本当は内緒「同期でも700万円の差…」広がる社内給与格差に「飲み会で給料を聞く」のが絶対NGに

いま、中途採用者のフィーは上昇中

中途採用市場が活況を呈している。新型コロナウイルス感染拡大によって求人数は2020年4~6月に大幅に落ち込んだが、その後徐々に増加。36歳以上のミドル世代では、07年上期を100とした転職決定数は21年上期に434%に達している(日本人材紹介事業協会調査、大手3者の紹介実績)。とくにコロナ禍でのデジタル化の加速や既存のビジネスモデルが劇的に変化しつつある中で、業種を超えてデジタル人材など高スキルの専門人材の争奪戦が激しくなっている。

その場合にネックとなるのが賃金制度だ。日本企業の賃金制度は勤続年数や年齢に応じて昇給する年功賃金が主流だ。しかし高スキル人材を獲得するには自社の基準を超える報酬を提示しないと競争に負けてしまう。広告関連会社の人事部長も「中途採用者のフィーの値上がり感はすごく感じているし、欲しい人ほど報酬の競争になるケースが多い。従来は経験年数と年齢を考えて、若い人なら600万円が上限だったが、それでは獲得できない。そのために同年齢の社員の賃金等級より1つ上の等級に上げて700万円で採用するとか、腹をくくった決断をしないといけない」と、危機感を露わにする。

導入が進むジョブ型賃金、職務給制度とは?

実は優秀人材の獲得の手段として導入が進んでいるのがジョブ型賃金だ。正確には職務給と呼ぶが、年齢や勤続年数に関係なく、どんな職務を担当しているかという仕事の内容と難易度(職務等級)によって給与が決まる。同じ職務に留まっている限り、25歳と40歳の給与は変わらない。給与を上げようと思えば、がんばって職務レベルを上げるか、給与の高い職務にスイッチするしかない。

一方、職務給制度は中途採用の獲得には有利だ。若くても職務スキルが高ければ上位の職務等級に位置づけ、高い報酬を支払うことが可能になるからだ。実は日本でも2000年以降、一部の大手企業や新興企業では職務給やそれに近い「役割給」制度を導入しているところも少なくない。ITベンチャーの企業の中には、従来一律だった新卒初任給も能力・スキルで変えている企業もある。

あるITベンチャーの採用担当者は「基本的には初年度の年収は500万円をベースに、400万円台もいれば600万円台の人もいる。ただし、それに見合う成果を出せるかわからないし、2年目で成果を出さないと下がる。入社5年目になると、一番下の年収と上の年収で3倍ぐらいの差がつくこともある」と語る。

しかも職務・役割給は固定ではない。職責を果たせなければ管理職でも降格・降給が発生する仕組みだ。例えば役割給を導入した大手精密機器メーカーでは導入3年目に管理職層300人が昇格する一方、150人が降格。40歳の管理職層で約450万円程度の給与格差が発生している。今後、年功的給与から職務・役割給への移行が進めば、給与格差の拡大に拍車がかかることは間違いない。

日本全体で進む正社員の給与格差拡大

すでに日本全体でも正社員の給与格差が拡大している。doda(デューダ)の「2021年版平均年収ランキング」(2020年9月~21年8月までの1年間、正社員45万人)によると、21年度の20代の平均年収は341万円。年収分布を見ると300~400万円未満が39.1%で最も多く、次いで300万円未満が32.7%。400~500万円未満が18.6%となっている。400万円未満は中小企業、400~500万円未満は大企業の社員と推測され、企業規模の違いはあるが、20代はそれほど格差が開いていない。

ところが30代以降になると、年収分布が広がる。300~500万円未満が53%を占めるが、300万円未満が15.7%いるのに対し、500~600万円未満も15.1%とほぼ同じ割合で存在する。30代になっても給与が全然上がらない人がいる一方、600~700万円未満が8.2%、700~800万円未満が3.7%、少ないが900~1000万円未満が1.4%もいる。

