なぜ村上宗隆は55号で停滞したか…シーズン最後に見つけた弁慶の泣き所、オリが12球団で最も多用した変化球とは

 福岡ソフトバンクホークスのエース・千賀滉大をはじめ、球界を代表する投手たちの愛読書『セイバーメトリクスの落とし穴』。その著者である野球評論家のお股ニキ氏といえば、メジャーリーグで活躍するダルビッシュ有投手にツーシームを教えたことで知られている。そんなお股ニキ氏に、今月22日からヤクルトの本拠地神宮球場で開幕する日本シリーズで、カギを握る変化球を分析してもらった。

両名将の睨み合い、はじまる

 最下位から2年連続リーグ優勝を果たしたヤクルトとオリックスの再戦。チームのレジェンドOBで海外野球の経験も豊富な2軍監督出身でもある両名将、高津臣吾監督と中嶋聡監督のマネジメント力の対決に注目が集まる。

 現代野球に適応したリリーフ管理、マネジメント力の高さや配球・作戦など、似た性格を持つ両チームだが、村上宗隆を筆頭に両リーグ最多のホームランを放った強力ヤクルト野手陣と、山本由伸擁するパ・リーグ最高峰の投手陣の攻守の対決が最大の見どころとなるだろう。今季のプロ野球の主人公と言っても過言ではない三冠王・村上宗隆対、史上初の2年連続投手5冠、歴代最高クラスの投手・山本由伸の最高峰の対決から目が離せない。

勝負を決める球、それはズバリ……

 そんな日本シリーズの勝敗が決まる変化球はズバリ「スプリット」だろう。山本由伸がシーズン中約30%の割合で投じた140キロ台中盤~後半のスプリット。キャッチャーが捕球する位置でワンバウンドするかどうかの鋭くほどよい落差で、ストレートと似たような球速と軌道で落下する。そのため、打者はどうしてもストレートに見えて手を出し、空振りしてしまうし、バットに当たってもゴロとなりやすい。

 さらに大きくワンバウンドするほど落とすわけではないので制球もしやすく、見送られればボールとなり打たれることはない。しかもゾーン内に落差を出しながら投げればカウント球としても使用可能。このように、投手側から見ればもっともリスクが低くリターンが大きい野球最強の球種であるスプリットの効能を、長年の経験を持つ中嶋監督が理解し、チームに浸透させてきた。

 結果、今シーズンのオリックスは、12球団でもっともスプリットの投球割合が多いチームだった。阪神・藤浪晋太郎もスプリットの投球割合を30%程度に増やすことで制球や投球が安定して復調し、メジャーへのポスティング移籍をすることになった。それくらい、プロ野球で活躍したいならスプリットという球種は不可欠であり、精度を上げて使いこなせるようになる必要がある重要な球種である。

 クライマックスシリーズのソフトバンク戦でも山本由伸は「最強球種」スプリットを効果的に使い、ソフトバンクを抑え込んだ。並の投手なら難しい立ち上がりはストレートから入り、速球中心で様子を見ながら感覚を掴んでいくところだが、山本由伸クラスともなると初回の初球からスプリットで入りカウントを整えてしまう。打者も初回はストレートが来るものと思っているため、空振りしてしまう。ストレートに狙いを絞って見送ったとしても、山本はそこを見越して高めにスプリットを放りカウントを整えに来ているので、結果はストライクだ。

 そして、ピンチではひたすらスプリットをロボットのように連投して抑え込む。本当の「ギアチェンジ」とはフルの力感で目一杯ストレートを投げ込んで抑え込むことではなく、こうして山本由伸のようにもっとも抑えられるボールを精度よく投げ続け、リスクを徹底的に排除して完璧に抑え込むことなのだ。

村上を抑えるには「あの球」しかない

 今季のプロ野球の主人公・三冠王村上宗隆。ややポイントを近づけながらストレートは反対方向に、変化球や半速球はやや前で捉える理想的な打撃だ。昨年まではやや差し込まれがちだったストレートやインコースにも鋭いスイングスピードで対応し、穴がなくなった。

 そんな村上を抑えるためには、右投手なら「インハイにライジングするストレートやカッター」と「アウトローに落ちるフォークやスプリット」の典型的な「対角線配球」に加えて、「アウトハイにライジングしていくシュートライズストレート」と「インローに落ちるいわゆるバックフット・スライダーやスプリット」の「逆対角線配球」が必要となる。バックフット・スライダーとは、左投手なら右打者の、右投手なら左打者の内角低めに投じるスライダーのことだ。

 実際、9月にはこうした配球をするチームが増え、村上は55号を放った後にはプレッシャーもあり急ブレーキ。落とした調子を取り戻すまでに少し時間がかかった。

 そして、もう1つ村上に効果的なボールがある。パワーカーブである。左投手である中日・小笠原慎之介のカーブにも村上は苦しみ、調子を落とすきっかけとなった。球速があり、縦に鋭く落ちるパワーカーブは目線を外せる。縦の変化で空振りを奪ったり、意表を突いてカウントを取れれば、投手側にも勝機が生まれてくる。

 「最強球種」スプリットに加えて、このパワーカーブを搭載しているのがエース・山本由伸であり、その配球力や精度も半端ではない。スプリットをメインに攻めながら、ここぞという場面では意表を突いたパワーカーブが来るかもしれない。多くの投手が村上に打ち崩されてきたが、間違いなく今シーズン最高峰の対戦となるだろう。

オリックス豪腕投手陣対村上。注目の宇田川

 ほかにもオリックスの投手陣はエース山本同様、155キロを超すような豪腕リリーフ陣が揃い、スプリットも常備している。こうした投手が高めのストレートと鋭いスプリットを多用すれば、村上とも互角に戦うことができるだろう。

 なかでも7月に育成契約から支配下登録され、強力リリーフ陣の一角を担う宇田川優希のスプリットは最高品質。最速157キロのストレート、パワーカーブのような縦スライダーも備えており、各球種の質が極めて高い。カウント球のスプリットと決め球のフォークの投げ分けが上手く、三振を奪えるので、中盤で相手に流れを渡さない貴重な火消しの役割を果たしている。エース山本だけでなく、宇田川と村上の対戦も楽しみである。

 しかし、こうしたオリックス投手陣に懸念があるとすれば、神宮球場のマウンドかもしれない。今季の交流戦、両チームは京セラドームで対戦しており、オリックスは神宮球場でプレーしていない。神宮球場は独特で、キャッチャー側のほうが高く、外野のほうが低い「打ち下ろし」になっていると言われる。そのため、マウンドの位置も通常の球場より低く、投手はキャッチャーに向かって投げ下ろす感覚が出ないため、初見のケースが多いパ・リーグの投手は適応できずに打ち込まれるケースが少なくないのだ。

 昨年の日本シリーズはアマチュア野球開催のため、ヤクルトのホームゲームは神宮球場ではなく東京ドームで行われた。オリックスの投手陣がスプリットやストレートを投げ下ろす際に、神宮球場のマウンドにいかに早く適応できるかも一つのポイントとなるだろう。最大7試合まで進んだとしたら、4試合は神宮球場でプレーすることになるからだ。

この記事の著者
お股ニキ

野球経験は中学の部活動(しかも途中で退部)までだが、様々なデータ分析と膨大な量の試合を観る中で磨き上げた感性を基に、選手のプレーや監督の采配に関してTwitterでコメントし続けたところ、フォロワー4万人を超える人気アカウントに。ダルビッシュ有投手を筆頭に約40名ものプロ野球選手が加入するオンラインサロンを運営し、球質改善・配球の助言を行う。

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