競争は弱者のゲームである…ウォール街の帝王が決めた「支配階級同士は喧嘩しない」ルール

ジョン(J)・ピアポント(P)・モルガン。大統領すら頭を下げたこの金融家は、19世紀末のアメリカで、法の枠組みを独自の解釈で塗り替え、巨大な産業帝国を築き上げた。彼が実践した「モルガナイゼーション」は、当時の資本主義の常識とは一線を画す、ある決定的な発想に基づいていた。
「少しの競争は好きだが、私はむしろ協調を望む」。その言葉に凝縮された、冷徹かつ合理的な支配の哲学。鉄鋼王カーネギーとの天文学的な取引を例に、一握りの富豪だけが使いこなす”世界の裏ルール”の正体に迫る。
みんかぶプレミアム連載「一握りの大富豪だけが知っている世界の真実」第2回
目次
大統領すら頭を下げた男…アメリカ経済の心臓部を支配した圧倒的権力
19世紀末から20世紀初頭のアメリカ合衆国。一国の政府を遥かに凌駕するほどの圧倒的な権力を握りしめた一人の金融家が存在した。ジョン(J)・ピアポント(P)・モルガン。
鉄道網を次々と買収して統合し、巨大企業USスチールを創設して産業の根幹を完全に支配した人物である。アメリカ経済の心臓部を直接握り潰せるほどの絶対的な力を持っていた。大統領すら頭を下げるほどの影響力を誇り、ウォール街の帝王として君臨したJPモルガンは、社会のルールを一般市民とは全く異なる冷徹な視点で見つめていた。
人間は絶えず競い合うことを強く求められている。受験戦争や就職活動、出世争いなど、他者と競い合うことは、学校教育では否定をされながら、実際には当たり前の前提となっている。切磋琢磨することで個人の能力が磨かれ、企業はより良い商品を安く提供できるようになり、社会全体が豊かになる。
経済学や教科書は、資本主義の基礎は自由な競争にあると説く。競争によって価格は下がり、新しい技術が生まれ、消費者が恩恵を受けるという論理である。競争こそが資本主義を前進させる原動力である。敗れるのは自己責任であり、勝ち抜いた勝者だけが富を手にする権利を得る。
争いは「労働者を安く働かせる罠」支配階級が競争を嫌悪する本当の理由
しかし、頂点に君臨する資本家たちの目に映る世界は全く異なるようだ。頂点に立つ者たちにとって、競い合うことなど百害あって一利なしの愚かな行為に過ぎない。大衆が熱狂する競争というゲームは、労働者や小規模な経営者たちを争わせ、安く働かせる罠に過ぎない。支配階級が目指すのは、競争の勝者になることではない。争うという概念自体を完全に消し去ることである。
ウォール街の帝王、モルガンが何よりも嫌悪していたものこそが競争であった。無秩序な競争を、破壊的で無駄で混沌としていると見なしていたのだ。
19世紀後半のアメリカの鉄道業界はまさに競争社会であった。儲かると分かれば無数の鉄道会社が乱立し、乗客を奪い合うために運賃の値下げを連日繰り広げていた。運賃を下げれば利益は減る。結果として多数の鉄道会社が倒産し、投資家に多大な損害を与えていた。
モルガンにとって、このような競争状態は決して我慢ならないものであった。経営の目的は、安定的に確実に莫大な利益を生み出し続けることである。モルガンにとっては値下げ合戦や過当競争は、経済全体を蝕む排除しなければならない病気だった。秩序ある統治こそが利益の源泉であると確信していた。モルガンは議会で、自らの世界観を決定づける証言を残している。
「少しの競争は好きだが、私はむしろ協調を望む」