40代になるとさらに格差が広がる。300~500万円未満が42.9%に減少するが、300万円未満が13.2%も存在するのは驚きだ。一方、500~600万円未満、600~700万円未満がともに10%超おり、800~900万円未満が4.3%、1000万円以上が2.9%もいる。

30歳代で600万円以上の価値を見出せる人材は希少

同じ企業内でも格差が広がっている。数年前に職務給型の賃金制度を導入したネット広告業の人事部長はこう語る。

「年齢に関係なく給与はばらついている。30歳だと下は400万円弱の社員もいれば、800万円の社員もいる。40歳でも400万円の社員もいるが、1500万円の社員もいる。30代で年収600万円弱の社員は結構いるが、600万円以上の価値のある仕事をやらないと、600万円を超えるのは難しいが、600万円以上の価値を出せる仕事をする人がなかなかいない。これは同じ仕組みを持つソフトバンクさんや楽天さんも同じではないか」

ちなみにソフトバンクも職務・役割給に近い賃金制度を導入している。職務・役割給を導入している企業の多くは業界他社など労働市場の賃金を参考に職務等級ごとの給与を決めている。「600万円以上の価値のある仕事ができる人が少ない」という人事部長の発言は、ジョブ型賃金下で600万円を超えるのは、かなりハードルが高いことを意味する。

40歳、年収400万円の社員の生き方は?

社内の年収格差は同期間で拡大するだけではなく、同一役職内でも広がっている。そもそも平均年収自体に意味がなくなっていると語るのはIT関連企業の人事部長だ。

「平均年収では実態を把握できない。年収の幅が広く分布しており、中央値で見ないと傾向はわからない。当社の40歳の同年齢の年収分布を見ると、まず最低年収が400万円、最高が部長職の1500万円。600万円以下が3分の1、600~800万円が3分1、残りは800万円以上と完全に分散している。すでに年齢による比較が無意味なほど給与の格差が広がっている」

同期でも年収格差があることについて社員から不満が出ないのか。前出のネット広告業の人事部長は「職務等級ごとの基本給は社員に公開している。等級ごとに10万円程度の幅があるが、あの人がどの等級であるかは仕事内容を見ていれば大体わかる。給与が低いと思えば、自分の職務スキルを上げるために努力すればよいだけの話であり、とくに不満があると聞いたことはない」と語る。

40歳で妻子もいて年収400万円では生活はきついのではないかと聞くと「ホント、どんな生活をしているのかわからない。ただ会社としては400万円に見合う価値の仕事を行い、本人もそれでよいと思っているのであれば追い出すつもりはない。ただ考えようによっては夫婦共働きで妻が年収400万円なら世帯年収は800万円になる。しかも400万円の仕事であれば毎日定時の6時に帰れるし、余裕のある生活もできるし、それもありではないか」と語る。

ジョブ型賃金制度ならではのクールな考え方であるが、要するに格差が開いても本人が納得できる仕組みになっているかどうかが鍵を握る。ところが年功賃金が長年にわたり染みついた企業風土に職務給を導入しても制度が定着するまでには時間がかかる。とくに中高年層が多い大企業では反発も発生する。

実力主義の安易な導入で社員の不満が爆発

こういう話もある。大手IT企業がAIなど最先端知識を持つ若手のデジタル人材を、現在の賃金制度とは別枠で、年収1000万円で募集した。しかし、それでも人材が集まらないどころか、社員から反発を招くという予想外の事態も発生した。当然、自分たちより給与が上回ることになり、不満が噴出し、モチベーションが低下するなどの職場の雰囲気が悪くなったという。

日本の伝統的大企業は今でも年齢や勤続年数にこだわる意識が払拭されていない。ジョブ型賃金を導入しても短期的には社内の反発も予想される。大事なことは人事評価の指標が明確であること、それと連動する給与の納得性がある程度得られるようにするための地道な取り組みが不可欠だろう。「脱年功賃金」は言葉で言うほど簡単ではない。

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