るような気持ちになった。

「低迷する日本株式市場から米国株式市場に舞台を移せる。これは面白いことになるかもしれない……」

 それから私は米国株を研究するようになって、慣れるために米国株を小さく売買するようになっていった。米国は資本主義の総本山であり、世界最強の市場であり、巨大で優良な企業がキラ星のごとく揃っている。これらが買えるのだ。

 しかもネット証券も出現するようになり、インターネットで株式売買ができるようになってきた。新しい時代になったことを私は実感した。

「オーケー、オーケー。ノー・プロブレム」

 その頃、私はカンボジアを捨て、シンガポールに向かい、そこからインドネシアのリアウ諸島にも入ろうとしていた。これまでの「行き先」がタイ・カンボジアとは違うだけでも、いろんなことが変わったような気持ちになった。

 シンガポールから私が向かったのはバタム島であったり、ビンタン島であったりした。私が特に気にしていたのはビンタン島だ。そこに「山奥に捨てられた女たち」の集落(カンポン)があって、秘めた歓楽地になっていると聞いたからだ。

 当時、ビンタン島の北部はシンガポール人のリゾートになっていた。山奥に捨てられた女たちのいる集落は南部の方だ。私はリゾートなんかまったく関心がないので、ビンタン島の南部の港タンジュンピナンに入っていった。

「あまり期待しない方がいいな……」

 私はそう思っていた。たしかに、噂では女たちが捨てられた集落があるというのは聞いていた。だが、本当にそれがあるのかは、行ってみないとわからない。ガセネタかもしれない。

 そうであったら、わざわざシンガポールまで飛んで、さらにスピードボートに乗って1時間以上もかけてインドネシアに入った旅程が徒労に終わる。それでも、無駄足を踏むくらいの時間は捨てるほどあったので躊躇しなかった。

 インドネシアという国にも興味があった。この国には1万3000くらいの島が無数にあって、島が変わればそれぞれ文化や民族が違ったりするような島嶼国家である。しかも、いくつもの島で「捨てられた女たち」がそこにいるという噂だ。関心を持つなというのが無理だ。

 インドネシアは国民の大半がイスラム教徒なので、シンガポールの港から船を待つ女性の多くがイスラム教徒の衣装であるジルバブをかぶっていた。タイやカンボジアの女性とは趣(おもむき)がまったく異なっている。異質な雰囲気だった。

ビンタン島のビーチ(写真AC)

 スピードボートでビンタン島のタンジュンピナンに入ると、大勢のガイドがゾンビのように飛びついてきて私の腕をつかみ、インドネシア語や英語で「どこから来た、どこに行く?」と引っ張り回す。

 男たちはタイやカンボジアの男たちと違って、どこか陽気で、押しも強かった。私が泊まるホテルを決めていないのを知ると、ガイドの男のひとりが「オーケー、オーケー。ノー・プロブレム(問題ない)」と言って、私を無理やりオジェッ(バイクタクシー)に乗せたのだった。

 バイクで15分くらい走ったところに連れて行かれた。そこから見える光景は、本当に田舎町の光景だった。土はカンボジアよりも鉱物的で赤く、ところどころモスクが見えたり、庶民の小さな家屋が見えたりした。

 だが、その家屋はタイのものともカンボジアのものともまったく似ていない。ところどころにある公共の建物の色も派手だ。それもまた異国情緒を刺激した。

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この記事の著者
鈴木傾城

作家、アルファブロガー。1966年生まれ。20歳の頃にタイに旅立ち、そのまま社会からドロップアウト。以後、本格的に東南アジアの歓楽街・貧困街に沈没する生活に入り、2000年よりサイト『ブラックアジア』を主宰、カルト的な人気を得る。2009年より時事を扱うサイト『ダークネス』を立ち上げ、3年で1億PV超達成、アルファブロガーとなる。著書『ボトム・オブ・ジャパン日本のどん底』『ブラックアジア』『絶対貧困の光景』等々。

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